医学界新聞

寄稿

2019.06.17



【視点】

患者・家族が求める精神科医のあるべき姿とは

夏苅 郁子(やきつべの径診療所)


 確固たる原因も治療法もいまだ見つかっていない精神疾患では,担当する医師の態度や言葉が患者の予後に大きく影響する。担当医から不本意な対応をされたら二度と診療を受けたくないだろう。受診拒否に対して一番先にやるべき対策は,患者に病識を持たせる以前に,「受診してよかった」と思われるような診療をすることではないか。

 では,そう思ってもらえるような診療とは,どんな診療なのだろうか。筆者は2015年に全国の患者・家族へ「精神科担当医の診察態度」を評価してもらうアンケート調査を実施し,7234人から回答を得た。選択式回答を論文1)にまとめた一方,論文には盛り込めなかった数千人の自由記述の中にこそ患者・家族の本音があると考え,現在,解析を続けている。

自由記述に現れた患者・家族の本音

 自由記述の中から,言われてつらかった医師の言葉,態度を一部紹介する。

 「聞いているだけという感じがあり,医師は薬を買うための自動販売機的存在で,医師そのものに対する関心がなくなってきている」「説明を求めるとキレる」「患者に多くを語らせない,というオーラが出ていて怖いときがある」「自分は精神科のことは何でも知っていて,他の病気との薬の副作用は全くわからないと平気で言って,自分が一番偉いと思っている」「全てこちら側に失敗の原因があるように説明を受けると,繰り返すごとに自分自身を失ってしまう」「話を途中で遮られることがある」「日によって気分にムラがあり,それが患者にもわかるぐらい伝わってくる」「態度がコロコロ変わり困っている」「あまりに寡黙」「本人の言いたいことを聞いてくれる人という感じで,真の問題点に関して『それは難しいねえ』と答えるのみ」「『あなたは一生治りません。将来を諦めてください』と言われた」「今生きることで精一杯の当事者に対して『将来はどうしたいのですか』と問わないでほしい」

 極端な例かもしれないが,これに近い対応に心当たりはないだろうか。時間や人手がない中で,精神科医には専門性と思いやりのある診療というスーパーマン的な対応が求められる。

 それを実現するための答えも自由記述の中にあると考える。医師から言われてうれしかった言葉,態度は何だろうか。質問への回答を一部紹介する。

 「この状況をよく乗り越えましたね!」「あなたは心を開いて話をしてくれる,いい患者さんです」「一緒に頑張れるよう,よくなるイメージを共に持ちましょう」「改善できた部分を認め,褒めてくれたときの,先生のにこっと笑った顔がうれしかった」「表情が明るくなったことや体型の変化などによく気付いて言葉にしてくれること」「できないことでも,少しでもできればいい」「真剣に治そうとしていないから治らないのかと質問したとき『きちんと診察に来て薬も飲んでいるので真剣に治そうとしていると思いますよ』と答えてくれた」「7年の間に5人も先生が変わり,皆若い先生だったがどの先生もゆっくり話を聞いてくれ患者を下に見ることもなかった」

 若手医師であっても,同じ目線で診療する姿に患者・家族は経験不足を上回る感謝の気持ちを持っていることを知っていただきたい。われわれの日常でも,友人が笑顔で言った何気ない言葉で気分が晴れた経験は多々あるだろう。理論や技法以前に,「あなたを心配しています」という思いが相手に伝わるような話し方は当たり前に必要なはずである。患者・家族は,当たり前の「人としての」会話を求めている。

 医療制度を変えなくても予算や時間がなくても,小さな気使いや声掛けの積み重ね,工夫が患者―医師関係の信頼につながる。医師には耳の痛い文言も連ねたが,自由記述に現れた患者・家族の本音はまさに「精神科医のあるべき姿」を教えているのではないだろうか。

参考文献
1)夏苅郁子,他.「精神科担当医の診察態度」を患者・家族はどのように評価しているか――約6,000人の調査結果とそれに基づく提言.精神誌.2018;120(10):868―86.


なつかり・いくこ氏
1981年浜松医大医学部卒。同大精神科助手,神経科浜松病院などを経て,2000年やきつべの径診療所を開設し現職。子どものこころ専門医,精神保健指定医,精神科専門医。著書に『人は,人を浴びて人になる』(ライフサイエンス出版)など。

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