医学界新聞

2019.04.15



Medical Library 書評・新刊案内


人工呼吸管理レジデントマニュアル

則末 泰博 編
片岡 惇,鍋島 正慶 執筆

《評者》小尾口 邦彦(市立大津市民病院救急診療科・集中治療部診療部長)

実臨床において必要なことをよくここまで網羅しましたね

 数年前,某出版社の担当編集者と評者の会話。

 担当者:若手医師を対象とし,人工呼吸を網羅し,かつシンプルでポケットに入るサイズのテキストを書いてくださいよ~!!

 評者の心の中:ずいぶん,注文が多いな。「ポケットに入る」ということは,例え話を使った説明は長すぎて使えないし,指導医と研修医の会話形式も使えないし,図が多いとスペースを取るし……。そもそも人工呼吸の一般論だけでなく新しい話を採り入れたいところだけれど,そうするとページ数がいくらあっても足りないし……。

 怠惰な評者は早々と白旗を上げた。

 初期研修医向けマニュアルとレジデント向けマニュアルの間で,「求められるもの」の違いは何であろうか〔本書評では後期研修医(専攻医)をレジデントとする〕。

 評者が考えるに,研修医向けマニュアルはできる限りシンプルであるべきだ。ついつい「あれも,これも」と盛り込みたくなるが,初学者には知識の混乱を招くノイズとなりがちである。極論を言えば,100回のうち95回正しいのであれば,「これが全て正しい!!」と言い切ることも時に必要である。あくまでも,極論ですよ。王道の知識を盛り込むことが重要であり,木で例えるなら「幹をしっかり太く」しなければならない。

 一方,レジデントマニュアルに求められるものはおそらく異なる。ある程度,知識や経験があることを前提とし,臨床で出会うリアルな問題に対応できなければならない。読者は重要な基礎的事項にまだまだもろい面があり,これらはしっかり押さえたい。新しい知識も,これから広く受け入れられる可能性があるものなら盛り込みたい。木で例えるなら「幹を太く育てながら,豊かな枝も茂らせたい」のである。

 評者も相当お世話になった医学書院の「レジデントマニュアル」シリーズに,このたび「人工呼吸管理」が加わった。

 少し人工呼吸管理に携われば,さまざまな疑問が湧いてくる。例えば,人工呼吸中,患者に吸入気管支拡張薬を投与したい時,回路にスペーサーを挟まなければならない。人工呼吸回路では吸入気管支拡張薬にロスが出るため,通常使用量の数倍投与することになるが,意外にもそれに触れられている成書はほぼない。本書には吸入気管支拡張薬の投与法まで解説される。

 例えば,人工呼吸管理において患者自発呼吸との非同調に悩まされることは多いが,やはり意外にも解説されることは少ない。本書では,さまざまな非同調の背景まで解説される。つまり,実臨床において必要なことが盛り込まれているのである。ただし,優れた本を自分のものとするためには,何回も読み込むことが重要である。2回目には1回目に見えなかった世界が,3回目には2回目に見えなかった世界が見えてくる。

 これまで評者はレジデントに,「『感染症レジデントマニュアル』(藤本卓司先生著)を押さえれば,一般臨床医は十分やでー」と指導してきた。今後,評者は「『人工呼吸管理レジデントマニュアル』を押さえれば,他のたいていの医師を凌駕できることは間違いないでー。ただし気合を入れて何回も読んでやー」と説くこととなるのである。

B6変型・頁216 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03834-8


その呼吸器診療 本当に必要ですか?
あるのかないのかエビデンス

倉原 優 著

《評者》大藤 貴(国立国際医療研究センター国府台病院呼吸器内科)

エビデンスがあるか,ないか,呼吸器内科の現在(いま)がここに!

 「それってエビデンスがあるんですか?」

 上級医とのコミュニケーションやカンファレンスにおいて,誰もが言われたことがある言葉ではないだろうか。そして,誰しもその言葉にネガティブな印象を持っている。何となく「根拠のない治療をしている」とか,「こんなことも知らないのか」と言われたような気分になるからである。

 科学としての医療に「エビデンス」は欠かせない。われわれ医師が医療で決断をする場合,科学的根拠があるか,ロジックは矛盾していないか,常に考え続けなければならない。医師として働いていく上で,どこまでわかっているか,どこからはわからないか,を常にアップデートしていく必要がある。

 本書の著者は有名なブログ「呼吸器内科医」の倉原優先生である。彼のブログにはいつも最新の情報が掲載され続けている。私もそのブログの読者になり,はや10年が経過した。この長い期間,少しずつ積み重なった知識は想像も及ばない。その膨大な知識で,呼吸器内科の全般に及ぶ分野に切り込んだのが本書である。どこまでわかっているのか,わかっていないのか,そして今,どうすればいいのか。まさに呼吸器内科のカッティングエッジである。最先端であり,かつ意見も分かれてくる領域を扱っている。

 内容は「すべての呼吸器疾患の患者さんに対する全力聴診」という項目から始まる。すぐに引き込まれて,最後の項目まで夢中で読んでしまった。同意するところが多数あるが,自分ではこうかもしれないと思うところもあった。読んでいくうちに,改めて自分自身の知識とプラクティスを見直す体験をした。これこそが本書の醍醐味(だいごみ)であると考える。

 全ての項目についてお薦めできるが,特に参考になったのは「間質性陰影のある患者さんに対する絨毯爆撃的自己抗体採血」である。全ての呼吸器内科医が昔から,そして将来も考え,悩み続けている項目ではないだろうか。同じグループに所属していると,他の施設のプラクティスはわからない。こういう考えもあるのか,こうしているのかと参考になった。そして,同じ場面で今後は自分ならどうしようか,と考えた。

 私は本書を「現場で働く呼吸器内科医」全てにお薦めする。いつか読むのではない,この本の知識が古くならない今,手に取って読んでいただきたい1)。生きた知識がここにある。

 なお,本書の163ページには,倉原先生の著作物で登場する「吸入薬戦国時代」という言葉のルーツが記載されています。確かに,当時私が息子と「仮面ライダー鎧武」を見ていて,「時は! 吸入薬戦国時代!」と天啓を得たことから生まれたパワーワードです。やられましたね,とりあえず私もパクられ続けていくとおいしいのでこのままよろしくお願いします。でも東映さんにごめんなさいをしないといけないと思います! え,僕がですか??

参考文献
1)林修.いつやるか? 今でしょ!――今すぐできる45の自分改造術!.宝島社;2014.

A5・頁336 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03672-6


《ジェネラリストBOOKS》
トップランナーの感染症外来診療術

羽田野 義郎,北 和也 編

《評者》上田 剛士(洛和会丸太町病院救急・総合診療科部長)

外来での感染症診療を実りあるものにする書籍

 「外来感染症についてこの1冊があれば対応できる!」というコンセプトのもと編集されたという本書は「『かぜに抗菌薬はダメ』だけじゃ不十分!」という感冒対策にはじまり,髄膜炎や感染性心内膜炎といった重症細菌感染症は当然のこと,寄生虫やダニ媒介感染症,レプトスピラなど,さほど症例は多くはないが誰もが出合うかもしれない疾患に至るまで,感染症全般を広くカバーしている。妊婦や授乳婦に対する処方,感染対策,成人向けキャッチアップ接種など痒いところにも手が届く構成だ。OPAT(外来で行う静注抗菌薬投与)や抗菌薬皮下点滴に関して紙面を割いている書籍は多くはないが,本書では外来で役立つこれらの項目にも触れている。さらには感染症法の届け出についても言及しており「この1冊があれば対応できる」という言葉に偽りはない。

 一方で,これほど広い範囲のエッセンスをよくぞ片手サイズの300ページ余りというコンパクトさに濃縮していただいたと思う。臨床医から見て必要なことを詰め込みながらも小見出しで読みやすくまとめられた文章に,時間を忘れ読み進めてしまう。なじみやすい文章は理路整然と記述されている文章のみならず,全章にわたり編者のコメントが付記されているためかもしれない。あたかも講演会か座談会に参加しているかのような臨場感を感じさせる。このやりとりが本書をひときわ面白いものにしている。

 本書にはさまざまな見どころがある。まずは皮疹や口腔粘膜病変のカラー写真が多いことである。百聞は一見に如かずという言葉通り,さまざまなclinical pictureが随所にちりばめられており,読者の理解を深めてくれる。

 日本におけるホスミシン®は海外と異なり吸収率が悪いなど,知らなければ陥りそうなピットフォールにも言及し,パルボウイルス“B19”の名前の由来などトリビアが含まれていることも魅力の一つだ。基本を押さえたい研修医だけではなく,一皮むけた臨床医・指導医になりたい医師にとってもお薦めの一冊と言える。

 「私の失敗談」では教育的な症例が提示されている。他山の石という言葉があるが,こういった失敗談がトップランナーにより語られることは少なく,読者にとっては貴重だ。

 35人の熱意あるトップランナーたちによる至極の一冊が,貴方の外来における感染症診療をより実りあるものにしてくれることだろう。

A5・頁356 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03633-7


プロメテウス解剖学 コア アトラス 第3版

坂井 建雄 監訳
市村 浩一郎,澤井 直 訳

《評者》徳田 信子(獨協医大教授・解剖学マクロ)

知の道を照らす「読める」アトラス

 美しい。まず心惹かれるのは,圧倒的な美しさである。もしかしたら,美しすぎるのかもしれない。少なくとも,実際のヒトの身体に本書のように鮮やかな彩りはない。昔の教科書のごとくモノクロの濃淡で示すほうが,ヒトの姿に近いのかもしれない。それでも,今,この美しさは必要だと思う。

 アトラスを手に取る読者のほとんどは,医療者の卵である。ヒトの身体を知るための長い道のりを歩み,その向こうにある診断や治療への学びをめざす。かつて自分が解剖学を学んだ頃は,文字情報と少しの図を頼りに,友人たちと相談しながら実習に取り組んでいた。今も,それを理想の学び方だとする意見もある。しかし,進む方向がわからず,解剖学の入り口で力が尽きてしまう学生も多く見てきた。本書は,ページをめくるたびに,さまざまな方向・深度から見た美しい構造物が現れる。もし,何もわからずに出発しても,ページの進みに合わせ,知らず知らずのうちに身体を巡る歩みへいざなわれる。

 学生が順調に歩き始めたとしても,道に迷うことがある。図に惹かれて読み進め,ふと振り返った時,学びのポイントを見失っていることに気付く。来た道を戻り理解して再び歩み始めるには大変な労力が必要である。本書は,そんな場所で,そこまでの数ページのポイントをまとめた「表」が登場する。理解しながらじっくり読み進めた学生であれば,そこで知識が整理できる。ぼんやり見てきた学生も,表を参照して図を振り返り,学びの道を修正できる。本書はアトラスでありながら,「読む」テキストとしての役割もしてくれるのである。

 もう1つ,学ぶ道のりの半ばで心が折れてしまうことがある。それは,学ぶ意義を見失う時。ヒトの身体を知ることは大切だと誰でも知っている。ただ,解剖学の学びは,「この知識はいつかどこかで役に立つ」という気持ちで乗り切れるような量ではない。本書は,そんな気持ちをくみ取るかのように,とてもいいタイミングで「臨床BOX」という至れり尽くせりのコラムが備えられている。もちろん,試験前で時間がない時なら読み飛ばせる。「この学びは医療者にとって大切な知識である」という確信を得ながら読み進めていけば良いのだ。

 人類に火をもたらしたプロメテウス。火のおかげで夜が明るくなり,人類は獣たちを凌駕する存在になったと言われる。本書が,次世代の医療を担う学生たちの灯火となり,病と人々を癒やせる存在として成長させる一助となることを期待している。

A4変型・頁768 定価:本体9,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03535-4

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