医学界新聞

2018.12.10



どう判断する? 救急現場の鎮静・鎮痛


 救急現場において患者に痛みや不快感をもたらす処置を行う際,どのような手順で鎮静・鎮痛を行えばよいのか。薬剤を用いて患者の意識レベルを下げ,患者がより快適に処置を受けられるようにすることを「処置時の鎮静・鎮痛」と呼ぶ。日常の診療現場で実施する可能性があるものの,本邦では体系的な教育が十分になされてこなかった。本紙では,第46回日本救急医学会総会・学術集会(11月19~21日,パシフィコ横浜)の会期中にPSA(処置時の鎮痛鎮静)研究会が開催した,処置時の鎮静・鎮痛を学ぶ「第32回セデーションコース(エッセンシャル版)」の模様を紹介する。

実施のメリット・デメリットを踏まえ,系統立てて検討を

 前半の講義では,同研究会代表幹事の乗井達守氏(米ニューメキシコ大)が説明に立った。鎮静レベルには深さがあり,時間や鎮静薬の投与量によって連続的に変化するものと解説し,「安全だが,合併症や有害事象が起こり得る処置」と注意点を示した。

 続いて,本間洋輔氏(東京ベイ・浦安市川医療センター)が手技前の評価と手技の手順について解説した。処置時の病歴聴取には通常の病歴聴取と同様に「AMPLE」と「ASA分類」を用い,特に緊急時の気管挿管と薬剤使用にかかわる合併症を意識する必要がある。続いて,患者把握,処置の内容把握を行いプランの検討に入る。プランでは,求める鎮静レベルの深さ,鎮痛薬併用の有無,患者のリスク因子などを加味して,使用する薬剤とその投与量・経路を決める。手技前評価の後は,使用物品を確認する項目である「SOAPIER」によって,Suction(吸引),Oxygen(酸素),Airway stuff(気道確保器具),Pharmacy stuff(薬剤),IV-line(静脈ライン),Equipment(モニター機器),Rescue(急変時用の物品)を手元に準備する。実施に当たっては,「事前に計画した上で,患者や家族への説明と同意取得を行うこと」「鎮静は絶対に1人で行わず,複数の医療者で行うように」とアドバイスした。

 健和会大手町病院の吉村真一朗氏は,鎮静薬の薬理を踏まえ「投与量は理想体重を基準に設定し,少量分割・持続投与が安全」と指摘。続いて説明に立った帝京大病院の竹内慎哉氏も,高齢者に予測される合併症を念頭に,薬剤は「少量ずつ,ゆっくり,間隔を空けて,患者の反応を見ながら投与すること」と強調した。

 講義後,参加者は小児・成人の鎮静・鎮痛のシミュレーションを体験した(写真)。このうち,小児のグループでは「母親と自転車に乗っていた1歳6か月の幼児が自転車ごと転倒し,口唇裂創となり受診した事例」を用い,鎮静のシミュレーションに臨んだ。主治医役の参加者はAMPLEに沿って母親役のスタッフに病歴聴取を行い,幼児が苦痛で動くことを勘案して鎮静の実施を判断。母親には治療方針や鎮静後に起こり得る様子の変化などを事前に説明し,同意を得て薬剤の検討に入るところまでをシミュレーションした。

写真 シミュレーションの模様
主治医役(右)の参加者が母親役(左)に,口唇裂創の処置に鎮静薬を用いることを説明する場面。振り返りでは,「手順を系統立てて進めることが大切」「薬剤の選択で悩んだ」などの声が上がった。

 本セミナーを主催した本間氏は,「米国のモデルを参考に取り入れた本研修の内容は,日本の医療現場の実情に合わせ工夫を重ねてきた。看護師コースも開発し展開している。今後は,看護師も対象に加えながら全国に広げていきたい」と語った。研修の予定などは同研究会ウェブサイトに随時掲載。

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