医学界新聞

寄稿

2018.03.12



【視点】

「学ぶ専門家」医学生が医療の選択にかかわる意義

荘子 万能(大阪医科大学医学部医学科6年/Choosing Wisely Japan Student Committeeメンバー)


 過剰医療の適正化を入り口に,患者と医療者の対話促進を目的として,Choosing Wiselyキャンペーンが2012年に米国で始まり,現在世界20か国超に広がっています。16年には日本でもChoosing Wisely Japan1)が立ち上がり,活動を始めました。

 本キャンペーンでは,米国内科専門医認定機構財団が旗振り役となり,「差し控えることを検討すべき医療行為」のリストを各専門領域の学会とともに作成してきました。18年2月現在,全米で80ほどの学会が500以上のリストをウェブで公開しています。また,そのリストは医療者向けだけでなく,患者・市民向けにもわかりやすく書き換え,公開されています2)

 「過剰医療の適正化」が強調されやすいためか,Choosing Wiselyは,「医療をやらないことを推進している」と思われがちですが,「やるかやらないか」ではなく,「なぜやるか,なぜやらないかについて,患者と医療者の間で対話する」ことが本質です。

 では,患者と医療者の対話には何が必要でしょうか。近年,患者―医師関係の中で,患者を「自分自身について最もよく知る専門家」としてとらえ,患者本人の希望や価値観,医学的エビデンスと医療者の専門性を統合し,患者と医療者の間で協働的に意思決定することが重視されています。ただ,往々にして両者の間にはすれ違いが生じやすいとされています。医学生は「学ぶ専門家」として,患者視点や医療者視点を学びながら,両者をつなぐことはできないでしょうか。Choosing Wisely Japan Student Committee(医学生・研修医部会,CWJ-SC)は,その可能性を探るプラットフォームとして立ち上がりました。

 CWJ-SCは,全国20以上の大学や病院から約100人のメンバーで構成されています。活動は主に「学ぶ」「議論する」「発信する」の3つです。各国のChoosing Wiselyリストの翻訳を通じて,Choosing Wiselyや患者―医師関係について学び,全国各地で勉強会を開催し,論文3)・学会発表などの形で発信してきました。16~17年には,医学生・研修医が心に留めたいリストを作成しています。

1.上級医に質問や提案を行うことをためらわない
2.Evidenceのあるなしにかかわらず,情報を鵜呑みにしない
3.Evidenceだけではなく,Valueの大切さも忘れない
4.患者さんとお話しできる機会を逃さない
5.検査や治療の妥当性を常に考える姿勢を失わない

 米国,カナダ,ニュージーランド,オランダ,ノルウェーなどでも医学生・研修医部会が立ち上がり,STARS(Students and Trainees Advocating for Resource Stewardship)コミュニティとして世界的に活動が広がっています。17年10月,タイで開かれたWONCA(世界家庭医機構)Asia Pacific 2017でCWJ-SCの活動についての発表が,Best Poster Presentation Awardを受賞しました。アジアでもChoosing Wiselyについて考える機運が高まっています。

 Choosing Wiselyを単に「輸入」するのではなく,日本の文脈に照らし,さまざまな立場の視点を持ち寄りながら,一つひとつ丁寧に議論を重ねることが重要です。医学生,研修医の皆さんのご意見をお待ちしております。

参考文献・URL
1)Choosing Wisely Japan.
2)Choosing Wisely. Patient resources.
3)S. Mano, et al. Dawn of choosing wisely Japan student committee. J Gen Fam Med. 2017;18(6):487-8


そうし・まの氏
2016年に有志の医学生とともにCWJ-SCを立ち上げる。臨床を起点に,医療とさまざまな分野とをつなぐ「ハブ空港」のような医師を志している。総合診療医・徳田安春氏とのポッドキャスト「徳田闘魂道場にようこそ」のMCを務める。

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