医学界新聞

2017.10.23



Medical Library 書評・新刊案内


看護師長ハンドブック

古橋 洋子 編

《評者》高橋 京子(前・福島県看護協会会長)

看護師長をサポートする,これまでにない一冊

 医療技術の高度化,患者・家族の持つ価値観の多様化,チーム医療の推進など,医療を取り巻く状況が変化する中で,看護師長には,多職種と協働しつつ,これまで以上に看護チームのリーダーとして役割を発揮することが求められる時代になりました。看護師長は最前線で提供されている看護が適切であるかを判断しつつ,よりよい看護が提供できるようにスタッフの指導・育成をする立場にあると言えます。言い換えると,生涯にわたって学び続ける専門職を育成する「教育者」としての意識を持ち,行動することが看護師長の職務になったと言えるでしょう。

 一般に職位の変化は,キャリアの危機状態とされ,危機には「危険」と「機会」という意味があると言われています。看護実践者(ジェネラリスト)から病棟責任者である看護師長になるということは,役割行動の変化を意味します。新しい職位を恐れずチャンス(機会)ととらえ,この本に沿って学習し,考え,行動することにより,看護師長という職位が新しい「あなた」を育てることになると思います。本書は看護師長を支援し,疑問に答えてくれる良書です。

 序章「看護師長になるということ」では,看護師長は病棟のトップ,責任者,管理者であると述べられており,そのあるべき姿として,「看護師育成に関わる師長の姿と仕組み」(p.3,図1)が示されています。25年という長きにわたる研究から導き出されたこの概念図は看護師長の根幹をなし,かつ普遍的なものと理解できます。また「人を育てるとは」の項で,「1人ひとりをどのように教育するか(中略)は管理者の腕にかかっている」(p.5),「1人の人間として成長していくことは,組織の活性化にもつながる」(p.6)と,重要なことが書かれています。

 第1章「看護師長に求められる資質」では,「価値観をはっきりさせる」,「アサーティブな人になる」などが挙げられています。特にアサーティブであることはストレスマネジメントの一つとして大事であるとも述べられており,自分の経験と重ねてもうなずくばかりです。

 第2章「看護師長になって――仕事の考え方・進め方」では,「看護師長としての最初の3か月間」「看護師長の機能と役割」のほか,看護師長の職責で起こり得るスタッフ育成について,その対象ごと〔新人看護師,中堅看護師,中途(経験者)採用者,主任,産休・育休・病休からの復帰者〕にその時々に対応できるよう細かく説明してあります。

 第3章では,「看護師長のキャリア開発」について述べられています。看護師長にとどまらず,自分のキャリアを考えることは自己の成長に重要です。

 第4章「おさえておきたいコミュニケーション技法」では,全ての場面に通じるコミュニケーションの基本から会議運営や電話対応,挨拶や文書の書き方など,ビジネスマナーとしても必要なことが述べられています。

 巻末資料には「おすすめの書籍」が紹介されており,その中の『最初の質問』(詩:長田弘,絵:いせひでこ,講談社)もぜひ読んでいただきたいと思います。

 本書は,新任看護師長のみならず,中堅看護師長にもぜひお薦めしたい一冊です。

A5・頁140 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03006-9


看護者のための
倫理的合意形成の考え方・進め方

吉武 久美子 著

《評者》髙瀬 義昌(たかせクリニック理事長)

合意形成からはじまる患者の希望に寄り添う支援

 誰かを支援すること自体が仕事の一部である職種,いわゆる援助職に就く者にとって,役に立つ支援とそうでない支援を見極め,実行することは非常に重要である。それはその支援が,時として相手の要望に耳を傾けることなしに,答えめいたものを押し付けているだけのことがあるからである。「合意形成はすべての支援の根幹にかかわる」とし,合意形成とは「関係者間で最善策を探し続けるプロセス」(「はじめに」より)とした本書に記されているのは,言い換えれば援助の本質を見失わないための考え方・進め方である。看護者の間では,患者の意思や自律を尊重するという倫理原則は広く知られるようになったが,本書を読むと,実際に患者の希望に寄り添った支援ができているのか,そこに倫理的な問題は発生していないかなど,臨床現場のさまざまな事例について今一度考えさせられる。

 医療分野で合意形成が重要になるのは,何かの決定の際に多様な意見が存在する場合である。例えば,昨今需要の高まっている在宅医療においては,多職種連携に求められるものが特に大きく,今後の在宅療養プランについて話し合う担当者会議や退院時カンファレンス,困難事例などを抽出し行政に働き掛ける地域ケア会議など,専門職同士の話し合いの場が多岐にわたる。それぞれが専門職の立場で意見するため,共通言語を見つけることが困難であり,互いの考え方を共有し合意形成を進めることは,実際のところ容易ではない。

 本書では,話し合いの設定方法から,ファシリテーションやコミュニケーション技術に至るまで,倫理的合意形成の在り方を示してくれており,現状のさまざまな課題を解決する糸口が見えてくる。合意形成の本質を見極め,実際にどのように話し合いを進めていくべきか,その道標を示してくれる本書は,地域包括ケアの仕上げに向けて,医療・看護者のみならず,介護者にも幅広くお読みいただきたい一冊である。

B5・頁132 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03129-5


多職種連携で支える災害医療
身につけるべき知識・スキル・対応力

小井土 雄一,石井 美恵子 編著

《評者》佐々木 吉子(東医歯大大学院教授・災害看護学)

災害医療システムの理解と多職種連携の促進のための必読書

 わが国は歴史的に幾多の大災害を経験し,そのたびに反省を踏まえて法の制定や改正,災害対応の仕組みの改善が重ねられ,今日の災害医療体制へと進化を遂げてきた。

 阪神・淡路大震災では,多くの“防ぎ得た災害死”を経験し,迅速な医療救護の展開と医療資源や傷病者についての情報共有の必要性が唱えられ,日本DMAT(災害派遣医療チーム)やEMIS(広域災害救急医療情報システム)が整備された。その後に発生した新潟県中越沖地震では,発災後即座にEMISによって全国のDMATに待機要請が配信され,派遣されたDMATによる医療救護活動が行われた。

 東日本大震災においても,発災後全国からDMATが参集して医療活動が展開されたが,被災地では津波被害により多くの方が亡くなり,沿岸部の医療機関の損壊や医療情報の喪失,慢性疾患の人が常用する薬剤を失ったために,急性期以降も災害関連疾患への対応や甚大な喪失を経験した人々への心のケア,公衆衛生対策などのニーズが持続し,災害対応としての新たな課題が見いだされた。また,災害応急対応者の二次災害や急性ストレス反応も問題となり,これらに従事する人々の安全確保についても後に法で明示された。さらに,さまざまな職種,個人や団体が被災地に押し寄せ,横の情報共有や役割分担が十分でなかったために,医療提供や配布資源の偏在が生じ,連携の必要性が認識され,そのための試みがなされた。

 そして,2016年に発生した熊本地震では,DMATは被災地のニーズに応じて,医療救護だけでなく情報収集や医療コーディネーションを行ったほか,被災地では,医療職のみならずさまざまな団体の連携拠点が置かれた。

 このような経過をたどる中で,法改正に伴う国や自治体の責務,それらに伴って実施された施策,さまざまな団体の結成があり,多くの聞き慣れない略語や専門用語も生まれた。一方で,災害医療においては,全ての職種が協働しなければ,その使命は達成できない状況にあり,効果的な多職種連携の実現のために,それぞれの職種が他職種の役割や事情を理解することが必須となる。

 本書は,わが国の災害医療をさまざまな職種の立場からけん引してきた38人によって執筆されており,災害医療の変遷とその要点について丁寧に解説されている。また,自然災害のみならず人為災害についての対応原則が簡潔に示されている。さらに,多職種で共通認識すべき危機対応や人道支援の原則,各職種が被災地や遠隔地においてどのような趣旨で災害対応活動をしてきたのかを,実務に携わってきた当人が分担執筆しており,読者にとって大変イメージがしやすく実用的である。

 本書は,災害医療を学ぼうとしている人の知識やスキルの習得を助ける有益な書であるだけでなく,急きょ災害対応に参加することになった人が効果的に多職種連携を進めながら実対応する上で心強い一冊となるであろう。

B5・頁208 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02804-2


看護学生スタートブック

藤井 徹也 著

《評者》佐藤 紀子(東女医大教授・看護職生涯発達学)

新入生に読んでほしい学生生活のガイドライン

 今年も新入生を迎える季節になった。大学における初年次教育の必要性はうたわれているものの,看護学を学ぶ学生にとって必要なことをガイドする教本は,あまり目にしていない。看護学を学ぶためには,各科目の単位を積み重ねていくことだけではなく,基礎から応用へ,応用から統合へと,学年進行に伴う内容を自分で整理しながら蓄積していくことが肝心である。そしていつも基礎に戻って反すうするということや,23単位以上と定められている臨地実習の学び方は非常に重要であり,看護系以外の大学や専門学校での学修とは異なっているのが特徴でもある。そして基礎教育での学修は,卒業後に看護職になり,継続的に学修するときのよりどころとなる。つまり,看護学を学ぶということには,知識を獲得することだけではなく,知識を用いて実践できることが求められる。

 本書には看護学を学ぶ学生に理解してほしい内容が,丁寧に簡潔に書かれている。目次を開いてみると,「新生活スタート!」「授業が始まったら」「資料の集め方・読み方」「レポートはこれで書ける!」「定期試験が始まった!」「臨地実習で慌てないために」と,章ごとに1年次の学習の進度に沿った内容が展開されていく。そして,終章は「充実した学生生活を送るために」でまとめられており,新入生がこれから始まる学生生活をイメージすることができる構成となっている。

 私が注目したのは,第1章「新生活スタート!」である。ここでは学校のスケジュールや履修登録のこと,そして単位についての説明がされている。高校での学修との相違を学生が理解することはなかなか難しく,学生たちは卒業の頃にやっと単位の意味を考えられるようになっていく。さらに,看護学生としての健康管理の重要性や,ハラスメントなどに関すること,悪徳商法やSNS関連のトラブル予防のことなど,最近の学生が遭遇しやすい出来事への対処が書かれている点も見逃せない。

 そして,第2章の「授業が始まったら」では,ノートづくり,グループワークの心構え,プレゼンテーションへの取り組みなどに関することが学生生活や学修に取り組むうえでのヒントになる。そして終章「充実した学生生活を送るために」では,目標を立て臨むことや卒業後についてのイメージをもつことと共に,看護研究についても触れられている。つまり,この本は,学生が自分の学生生活をイメージし,今,自分がやっていることがどこにつながっていくのかを示しており,スタディスキルやアカデミックスキルをも含んだ内容となっている。

 教員の推薦で多くの学生に読んでもらい,これからの学生生活を有意義に送るヒントを得てほしいと思う。

A5・頁112 定価:本体1,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03011-3


シミュレーション教育の効果を高める
ファシリテーター Skills & Tips

内藤 知佐子,伊藤 和史 著

《評者》武田 聡(慈恵医大主任教授・救急医学)

肩肘を張らずにシミュレーション教育を学べる

 今の医療教育は大きな変革期を迎えており,これまでの座学による受動的な教育から,自ら学びお互いに学び合う,より主体的な教育への移行が急がれています。その中で以前から注目を集めているのが“シミュレーション教育”です。

 “シミュレーション教育”というと,高額なシミュレーター(マネキン)や素晴らしいシミュレーションセンターに注目が集まりがちですが,シミュレーターやシミュレーションセンターだけがあっても質の高い教育は提供できないのは皆さんもお気付きの通りで,実は一番大切なのは指導するファシリテーターの技量です。シミュレーターがなくても,シミュレーションセンターがなくても,優れたファシリテーターさえいれば,教育の効果を高めることができるはずです。

 本書は“シミュレーション教育”の現場に即した進め方で記載されており,また本来だと難しいと思われがちな教育理論“インストラクショナルデザイン”をわかりやすい言葉と表現で説明しています。

 最初の「Prologue」では全体像を明示し,Chapter 1「シナリオ作成」ではシミュレーション教育のシナリオ作成に大切なポイントを解説。Chapter 2「ブリーフィング」では実際にシミュレーション教育を始める前の場の作り方を解説し,Chapter 3「セッション」では実際のシミュレーション教育でのセッションの進め方について細かいアドバイスが満載です。Chapter 4「デブリーフィング」では進め方に悩むことが多いデブリーフィングで自ら考えさせ,お互いに議論させる方法について解説しています。最後の「Epilogue」では,さらなるファシリテーター技術向上のための最新の有益な情報まで紹介しており,まさに“シミュレーション教育”効果を高めるファシリテーターのための“Skills & Tips”が満載の一冊になっています。

 ところどころにちりばめられた「Tips」や「Ito teacher's Lecture」ではファシリテーターに必要なアイデアや用語の説明も充実しており,さらに本書の最後の見返しにある「困った! 場面別索引」では,実際の“シミュレーション教育”の現場にこの一冊を持ち込めば,何か困ったことがあってもすぐにその解決策を探し出すことができそうです。

 このように,本書は京大の伊藤和史先生と内藤知佐子先生および「内藤組」の皆さんによる本当に素晴らしい一冊に仕上がっています。本書の中にもファシリテーターとは「愛をもって見守る人」との解説(「はじめに」より)がありますが,まさに内藤組の皆さんの“愛”を感じられる一冊です。肩肘を張らずに気軽にシミュレーション教育について学べるお薦めの一冊ですので,ぜひご一読ください。

A5・頁264 定価:本体2,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03014-4

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