医学界新聞

対談・座談会

2017.03.20



【座談会】

高齢者診療にたずさわる全ての医療職が知っておきたい
サルコペニアとフレイル

荒井 秀典氏(国立長寿医療研究センター副院長/老年学・社会科学研究センター長/日本サルコペニア・フレイル学会代表理事)
若林 秀隆氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター リハビリテーション科診療講師)=司会
葛谷 雅文氏(名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学分野教授/同大学医学部附属病院老年内科診療科長)


 加齢に伴う症候群であるサルコペニア(Sarcopenia)とフレイル(Frailty)は,要介護の主な原因の1つである。その脆弱性は不可逆なものと考えられてきたが,適切な介入により一部は維持・改善できることが近年明らかになっている。

 生命・機能予後の推定に大きく影響することからも,高齢者診療にたずさわる全ての医療者にとって無関係ではいられないサルコペニア・フレイル。本紙では,その定義と意義,実臨床での介入戦略をお話しいただいた。


若林 サルコペニアとフレイルは,老年医学領域だけでなく,臨床のさまざまな科で注目されるキーワードになってきています。国内外での関心の高まりが,論文数の増加からもうかがえます(図1)。しかし,比較的新しい概念のため,重要性は認識されても,定義や介入方法は十分に知られていないと感じることがあります。そこで今回は,近年の大きな動き(表1)を踏まえながら,それぞれの概念と意義,介入戦略について議論したいと思います。

図1 PubMedに新規収載された論文数の推移(2017年3月7日検索)
“Sarcopenia”や“Frailty”を含む新規論文は年々増加し,2011年以降急速に増えている。

表1 サルコペニアとフレイルをめぐる近年の動き

介入により改善できる高齢者の可逆的な脆弱性「フレイル」

若林 荒井先生,まずはフレイルの歴史と定義を教えてください。

荒井 フレイルの研究は古くは1980年ごろからありましたが,研究が盛んになったのは21世紀に入ってからです。1999年にRockwoodらが,疾病や老年症候群などが積み重なるほど要介護率と死亡率が高いことを指摘し,高齢者総合的機能評価(CGA)のアプローチでフレイルを評価しようとしました。それに対し,「体重減少」「筋力低下」「易疲労感」「歩行速度低下」「身体活動低下」という5つの要因の有無でフレイルを評価する表現型モデルを2001年にFriedらが提唱したのです。現在では多くの研究者がFriedのモデルをもとにして研究を行っています。

 フレイルには3つの特徴があります。それは,①加齢による脆弱性,②介入による可逆性,③要因の多面性です。加齢に伴い,さまざまな機能低下や予備能力低下が引き起こされます。それが一定のレベルに至ると,外的なストレスに対して脆弱性を示すようになります。さらに,加齢だけでなく,疾病や薬剤,栄養,生活習慣といった身体的・精神心理的・社会的要因が影響を及ぼすことがわかっています。

若林 フレイルは,「健康」と「要介護」の間の状態という理解で良いでしょうか(図2)。生理的予備機能は低下し,家事などのIADL(手段的日常生活活動)には少し支障が出ているものの,ADL(日常生活活動)は自立しているというイメージです。

図2 フレイルの位置付け
フレイルを維持・改善することで要介護期間を短くできると考えられる。

荒井 そうですね。実はフレイルの定義は明確には定まっておらず,要介護状態をフレイルに含める定義もあります。しかし,いわゆる非自立期は要介護になってからを示します。可逆性という観点から,要介護をフレイルに含めない立場を取っています。

若林 「可逆性」は,特に重要な要素ですね。リハビリテーション(以下,リハ)の現場では,要介護状態を維持あるいは改善しようと日々取り組んでいますが,大変な努力を要します。フレイルのうちに介入すれば,維持・改善が比較的容易だということですか。

荒井 はい。加齢による脆弱性は,かつては不可逆な状態だと思われ,“老化現象だから仕方ない”と,介入の対象になっていませんでした。しかし,適切な介入をすることで改善することが明らかになりました。フレイルを適切に定義し,早期に診断・介入することで,要介護になるリスクを減らし,健康寿命を延ばせると考えています。

高齢者のサルコペニアはあらゆる診療科で不可欠の視点

若林 サルコペニアは,フレイルの最も大きな原因の1つとしても注目されています(図3)。葛谷先生,サルコペニアの定義を教えてください。

図3 フレイルサイクル
サルコペニアを含む多様な要因が相互に影響し合ってフレイルが悪化していく。

葛谷 サルコペニアは,「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少」に特徴づけられる症候群で,「身体機能障害,QOL低下,死のリスクを伴うもの」と定義されます。サルコペニアもフレイル同様,かつては加齢によるやむを得ない変化だと思われていました。しかし今では,適切な介入により改善すること,加齢以外にも原因があることがわかっています。

若林 どのような原因があるのですか。

葛谷 活動量の低下や,がんや臓器不全などの疾患,廃用,栄養障害などが影響すると指摘されています。加齢変化のみによるサルコペニアは「一次性サルコペニア」,その他の要因もかかわるものは「二次性サルコペニア」と呼ばれています。

若林 2010年に二次性を含むサルコペニアの定義が示され,さまざまな疾患がサルコペニアやその原因と関連付けて説明できるようになったことは,非常にインパクトがありました。最近では,日本肝臓学会が肝疾患のサルコペニア判定基準を出しました。サルコペニアの嚥下障害の診断フローチャートも出ましたね。

葛谷 サルコペニア・フレイルは高齢者の生命・機能予後の推定に影響します。今後は,あらゆる診療科において重要な視点になると思います。

プライマリ・ケアではまずはスクリーニングを

若林 では次に,実臨床における介入戦略にいきたいと思います。病院や診療所に勤める医師は,どうやって診断していけば良いのでしょうか。

葛谷 サルコペニアには明確な診断基準があります(表2)。ただ,中には正確に測定するのが難しい項目も含まれています。プライマリ・ケアの現場では,厳密な診断基準にこだわるよりも,スクリーニングをして専門機関につなげることが重要です。

表2 サルコペニア診断基準(AWGS基準)

 筋量については,特定健康診査の腹囲のように,下腿周囲長からある程度推測できます。カットオフ値には議論がありますが,日本人なら下腿周囲長は約30 cmという印象です。上腕周囲長とキャリパーで測定する上腕三頭筋部皮下脂肪厚から上腕筋周囲長や筋面積を出す公式もありますが,臨床の現場ではそれほど一般的ではありません。

荒井 下腿周囲長測定は,男性の場合は有用ですが,女性の場合は筋肉の質やサルコペニア肥満的な要素,むくみの個人差が大きいため,あまり参考にならない印象なので,上腕周囲長測定を使うほうが良いと思います。

若林 歩行速度は椅子からの立ち上がり(チェアスタンド)などで代用できます。5回を10秒でできるかが目安です。

葛谷 略式になりますが,自分の歩く速度が速いか遅いか,信号が青のうちに渡りきれるかなどの主観による問診でもある程度のスクリーニングは可能です。

若林 フレイルの診断はいかがでしょうか。

荒井 サルコペニア同様,プライマリ・ケアでは広くスクリーニングすることが優先です。自治体における二次予防事業対象者抽出のマス・スクリーニングに2006年から使われていた「基本チェックリスト」は,フレイルの三要素である身体的,精神・心理的,社会的側面を含む優れたツールです。日本独自のもので,客観的指標が含まれないため国際比較などには使えませんが,スクリーニングを目的にする分には問題ありません。

若林 IADL,運動・転倒,栄養,口腔機能,閉じこもり,認知症,うつに関する25項目からなる自己記入式の総合機能評価ですね。

荒井 より簡便なツールとしては,Friedのモデルを改良してつくられたJ-CHS基準(表3)がお勧めです。身体的フレイルに限る基準ですが,客観性もあって良いと思います。当センターが進めるフレイル・レジストリでも基準として活用しています。

表3 フレイル評価方法(J-CHS基準)

介入においては,内科医,専門医,多職種の連携が不可欠

若林 診断したら即介入,というわけにはいきませんよね。その患者さんがなぜサルコペニア・フレイルになっているのか,原因を把握する必要があります。どういった点に注意すべきでしょうか。

荒井 介入のためには,フレイルの病態を理解する必要があります。冒頭に述べたように,フレイルにはさまざまな要因が影響します。まずは最大の原因であるサルコペニアの有無を確認し,次に薬の副作用の有無を確認,ポリファーマシーの改善を含めた薬の見直しを行います。併存疾患にも注意が必要で,腎機能や呼吸機能,心機能の低下などを伴う身体疾患は,疾患自体をしっかりとマネジメントせねばなりません。認知機能低下を含む精神心理面への対応や,社会参加の支援も必要になるでしょう。

若林 身体疾患に関しては,内科と協働して,疾患の管理とフレイルの評価を同時に行うことが求められます。フレイルに関与している疾患の中での優先順位を決め,内科医にもサルコペニアやフレイルを視野に入れた介入をしてもらう必要があります。

葛谷 サルコペニアの場合も,まずは二次性かどうかの鑑別をし,背景に疾病があればその管理との兼ね合いを考えます。その上で,栄養不足や運動不足などを評価し,治療を行います。

若林 サルコペニア・フレイルに対する介入を行う際には,栄養療法や運動療法の具体的なノウハウが医師に少ないことも問題になりそうです。

葛谷 そうですね。必要な栄養素の量や摂取カロリーが数字でわかったとしても,その目標のために何を食べさせたら良いかまでわかる医師は少ないでしょう。治療・介入においては他職種との連携が重要です。当院の場合はリハ外来がないので,地域資源の把握,地域の他施設との連携も不可欠になっています。

若林 最近は管理栄養士や理学療法士がいる診療所も増えていますよね。もし栄養や運動について細かいオーダーをする知識がないのであれば,介入すべき患者さんを発見し,他職種につなげる役割を果たすだけでも十分だと思います。私の場合は,「炎症が強いときには筋トレ不要」「NSTに依頼」などと指示し,運動と栄養のコーディネートをある程度しています。

荒井 一番良いのは,多職種チームで取り組むことです。当センターは,「ロコモフレイル外来」を設置しているので,栄養だけでなく,運動,ソーシャルワーク,ポリファーマシーについて,多職種で意見を出し合って方針を決めています。身体・精神心理・社会という3つの要因が相互に負の作用を及ぼし合うのを防ぐためには,多職種で情報共有すると進めやすいです。

 運動指導は,単純なサルコペニアであればレジスタンス運動と有酸素運動の組み合わせ,ロコトレで行うような片脚立ちやスクワットから行っています。ただ,関節疾患や重度の肥満など,自力での運動は困難な患者さんもいます。そうした場合は,機械的なアプローチも必要です。

葛谷 自力での運動ができる方でも,運動を継続してもらえるかという問題がありますよね。

若林 ある程度ADLが自立している場合,IADLに問題があってもモチベーションはあまり上がらないものです。

葛谷 指導するだけでなく,その後の仕掛けが大事だと思うんです。市町村の介護予防事業の運動教室など,地域包括ケアシステムとリンクさせていくかたちが一番効果的なのではないでしょうか。

医原性サルコペニア防止へ医療者,患者の意識改革を

若林 私が課題に感じているのは,医原性サルコペニアです。何らかの疾患で入院した際,例えば誤嚥性肺炎であれば,治るまで1~2週間ベッド上安静,禁食,水電解質輸液のみとなりがちです。それによりサルコペニアが急速に進行し,寝たきりや嚥下障害を起こし,要介護状態に至るケースを数多くみています。

葛谷 「栄養」と「運動」両方に問題がありますね。1つには,これまでは栄養管理というと,メタボリックシンドローム中心に考えられてきたことの弊害があると思います。管理栄養士はカロリーを減らす方向の実践を多くしてきているため,高エネルギー食や高タンパク質食に慣れていないようです。栄養が必要なことはわかっていても,経口摂取は躊躇して末梢静脈栄養のみにしてしまうというケースもあるようですね。

荒井 嚥下障害が重度な場合は仕方ありませんが,オーラルフレイル予防の観点からも,早い段階できちんと評価した上で,判断すべきですね。

若林 ADLに障害がある高齢者のHbA1cも7%未満にしようとして,過度にエネルギーを制限した食事を提供するといった状況も散見されます。

葛谷 去年5月に,「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同で発表されました。ADL低下や認知機能障害,併存疾患がある場合,さらに重症低血糖が危惧される薬剤の使用がある場合は,血糖コントロール目標値が高く設定されています。2学会合同でメッセージを出したことで,今後は年齢やADL,認知機能を考えて栄養管理されるようになると期待しています。

若林 他の疾患についても患者さんの状態に応じた管理目標が立てられるようになると良いですよね。例えばCKDは現状の診療ガイドラインに則ると,高齢者でも厳格なタンパク制限が必要です。糖尿病同様,高齢者や障害者という点を鑑みた落としどころがあるのではないかと感じています。

葛谷 あわせて,国民への啓発も必要だと思います。高齢になっても,壮年期・中年期に受けた指導のままの食生活をし,低栄養状態に陥っている例を目にすることがあります。

荒井 高齢者に減量の相談をされることもありますが,75歳以上の場合,BMI30以上などの過度な肥満や体重による膝関節への影響がない限り,食事制限による減量は必要ないですよね。

葛谷 65~75歳の間に「メタボ対策」から「低栄養対策」に転換すべきです。

荒井 もう1つ,運動については,炎症がある場合は運動ができないと勘違いしている医師が多いように感じます。

若林 レジスタンス運動などの強度が高い運動は,炎症が強い場合には禁止すべきですが,座らせる,立たせるという離床レベルの運動はむしろ行うべきです。

葛谷 「ベッド上安静」という指示を,安易に使ってしまいがちな問題もあります。指示を出したことを忘れてそのままリハオーダーが遅れたり……。

若林 ベッド上安静の指示があると,リハスタッフは坐位を取らせることもできなくなってしまいます。できるのは,関節可動域訓練やベッド上の呼吸訓練くらいでしょうか。心不全で循環動態が悪い,脳梗塞で麻痺が進行中といった場合以外は,医師と看護師が医原性サルコペニアをつくってしまわないよう,注意すべきですね。

保険診療病名への収載,診療報酬加算に向けて

若林 2016年10月にサルコペニアがICD-10に採択されました。フレイルもAge-related physical debilityの名称で以前から収載されているため,ともに国際的には疾病として認められていると言えます。今後,日本でも保険診断名に導入されることが期待されます。

荒井 サルコペニアは現在申請中です。フレイルは「虚弱」という漢方の病名が既にあるため,新規に申請すべきか,虚弱に含める形にすべきか検討中ですが,いずれにせよ一定条件に達した介入をすれば診療報酬が得られる形にしていきたいです。

若林 将来的には学会で認定制度などをつくる意向もあるそうですね。

荒井 はい。サルコペニア・フレイルの認知度向上と,診断・予防・介入の考えを共有することを目的に,医師だけでなく他の職種も対象に含めたかたちで検討しています。講習やワークショップ,レポート提出などを通して質の向上も図りたいです。

 また,サルコペニアでは診療ガイドライン,フレイルは診療ガイドの作成を進めています。さまざまな疾病との関係,疾病ごとのアプローチの違いなどを含めた指針をめざしています。

若林 国際的に疾患として認められ,国内でもガイドラインやガイドができ,資格制度ができるとなると,その次には栄養指導やリハなどへの加算をめざしたいですね。

荒井 時間はかかると思いますが,エビデンスのさらなる蓄積とあわせて,一歩ずつ前に進みたいです。

若林 サルコペニア・フレイルは,多職種がかかわる,新しくて重要な領域です。医学教育モデル・コア・カリキュラムでは平成28年度改訂版(案)に含まれていますし,来年からは医師国家試験の出題基準にも入ります。老年医学やリハ医学の講座がない大学もあるなど,卒前教育にも課題はありますが,1つひとつの疾患を治癒するだけではなく,「健康寿命を長くする」という視点で治療していけるよう,全ての診療科の医師にサルコペニア・フレイルへの関心を持っていただければ幸いです。

第4回日本サルコペニア・フレイル学会
日時:2017年10月14~15日
会場:同志社大今出川校地 寒梅館(京都市上京区)
大会長:石井好二郎(同志社大)
URL:http://4jasf.jp/

第3回アジアフレイル・サルコペニア学会
日時:10月27~28日
会場:ソウル大盆唐病院(韓国 城南市)

(了)


あらい・ひでのり氏
1984年京大医学部卒,91年同大大学院医学研究科博士課程修了,93年米カリフォルニア大サンフランシスコ校研究員。京大医学部老年科助手,老年内科助手,同講師を経て,2009年より京大大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授,15年より現職。日本サルコペニア・フレイル学会代表理事。老年医学,フレイル,サルコペニア,脂質代謝異常を専門に,多職種連携,地域医療にも携わる。

くずや・まさふみ氏
1983年阪医大卒,89年名大大学院医学研究科内科系老年医学修了,91年米国立老化研究所研究員。名大大学院健康社会医学専攻発育・加齢医学講座准教授などを経て,2011年より現職。13年より同大病院地域医療センター(現・地域連携・患者相談センター)センター長,14年同大未来社会創造機構教授を兼務。2017年6月17~18日開催の第19回日本在宅医学会大会では大会長を務める。

わかばやし・ひでたか氏
1995年横市大医学部卒,2016年慈恵医大大学院医学研究科臨床疫学研究部修了。横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション科,済生会横浜市南部病院リハビリテーション科医長,横市大市民総合医療センターリハビリテーション科助教などを経て,16年より現職。日本リハビリテーション栄養研究会会長。2017年日本静脈経腸栄養学会・小越章平記念Best Paper in The Year受賞。

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