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第3100号 2014年11月10日


適切な臨床研究の推進をめざして

第37回日本高血圧学会総会の話題より


 昨年,バルサルタンを用いた臨床研究の問題が明るみに出た。臨床研究における利益相反やデータ操作などに問題があったとされ,論文撤回にまで発展。日本の臨床研究に対する国際的な信頼まで揺るがしかねない事態となった。第37回日本高血圧学会総会(会長=横市大大学院・梅村敏氏,10月17-19日,横浜市)で企画されたシンポジウム「臨床研究のあるべき姿」(座長=国循・河野雄平氏,北海道循環器病院・菊池健次郎氏)では,臨床研究の不正が発覚した後の日本高血圧学会の対応をはじめ,当該の研究の問題点や再発防止策があらためて議論され,今後,日本において質の高い臨床研究を行っていくために取るべき方策が考察された。本紙ではその模様を報告する。


梅村敏会長
 日本高血圧学会では,臨床研究の不正の発覚を契機に再発防止に動き出している。発覚直後から,学会外の有識者を含めた第三者専門委員会を設立し,議論を交わしてきた他,シンポジウム・講演会を通じて,学会員に適切な臨床研究の実施を呼びかけてきた。

 本年5月に出された,外部委員を含めた「臨床研究に関わるあり方委員会」(委員長=同志社大大学院・位田隆一氏)の提言を受け,7月に「臨床研究に関わる提言への対応委員会」(委員長=琉球大・大屋祐輔氏)を組織。同組織での議論の末,学会総会開催期間中の10月18日,提言に対する具体的な取り組みに先駆け,「日本高血圧学会会員の科学者としての研究活動に係る倫理行動規範」を公表するに至った。

 これらの取り組みを紹介した楽木宏実氏(阪大大学院)は,今後も積極的に臨床研究を実施していくために,「学会として適切な臨床研究を行えるような仕組みをシステムに落とし込み,学会員全員で取り組んでいかねばならない」と強調。今後,同学会では,学会による監査制度,生物統計学・臨床疫学に関する助言を提供する研究支援体制の構築,適切な臨床研究を推進するために役立つガイドブックの作成などを行う見通しだという。

求められるのは,企業と医療者の適切な関係性

 同学会の対応については厳しい声も上がっている。「学会幹部からの謝罪が必要。理事会も体制を一新すべき」。そう指摘するのは,不正が行われた臨床研究結果に早くから疑問を呈してきた桑島巌氏(臨床研究適正評価教育機構)だ。

 氏は「情報提供における専門家の役割は,一般臨床医に適正な専門医療情報を伝えること」と提示し,学会の幹部が企業に協力し,雑誌広告などを通して宣伝に加担してきたことを問題視。学会の責任は重く,幹部を改選して再出発すべきという見解を示した。その上で,日本高血圧学会として取り組むべきことに,学会総会におけるスポンサーの在り方の再考,学会主体で臨床研究の内容をチェックする体制,不正に対しペナルティーを課す仕組みの確立を挙げた。

 研究支援を行う企業の立場からは,日本製薬工業協会の稲垣治氏が登壇。「医薬製品を作製し,患者に届けるためには産学連携は不可欠。問われるのは,企業と医療者・医療機関との関係性の存在ではなく,関係性の在り方である」と強調し,社会から理解が得られるよう,透明性と適切性の担保の必要性を説いた。透明性の担保を図るための取り組みとして氏が紹介したのは,製薬企業から医師・大学・医療機関への資金援助の流れを開示することを目的に作られた「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」。今後,さらなる透明化を図るため,現時点では「来社閲覧方式」「WEB方式」など各社でばらつきのある「原稿執筆料等」(C項目)の開示方法の統一や,「研究費開発費等」(A項目)における個別の支払い先・支払い額などの詳細開示を進める構えだという。

 また,適切性の確保のための取り組みとして,本年4月22日に同協会が会員会社へ通知した「製薬企業による臨床研究支援の在り方に関する基本的考え方」を紹介。臨床研究にかかわる労務提供,奨学寄附金の提供の在り方の検討を呼びかけていると報告した。

国際的な整合性を踏まえた,規制・法制度の考慮を

 JIKEI Heart StudyやKYOTO Heart Studyなど,不正が見られた一連の臨床研究には,「PROBE法(Prospective Randomized Open Blinded-Endpoint)」が採用されている。このPROBE法の適用に問題があったと説明したのは,上島弘嗣氏(滋賀医大アジア疫学研究センター)だ。PROBE法は,割り付けられている群はあらかじめ明示されているが,計画されたエンドポイントが発生したと考える時点で医師は第三者の判定委員会に報告。その妥当性の判定は,症例がどの群に割り付けられたかが遮蔽された判定委員会によって行われるため,判定時にバイアスが入りにくいとされている。

 しかし氏は,エンドポイントを判定する者の独立性は担保されていても,判定を行う第三者に上がってくる前の段階でバイアスが入り込む余地があると指摘。特に,入院の指示や血圧・体重など観察の最前線で測定可能な指標を含む「ソフトエンドポイント」では医師・患者の恣意性が入りやすく,都合のよいデータを採録することもでき,薬効があると示したい群の症例報告数が少なくなる可能性も十分にあると解説した。PROBE法では,死亡や観察の最前線から独立した心電図所見・血液検査など,客観性の高い「ハードエンドポイント」を設定すべきであるとし,特性を理解した上で臨床試験に適用する必要性を訴えた。

 臨床研究の適正化に向けた取り組みという点では,厚労省で「臨床研究に係る制度の在り方に関する検討会」(座長=学習院大・遠藤久夫氏)が組織され,現在,法規制を含めた新たなルール作りの検討が進んでいる。最後に登壇した山本晴子氏(国循)は,厚労省科研費「臨床研究に関する欧米諸国と我が国の規制・法制度の比較研究」(研究代表者=慶大大学院・磯部哲氏)において,研究協力者として実地調査に参加した経験を踏まえ,英国・フランスにおける規制・法制度の在り方を紹介した。

 両国では,臨床研究の質を,法的規制をはじめ,倫理委員会の運営・質の標準化に対する国からの積極的な関与,臨床研究の研究不正に対する懲戒処分などのペナルティーと,さまざまな工夫によって担保しているという。一方で,データの信頼性確保の手段であるモニタリングや監査には,GCPやICH-GCPのような詳細な規定は設けられておらず,個々の研究や被験者に与える実質的なリスクに応じた多様性を許容する仕組みになっていると報告した。

 氏は,今回の臨床研究の不正問題を受け,画一的かつ厳格にすぎる規制・法制度が設けられることを危惧し,国際共同研究の際の足かせにもなりかねないとして,「規制・法制度は,欧米諸国との整合性も考慮して検討する必要がある」と言及。多面的な取り組みが行われなければ,臨床研究の質は保たれないと語った。