医学界新聞

2012.06.04

STROKE2012開催される


 第37回日本脳卒中学会総会(会長=九大・佐々木富男氏),第41回日本脳卒中の外科学会(会長=長崎大・永田泉氏),第28回スパズム・シンポジウム(会長=産業医大・西澤茂氏)の三学会によるSTROKE2012が,4月26-28日,福岡国際会議場(福岡市)他にて開催された。今回の共通テーマは「脳卒中医療――新たなbreakthroughをめざして」。本紙では,早期治療が患者の予後改善への鍵となる一過性脳虚血発作(TIA)について取り上げたシンポジウムを紹介する。


内山真一郎氏

 シンポジウム「Acute Cerebrovascular Syndrome(ACVS),TIAと急性脳梗塞への新たな対応」(座長=女子医大・内山真一郎氏,国立病院機構九州医療センター・岡田靖氏)では,TIA治療に向けた新たな概念やプロトコル,そして早期受診につなげるための市民啓発活動について議論が行われた。

 TIAは症状が一過性であることから,患者のみならず一般医にも軽視されがちである。しかし,TIA発症直後ほど脳梗塞へ移行しやすいため,初期対応の遅れが患者の転帰に深刻な影響を与える恐れがある。内山氏は,TIAを「軽度の脳卒中」として区別する従来の捉え方を否定。TIAと急性虚血性脳卒中を同一スペクトラム上に捉える急性脳血管症候群(ACVS)という新たな疾患概念を提唱し,TIAを救急疾患として啓発する必要性を示した。さらに,2010年に開始されたTIAに関する国際多施設共同研究(TIAregistry.org)についても紹介。これは,TIAや軽症脳卒中の事例を5年間追跡調査する医師主導型の研究で,全世界約30施設から5000症例が集められる予定だ。本研究の日本代表を務める氏は,日本から参加している6施設の途中経過を報告し,最終的な解析結果に期待を寄せた。

患者の早期受診・治療をめざした取り組み

 国立循環器病研究センターの峰松一夫氏は,同センターと地域開業医との間に導入したTIA診療専用連携システムの効果について発表した。TIA患者の症状は,来院時にはすでに消失しているため,診断や治療の決断が難しい。同センターでは,地域開業医にTIAに関するパンフレットを配布するとともに,24時間体制の相談窓口を開設。TIAが疑われる患者が地域開業医の元に来院した場合は,同センターで同日中に頭部の画像検査を受け,治療方針を決定できる連携体制を整えた。これによって,患者に対する早期の診断および治療が実現したという。氏は今後,専門医療機関と地域開業医とが連携するためには,各地域の特性に応じたプロトコルが必要であると強調した。

 ACVSの診断や治療の早期化と同程度に重要なのが,発症した市民の受診行動の早期化だ。齊藤正樹氏(札医大)は,地域で活躍する救急救命士や介護福祉士に対して,脳卒中に関する知識の必要性を自覚させ,自発的な行動を促すことを目的とした研修プログラムを行った。研修会では,医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センターと協力し,TIAの早期治療の必要性や脳卒中の前兆に気付くためのテスト項目「ACT-F.A.S.T.」などについて学習。その結果,受講者の脳卒中に対する理解が深まり,脳卒中患者への対応が素早く的確になった。特に介護福祉スタッフは,研修で得た知識を身近な人々に啓蒙しており,これが市民への知識浸透に貢献したことから,氏は介護スタッフへの教育効果を高く評価した。

ACVS治療の最新事情

 近年の新しいデバイスの承認によって,脳主幹動脈閉塞に対する急性期血行再建時の再開通達成率は大きく上昇したが,患者の転帰改善には結びついていない。田中悠二郎氏(小倉記念病院)は,ACVSで血管内治療を受けた再開通達成患者の予後を調査した結果,糖尿病の既往や再開通までの時間などが予後不良因子となっていたことを報告。患者の転帰改善には,これらの不良因子の除去に加え,血栓の分布に応じた治療プロトコルの作成・適用を試みることが重要と述べた。

 外科医の立場から登壇したのは,詠田眞治氏(国立病院機構九州医療センター)。TIA患者に対する最初のアプローチは内科治療であるべきとした上で,内科治療抵抗性病変が存在する場合には速やかに外科と連携し,発症病理に応じた外科治療を実施することが適切との見解を示した。

 最後に内山氏は,TIAの危険性を再度強調し,地域の一般医や市民への啓発活動に一層尽力することを参加者に求め,シンポジウムを締めくくった。

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