医学界新聞

2011.08.22

都医学研 開所記念シンポジウム


 東京都医学総合研究所(所長=田中啓二氏)の開所記念シンポジウムが7月20日,同研究所(東京都世田谷区)にて開催された。東京都医学研究機構の神経科学総合研究所,精神医学総合研究所,臨床医学総合研究所の3つの研究所を統合し,本年4月1日に開所した同研究所。これまで3研究所で培ってきた成果と研究ノウハウを結集し,世界最高レベルの研究を推進することをその目標に掲げている。

 本紙では,同研究所の6つの研究分野の代表者6人が,それぞれの研究を報告したシンポジウムのもようを報告する。


生命現象の解明に挑み疾患の克服をめざす

田中啓二所長
 最初に登壇した「ゲノム動態プロジェクト」の正井久雄氏は,転写や複製といったゲノム機能を制御するメカニズムの解明に向けた取り組みを紹介した。氏は,分裂酵母のゲノムワイド複製を制御する因子Rif 1に注目。ノックアウト動物との比較から,Rif 1の欠損がクロマチンループの構造変化を引き起こすモデルを提唱した。さらに今後の展望として,Rif 1が発生分化に及ぼす影響の解明やその他の複製プログラム制御因子の作用機序の解析を挙げた。

 引き続き,「認知症プロジェクト」の秋山治彦氏が登壇。認知症の原因となるアミロイドβやタウといった蛋白質の異常には,遺伝子変異や凝集・線維形成など共通する性質がある。氏はこの異常の共通性を基盤とし,前頭側頭葉変性症の変性部位に集積する蛋白質TDP-43を用いて研究を進めていると報告。今後,培養細胞モデルならびに遺伝子改変マウスモデルを用い研究を進める予定と語った。

 「こどもの脳プロジェクト」の林雅晴氏は,環境因子および脳内物質因子の両側面から取り組む脳発達障害の病態解明と,機能回復に向けた研究を紹介した。このうち,インフルエンザウイルスやヒトヘルペスウイルス6型による脳炎・脳症に伴う脳発達障害では,抗酸化薬エダラボンの有効性を示唆。小児への適用はなかった同薬だが,氏らの社会的活動により本年,実質的な小児適応を獲得することができたと強調した。

統合失調症の新たな発症機序

 「統合失調症・うつ病プロジェクト」の糸川昌成氏は,統合失調症の多発家系症例から同定した,カルボニルストレス性統合失調症について解説した。氏は,同家系で消去系酵素GLO 1の変異を同定し,GLO 1活性の低下がカルボニルストレスの解毒を阻害しAGEs(終末糖化産物)の蓄積を招く様子を解明。また統合失調症の46.7%でカルボニルストレスを認めたとし,統合失調症研究の進展を語った。

 オートファジーの破綻と腫瘍形成との関係について発言したのは,「蛋白質リサイクルプロジェクト」の小松雅明氏。氏は肝臓特異的オートファジー欠損マウスを用い研究を展開。オートファジーの減弱が変性蛋白質・オルガネラの蓄積からミトコンドリア機能障害を招き,ゲノム不安定性から腫瘍形成に至る過程を解明したと述べた。

 「学習記憶プロジェクト」の齊藤実氏は,ショウジョウバエの長期記憶形成過程における分子メカニズムを語った。長期記憶形成には神経とグリア細胞の相互作用が関与するが,氏はその相互作用を担う蛋白質Klingonに注目。Klingon変異体ではグリア細胞に特異的な転写因子であるRepoの顕著な低下があり,さらに長期記憶形成に伴いRepoの発現量が増加したことを見いだしたとし,Repoが長期記憶形成に必要であると考察した。

 シンポジウムに先立ち行われた挨拶では,統合に当たり外部有識者の評価を毎年受ける「プロジェクト研究体制」と,一定の資格のもと長期の研究を可能とする「新人事制度」を取り入れ,研究体制を一新したことを田中所長が提示。発展的な再編を行うことで,3研究所を"一体化"することができたと強調した。

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