医学界新聞

寄稿

2011.07.11

【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
血算はこう読もう!

【今回の回答者】岡田 定(聖路加国際病院内科統括部長/血液内科部長)


 血算(CBC)は,数多くある臨床検査のなかで「臨床検査のバイタルサイン」とも言える最も頻用される検査です。臨床現場では,簡単な病歴・診察と血算などのわずかな検査だけで,疾患を推定しなければならない場面は多く,また実際かなりの疾患の推定が可能です。

 今回は,血算のどこに注目してどう考えれば診断に迫ることができるのか,考えてみましょう。


■FAQ1

貧血の原因が分からない場合,血算のどこに注目すればいいのでしょうか?

貧血をみたら,まず「MCV」(平均赤血球容積)と「網赤血球」に注目する

 MCVは,(1)80 fL以下(小球性貧血),(2)81-100 fL(正球性貧血),(3)101 fL以上(大球性貧血)の3つに分類して鑑別します。表1にMCVによる貧血の鑑別疾患を示しました。

表1 MCVによる貧血の鑑別

 小球性貧血であれば,まず鉄欠乏性貧血と二次性貧血を考えます。鉄欠乏性貧血はTIBC(総鉄結合能)高値,フェリチン低値。二次性貧血はTIBC低値,フェリチン高-正常値です。血清鉄は両者とも低値であり,「血清鉄低値=鉄欠乏性貧血」ではないことに注意してください(表2)。

表2 鉄欠乏性貧血と二次性貧血の鑑別

 正球性貧血であれば,まず出血性貧血と二次性貧血を考えます。二次性貧血をみたら,造血器疾患・感染症・悪性腫瘍・肝疾患・腎疾患・内分泌疾患・膠原病・低栄養・妊娠などを考えます。

 高度の大球性貧血(MCV>120 fL)ならば,まずビタミンB12欠乏性貧血である悪性貧血か胃切除後貧血を考えます。それほど高度でない場合は,肝疾患,甲状腺機能低下症,白血病,骨髄異形成症候群,抗腫瘍薬使用や,網赤血球が増加している溶血性貧血,急性出血を考えます。

 貧血の鑑別において,MCVと同様に重要なのは網赤血球です。網赤血球は骨髄での赤芽球産生能の指標になります。網赤血球が増加していれば,まず急性出血か溶血,治療後の貧血からの回復期を考えます。

Answer…「MCV」と「網赤血球」の値に注目して鑑別診断を行うことで,原因を特定します。

■FAQ2

血算で異型リンパ球,幼若好中球を認めます。どう対応すればいいのでしょうか?

幼若好中球が末梢血で見られる場合は要注意

 異型リンパ球は,反応性リンパ球(CTLやNK細胞)であって腫瘍細胞ではありません。ほとんどの場合それほど心配いりません。

 異型リンパ球が数%なら何らかのウイルス感染,10%以上ならまずEBウイルスやサイトメガロウイルスの初感染を疑います。そのほか重症感染症,自己免疫疾患,薬剤性でも認めます。EBウイルスの初感染とは伝染性単核球症のことです。2-3週間続く発熱,扁桃・咽頭炎,頸部リンパ節腫脹,肝脾腫などの症状が典型的です。ウイルス抗体価が,“VCA-IgM陽性”あるいは“VCA-IgG陽性+EBNA陰性”なら,診断確定です。“伝染性単核球症様の症状+異型リンパ球”でよく見逃されるのが,急性HIV感染症です。HIV抗体だけでなくHIV-RNAも検査しなければ発見することができないため,男性同性愛者などHIV感染のリスクがあれば要注意です。

 幼若好中球とは,骨髄芽球,前骨髄球,骨髄球,後骨髄球です。本来骨髄にしかない白血球で末梢血に出現するのは異常です。

 1%程度の骨髄球や後骨髄球は,軽度の感染症でも一過性によく認められますが,数%以上の幼若好中球が1-2週間以上も続く場合は,骨髄の重大な病態が考えられます。特に幼若好中球と赤芽球を末梢血に認めたとき(それを白赤芽球症と呼びます)は,DIC(播種性血管内凝固)を合併していることが多く,悪性腫瘍の骨髄転移,白血病,骨髄異形成症候群,多発性骨髄腫,高度な溶血・出血,感染症(結核や骨髄炎)などが考えられます。多くの場合,至急精査・治療する必要があります。

Answer…異型リンパ球は,ほとんどの場合ウイルス感染症が原因で一過性です。幼若好中球が1-2週間も続く場合は,骨髄検査を含めた精査が必要です。

■FAQ3

赤血球,白血球,血小板がすべて少ない。どう考えればいいのでしょうか?

汎血球減少症への対応

 赤血球,白血球,血小板がすべて少ないことを,汎血球減少症と言います。しかし,「汎血球減少症=骨髄疾患」ではありません。骨髄に異常のない場合も多く,必ずしも骨髄検査で診断できるわけではありません。

 汎血球減少症をみたら,まず疑うべき疾患は脾腫を来す疾患,特に肝硬変です。そのほか表3にあるように敗血症,ウイルス感染症,SLE(全身性エリテマトーデス),DICなどを考えます。以上の疾患が否定的なら,再生不良性貧血,骨髄異形成症候群,白血病(特に急性前骨髄球性白血病)などの可能性があり,骨髄検査が必要です。

表3 汎血球減少症を来す疾患
骨髄検査で診断できない疾患
  脾腫を来す疾患
   肝硬変,特発性門脈圧亢進症,悪性リンパ腫,サルコイドーシス
  感染症
   粟粒結核,全身性真菌症,重症敗血症ウイルス感染症,マラリア
  SLE(全身性エリテマトーデス)
  DIC(播種性血管内凝固)
  PNH(発作性夜間血色素尿症)
骨髄検査で診断できる疾患
  再生不良性貧血
  骨髄異形成症候群
  骨髄の他の細胞による置換
   白血病(急性前骨髄球性白血病が代表),癌の骨髄転移,多発性骨髄腫,悪性リンパ腫
   骨髄線維症
  巨赤芽球性貧血
  血球貪食症候群
※下線は頻度の高い疾患を表す。

Answer…汎血球減少症をみたら,まず肝硬変など脾機能亢進症を来す疾患。次に,骨髄疾患を考えます。

■もう一言

 (1)49歳女性,Hb 9.3 g/dL,MCV 74.7 fL。(2)72歳男性,手術歴なし,15 kgの体重減少,Hb 9.7 g/dL,MCV 121.7 fL。それぞれ最も考えられる疾患は何でしょうか? 「貧血はMCVから鑑別」の原則を使えば,(1)は鉄欠乏性貧血,(2)は悪性貧血ですね。

参考文献
1)岡田定.誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方.医学書院;2011.
2)金澤一郎,永井良三編.今日の診断指針,第6版.血液・造血器疾患.pp 1080-132,医学書院;2010.
3)宮崎仁編.血液疾患診療ナビ.南山堂;2011.


岡田 定
Profile/1981年阪医大卒。卒後,聖路加国際病院にて内科研修。84-93年昭和大藤が丘病院血液内科。93年より聖路加国際病院血液内科。2011年より現職。『誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方』『内科レジデントの鉄則』(ともに医学書院),『内科オールラウンドプラクティス 第1集,第2集』(三輪書店)など編著書多数。

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