医学界新聞

連載

2007.07.09

 

臨床研修の歩き方
Think Globally, Act Locally

〔連載 第8回(最終回)〕
関東信越編

村岡 亮
全国7か所の厚労省地方厚生局で働く臨床研修審査専門官が,全国各地の臨床研修の様子を交代でレポートします。


前回2735号

 こんにちは! これまで7回にわたって連載してきました「臨床研修の歩き方」の最終回は,東京を含む一都九県にまたがり,全国の約4分の1にあたる603の臨床研修病院・大学病院を擁する関東信越地区よりお届けします。テーマは研修医にとっても臨床研修病院にとっても今や最大の関心事である,いわゆる「後期研修」です。

後期研修を考える

 そもそも「後期研修」なんて変な言葉です。定義がはっきりと決まっているわけではなく,みんなが漠然と2年間の卒後臨床研修後に行う卒後3年目からの研修を指してそう呼んでいるのです。それでは,なぜ「後期研修」がこんなに関心を集めているのでしょうか?

 要するに,臨床研修を行う病院は2年間手塩にかけて育てた研修医を簡単に手放したくないからなのです。臨床現場で寝食をともにすると,研修医の臨床能力も人柄もよくわかってきます。その中で,特に評価の高い人については引き続き病院にとどまって,できればスタッフとして残ってほしいと思うのが人情です。この背景には医療費の抑制,効率的な医療の追求,患者さんの医療に対する要求度の高まりなど,現代の医療を取り巻く厳しい環境があります。生き残りをかけて,優秀な医師人材を早期から自前で確保したいというのが多くの急性期病院の本音なのです。

 一方若手医師のほうは,マッチングを経験しているので,将来のキャリアは自分で情報を収集して選択するという意識が強くなっています。しかし,後期研修プログラムについての確実な情報はなかなか得られないのが実情です。平成17年度の厚労省の調査によれば,臨床研修病院,大学病院で卒後研修を行った者のうち,各々65.4%および80.4%がそのまま同じところでの後期研修を望んでいます。病院側が後期研修プログラムとその後のキャリアパスを明確に示せないと,若手医師は不安を感じて外の後期研修プログラムに移ってしまいます。その点,後期研修で何となく安心できそうなのは大学の医局です。前述の65.4%vs 80.4%と言う数字の差がそれを如実に物語っています。

後期研修の情報公開に向けて

 それでは,みなさんが後期研修プログラムを選択する際に大切なことは何でしょうか? それにはまず,自分が10年後20年後に,どの地域の,どんな医療施設で,どんな分野の医療に従事しているのかを考え,そのためにはどんな内容の後期研修を受けるべきかを具体的に考えることです。しかし,日本の専門医制度はまだ成熟途上にあるため,その上に立脚する各病院の後期研修プログラムの内容の良し悪しはなかなか外からは見えにくいのが問題です。

 このような状況の中,関東信越厚生局では,初期研修医の方々を主な対象として,厚生局のホームページ等で,専門分野毎に各病院の後期研修プロラムの内容(経験可能症例数,指導体制,募集定員,研修年限と獲得できる専門医資格,研修修了後の進路など)に関する情報を収集し,整理された形で提供することを検討しています。後期研修プログラムに関する全国規模での情報公開が定着すれば,初期研修におけるマッチング制度導入時と同様,プログラム間に競争原理が働き,プログラム内容の改善のみならず医師個人のキャリアパス充実や医療人材流動化という面でも大きなインパクトがあるに違いありません。

 しかし,後期研修を医師個人個人のキャリア充実という側面のみから捉えるだけでは片手落ちです。医療の公的側面,すなわち長期的な医療供給体制や地域医療確保という側面にも十分に配慮しつつ,専門医制度や後期研修プログラムのことを考えなければなりません。言い方を変えるならば,「医師がその地域に定着するか否かは,初期研修よりもむしろ後期研修をどこで行ったかということに決定される」ということに着目し,国全体の分野別必要専門医総数のみならず,各地域における将来の医療ニーズや医療供給政策を勘案したうえで,地域毎に必要な専門医数を推測して後期研修プログラムの配置や定員に反映させることが重要なのです。

 みなさんは「後期研修」についてどんな考えをお持ちでしょうか?

(了)

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