医学界新聞

取材記事

2024.09.27

第56回日本医学教育学会大会が8月9~10日,冲永寛子大会長(帝京大:写真1)のもと,「ダイバーシティ&インクルージョン——すべての人が輝ける医療者教育」をテーマに帝京大学板橋キャンパス(東京都板橋区)にて開催された。医学界新聞プラスでは,シンポジウム「臨床研修を練る会議——臨床研修制度のいまとこれからを語り合う」(座長=長崎大病院・松島加代子氏,藤田医大・石原慎氏)の模様を報告する。

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写真1 大会長講演を行う冲永寛子氏

 

◆外来研修,評価,卒前卒後シームレス化をめざして

初めに登壇した飯田市立病院の白籏久美子氏は,研修医内科ローテーション時の一般外来研修における指導医,メディカルスタッフによるフィードバックの効果について紹介した。研修医は,外来診療の雛形を学んでもらうべく作成された「研修医一般外来チェック表」に沿って研修を行っている。外来診療後には研修医自らによる振り返りと,上級医・指導医からのフィードバックだけでなく,メディカルスタッフからのフィードバックを受ける。白籏氏は,研修医本人は自身の「医学的知識,情報収集能力,時間管理」を課題として振り返ることが多い一方で,上級医・指導医からは「診察技能,説明内容や態度,事前準備」を,メディカルスタッフからは「患者への思いやり,スタッフとの情報共有,時間管理」が課題としてフィードバックされる傾向が強いことを白籏氏は共有した。最後に氏は,医療の質で重要な6つの指標(有効性,安全性,患者中心,適時性,効率性,公平性)をカバーするためにも,一般外来研修においても多様な視点・属性からの評価・フィードバックが有効だと述べた。

次に安井浩樹氏(松阪市民病院)は,地域や施設の垣根を超えて研修医が学び合う「研修医OSCE」の取り組みを振り返り,今後の研修医の臨床能力評価にとどまらない新たな可能性を示した。研修医OSCEは2003年の厚労省特別研究事業「研修医の臨床実技能力評価にかかる研究班」が作成したAdvanced OSCE指針を基に始まり,各地域の研修医が集合して臨床推論,救急医療,外科手技,医療コミュニケーションなどを評価・フィードバックを行うもの。同取り組みに対し医学教育学会臨床研修部会は,研修評価も含めたノウハウをパッケージ化した課題提供や,運営に当たる人材の派遣などを行ってきた。COVID-19の感染拡大以降は課題作成,ブラッシュアップ等の活動が中止されてきたが,23年からは活動が再開していることを氏は報告した。標準化された臨床研修評価票がすでに導入されていることなど研修医OSCEを取り巻く環境が変化するなか,多地域多施設交流の意義,研修医評価の意義も考え,さらに発展させていきたいと抱負を語った。

大学医学部と大学附属病院の教育連携会議の設置の効果について述べたのは瀬尾恵美子氏(筑波大病院)だ。筑波大の医学群・附属病院教育連携会議は大学と附属病院のそれぞれで教育に携わる関係者(註)から構成され, COVID-19に対する附属病院の対応についての情報交換,附属病院に勤務する卒業生に対する大学側からの情報提供方法の検討,医学生の病院実習における360度評価,医学生の病院実習中のアンプロフェッショナル行動への対応,県の地域枠学生/修学生の教育体制,附属病院と医学群の3学類(医学類,看護類,医療科学類)間の情報共有などが行われている。瀬尾氏はこの会議を通して,お互いがわかっているであろうと考えていたことが伝わっていないことを知ることができたと言う。連携会議は事務担当者も交えながら情報共有できる有意義な場となっており,「今後も継続して開催していきたい」と述べて発表を終えた。

:教育連携会議には, 医学群からは医学類長,医学類教育(PCME)教員,PCME事務担当,看護学類教員,医療科学類教員。附属病院からは副病院長(教育担当),総合臨床研修センター教員(部長,副部長,担当講師),総務課総合臨床研修センター係長,看護副部長(教育担当)が出席する。

3人のシンポジストによる発表後,特別発言として厚労省医師臨床研修推進室の野口宏志氏が医師臨床研修制度の経緯と,2025年度より適用される臨床研修制度の見直しの概要について次の5点()を報告した。

表 2025年度研修から適用が見直されるポイント。赤字が今回見直しとなった部分

項目 内容
臨床研修の到達目標,方略及び評価 この「臨床研修の到達目標,方略及び評価」にに基づく臨床研修が開始されてから十分な期間が経過していないため改訂しない
基幹型臨床研修病院の判定基準 これまで基幹型臨床研修制度の指定基準は入院患者の数が「年間3000人以上」とある。平成27年度から適切な指導体制が確保され,基本的な診療能力を修得できれば年間の入院患者数2700人以上の病院で認められるようになっていたが,今回の見直しでは以下の2つを満たす場合に限り,「年間2700人未満」の病院も基幹型病院として指定できるものとした。
  • ・離島のみで構成され,かつ,基幹型病院が存在しない二次医療圏に所在している病院であって,当該二次医療圏において,年間の入院患者数及び救急患者数が最大のものであること。
  • ・都道府県知事が行う実地調査等により,適切な指導体制が確保され,かつ,臨床研修の到達目標を達成するために必要な症例が確保されているなど,研修医が基本的な診療能力を修得することができると認められること。
小児科・産科特別プログラム
  • ・小児科・産科プログラムに置いて実施すべき小児科又は産婦人科における研修の週数については12週以上とする
  • ・募集定員が20人以上の基幹型病院は,小児科・産科特別プログラムを設置することを原則としつつ,必修診療科のうち当該病院が存在する都道府県において医師が不足している診療科の研修を重点的に行う研修プログラムへの変更を可能にする
第三者評価 現段階において,第三者評価の受審を全ての基幹型病院に義務づけることは困難であり,各病院の判断に委ねるものとしつつも,厚労省としてより一層の受審促進を図るため「臨床研修省令において,第三者評価の受審及び受審結果の公表を努力義務として策定すること」などの策を講じること。
また,JCEPにおいては,評価の質の向上及び受審する病院の負担軽減を図るため,受審病院からの意見を踏まえ,以下の点を検討していくこととした。
  • ・訪問調査を行うサーベイヤーの質及び人員の充実方策
  • ・4年間としている認定期間の在り方
  • ・各病院の規模や所在する地域等の差異を踏まえた評価基準の在り方
地域における研修機会の充実 研修医本人が希望することを前提として,このような研修を受けられる機会を創設することとし,令和8年度以降は,医師多数県のうち募集定員上限に占める採用率が全国平均以上の都道府県は,当該都道府県の募集定員上限の5%以上を医師中程度県(医師多数県及び医師少数県以外の都道府県をいう。)のうち採用率が全国平均以下の都道府県の医師少数区域や,医師少数県のうち採用率が全国平均以下の都道府県等に所在する臨床研修病院において24週以上の研修を行う研修プログラム(広域連携型プログラム)の募集定員に充てるものとする。

 

その後の総合討論では,3人のシンポジストと特別発言を行った野口氏がフロアの参加者とともに議論を深めた。白籏氏に対して,研修医が外来研修で慢性疾患を経験するための工夫や指導医の負担軽減に向けた取り組みについて質問が挙がり,研修医が交代しながら経験を積んでいること,また専攻医と交代しながら指導することで時間的負担を考慮しているとの回答がそれぞれなされた。

安井氏が発表した研修医OSCEについては,実施による成果を問う声が上がった。これらの質問に対して「施設間の研修医・指導医の交流,研修プログラムの比較とフィードバックがなされており,研修医自身にとっても学修の動機付けとなっている」と研修医OSCEによる成果がさらに詳しく説明された。また,研修医OSCEの実施にかかる膨大な準備と労力による継続性の懸念には,医学教育学会臨床研修部の副部会長でもある座長の石原氏が研修課題をパッケージ化すること,研修医が苦手とする内容に重きを置くなどの工夫が考えられるのではないかとフロアと議論した。

その他,卒前・卒後シームレス化の工夫,臨床研修制度の今後の見直し,必修期間の見直し,第三者評価公表のインセンティブ,一般外来研修や終末期医療研修の機会提供の困難性,新設される広域プログラムにおける費用負担・給料補助についてなど様々な課題について質疑応答が展開された。

最後に松島・石原両座長より,日本医学教育学会臨床研修委員会として「臨床研修を練る会議」を今後も継続的に実施し,教育の在り方の見直しや議論をおこなっていくことが示された。 

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写真2 シンポジウム「臨床研修を練る会議——臨床研修制度のいまとこれからを語り合う」の様子。左から野口氏,瀬尾氏,安井氏,白籏氏

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