医学界新聞プラス
[第1回]リハビリテーション・栄養・口腔管理の複合的介入とゴール設定・モニタリング項目
『生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケア実践マニュアル』より
若林秀隆
2024.08.09
生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケア実践マニュアル
『生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケアガイドライン』により,リハビリテーション,栄養,口腔管理の一体的介入の重要性が明らかになりました。しかし,実際に現場でどのように取り組めば良いのか――。その問いに応えるのが『生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケア実践マニュアル』です。ガイドラインを踏まえた具体的な実践方法を伝授します。
「医学界新聞プラス」では,本書の中から「リハビリテーション・栄養・口腔管理の複合的介入とゴール設定・モニタリング項目」「意思疎通が困難な脳血管障害による重度認知機能低下,左片麻痺による寝たきりのケース」の2項目をピックアップして,内容を紹介します。
リハビリテーション・栄養・口腔管理の三位一体の重要性
リハビリテーション・栄養・口腔管理は,それぞれ「機能」「活動」「参加」といった生活機能を高めるために重要です(→『生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケア実践マニュアル』21頁,図3-1)。しかし,低栄養,サルコペニア,口腔状態不良の場合には,リハビリテーションだけがんばって行っても,生活機能はあまり改善しません。栄養管理が不適切な状態でリハビリテーションだけがんばると,低栄養やサルコペニアが悪化して,むしろ生活機能が低下する恐れがあります。口腔状態が悪いと,十分な栄養摂取ができず,栄養状態が悪化して口腔機能のさらなる悪化につながることがあります。一方,栄養状態や口腔状態を改善しながらリハビリテーションを行うと,生活機能がより改善します。そのため,リハビリテーション・栄養・口腔管理の三位一体の取り組みが,生活機能を最大限高めるために重要です(図5-29)。ただし三位一体の前に,リハビリテーションと栄養,リハビリテーションと口腔管理,栄養と口腔管理の二位一体の取り組みを行うことが必要です。これらの二位一体の取り組みをすべて行って初めて,三位一体に取り組むことができます。
リハビリテーションと栄養の二位一体
リハビリテーションと栄養の二位一体は,リハビリテーション栄養です(図5-30)。リハビリテーション栄養とは,国際生活機能分類(ICF)による全人的評価と栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価,診断,ゴール設定を行ったうえで,障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルを改善し,「機能」「活動」「参加」,QOLを最大限高める「リハビリテーションからみた栄養管理」や「栄養からみたリハビリテーション」と定義されています1)。
リハビリテーション栄養は,急性期病院では栄養サポートチーム(医師,管理栄養士,看護師,薬剤師,臨床検査技師などの多職種チーム,nutrition support team;NST)に理学療法士(physical therapist;PT),作業療法士(occupational therapist;OT),言語聴覚士(speech therapist;ST),リハビリテーション科医師が参加する形で行われることが多いです。回復期リハビリテーション病棟では,管理栄養士が病棟専任で勤務して,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,リハビリテーション科医師と連携する形で行われることが多いです。
介護現場では理学療法士と管理栄養士の2職種での連携が,リハビリテーション栄養の基本形となることが多いです。理学療法士がサルコペニアの有無と原因,管理栄養士が栄養状態(低栄養,過栄養)の有無と原因を評価して,情報共有します。次に,生活機能を最も高めることができる体重が何kgか,その体重になった場合の生活機能がどの程度改善するかを,理学療法士と管理栄養士で話し合います。その体重が,栄養の長期ゴールとなります。その後,本人の希望や意向を確認したうえで,SMARTな体重のゴールを設定します。体重増加が目標であれば,管理栄養士はエネルギーやたんぱく質の摂取量を増やし,理学療法士は筋肉で体重が増えるように筋力増強運動を含めた運動を行います(図5-31)。体重減少が目標であれば,管理栄養士はエネルギー(糖質と脂質)の摂取量を減らし,PTは体脂肪で体重が減るように筋力増強運動や有酸素運動を含めた運動を行います。
リハビリテーションと口腔管理の二位一体
リハビリテーションと口腔管理の二位一体の一部は,口腔リハビリテーションといえます(図5-32)。摂食嚥下障害の方が口から食べられるようになるには,口腔や摂食嚥下のリハビリテーションが必要で,医科歯科連携が重要です。しかし実際には,医科(言語聴覚士,看護師など)だけ,歯科(歯科医師,歯科衛生士)だけで行われていることが少なくありません。介護現場での医科歯科連携が重要です。
口腔状態が悪いと,リハビリテーションを行っても生活機能の改善が悪いことが明らかになっています。また,口腔状態が改善すると,日常生活活動(ADL)がより改善することもわかっています。要介護高齢者を対象に行った研究では,咬み合わせが悪い(奥歯で上下の歯が自分の歯もしくは義歯でそろっていない)場合に摂食嚥下機能が悪いことがわかりました(図5-33)。また,摂食嚥下機能が悪いと栄養状態とADLの自立度が悪いこと,栄養状態が悪いとADLの自立度が悪いこともわかりました。これより,摂食嚥下機能,栄養状態,ADLをより改善するためには,義歯を作製して咬み合わせをよくすることが重要といえます。また,老人保健施設の入所者では,咬み合わせとADLの自立度が悪いこともわかりました。そのため,老人保健施設では特に,リハビリテーションと口腔管理の二位一体が重要かもしれません。
介護現場では,理学療法士・作業療法士・言語聴覚士と歯科衛生士の連携が重要です。口腔管理では,口腔状態や咬み合わせをできるだけよい状況にします。その結果,生活機能がより改善することがあります。
栄養と口腔管理の二位一体
栄養と口腔管理の二位一体は,口腔機能や摂食嚥下機能の改善,維持,悪化軽減のために重要です(図5-34)。口腔状態が悪いと,十分に食事を摂取できずに栄養状態が悪くなりがちです。栄養状態が悪くなると,全身だけでなく口腔や摂食嚥下にかかわる筋肉量や筋力が低下して,サルコペニアが進行します。オーラルサルコペニア(舌などの筋肉量・筋力低下による機能低下)やサルコペニアの摂食嚥下障害(全身と摂食嚥下関連筋の筋肉量・筋力低下による摂食嚥下障害)を認めると,経口摂取がより難しくなり,栄養状態がさらに悪化する悪循環になりがちです。この悪循環を断ち切るために,栄養と口腔管理の二位一体が重要です。
介護現場では,管理栄養士と歯科衛生士の連携が基本形となることが多いです。口腔管理では,口腔状態や咬み合わせをできるだけよい状況にします。その結果,栄養状態がより改善することがあります。サルコペニアの摂食嚥下障害を認める場合,摂食嚥下機能の改善には栄養改善が重要です。理想体重1kgあたり1日30~35kcal以上での栄養管理を行い,BMI 18.5以上を目指します。低栄養のままでは,サルコペニアの摂食嚥下障害の改善はあまり期待できません。
リハビリテーション・栄養・口腔管理の三位一体とモニタリング項目
リハビリテーション・栄養・口腔管理の三位一体での取り組みは,理学療法士・作業療法士・言語聴覚士,管理栄養士,歯科衛生士の連携が基本形となることが多いです。リハビリテーション・栄養・口腔管理の重要性を理解している看護師,医師,歯科医師が,連携の中心的な存在となることもあります2)。リハビリテーションと栄養,リハビリテーションと口腔管理,栄養と口腔管理の二位一体の取り組みを同時に行えば,三位一体の取り組みとなります。
リハビリテーションのモニタリング項目は,「機能」「活動」「参加」といった生活機能やQOL,ウェルビーイングです。栄養のモニタリング項目で重要なものは体重や筋肉量であって,血清アルブミン値などの検査値ではありません。口腔管理のモニタリングは,口腔衛生状態と咬み合わせです。これらはお互いに影響を与え合いますので,別々にモニタリングするのではなく,多職種で同時にモニタリングすることが重要です(図5-35)。また,薬剤の副作用でリハビリテーション・栄養・口腔管理のすべてが悪化していることがあります。そのため,薬剤の副作用の有無を確認することも重要です(→『生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケア実践マニュアル』64頁,第3章「処方薬の評価」)。
文献
1) Wakabayashi H:Rehabilitation nutrition in general and family medicine. J Gen Fam Med 18(4):153-154, 2017
2) Wakabayashi H:Triad of rehabilitation, nutrition, and oral management for sarcopenic dysphagia in older people. Geriatr Gerontol Int 24 Suppl 1:397-399, 2024
生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケア実践マニュアル
「ガイドラインをふまえて,現場で具体的にどう実践すればよいのか?」に応える1冊!
<内容紹介>『生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケアガイドライン』が発行されました。その重要性は分かったものの、どのように取り組めばよいか──その疑問に本書は応えます。リハビリテーション、栄養、口腔機能のみならず、食べる機能、認知機能、メンタルヘルス、処方薬、社会面などの評価・ゴール設定・介入・モニタリングをわかりやすく解説。要介護高齢者のケースに応じた実施計画書の例も掲載。
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生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケアガイドライン
リハビリテーション・栄養・口腔管理の一体的取り組みのための初のガイドライン!
<内容紹介>要介護高齢者の日常生活活動および栄養状態、摂食嚥下や口腔内の問題は、相互に関連・影響するもので、単独介入ではなく、多職種による一体的な複合的介入こそ最も効果があると考えられてきた。しかし、その効果を検証した研究は少なく、ガイドラインも無かった。自立支援・重度化防止に向け、CQ11問・BQ21問を含む、リハビリテーション・栄養・口腔管理の一体的取り組みのための国内外初のガイドライン、ここに堂々刊行!
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