医学界新聞プラス
[第2回]肝臓の多血性腫瘤の鑑別 その1
『肝胆膵画像診断の鉄則』より
連載 山下 康行
2024.11.20
肝胆膵画像診断の鉄則
『肝胆膵画像診断の鉄則』は,部位・画像所見別の37のシナリオに沿って,主要疾患の症例を提示。肝胆膵脾の画像診断のポイントを“鉄則”形式でズバッと示した一冊です。各疾患の画像所見の解説に留まらず,所見をみた際にどのようにして鑑別診断を進めるかといった診断のプロセスについても言及しています。またモダリティの選択など,画像診断を進めるうえでの留意点についても適宜取り上げ,読影の腕試しができるWeb付録も収載しています。
「医学界新聞プラス」では本書のうち「Chapter1 肝臓 シナリオ1 多血性の腫瘤」の内容を4回に分けてご紹介します。
Q1. 肝腫瘍の鑑別において,どのような患者背景に注目すべきか
A1. 年齢と性別,肝機能および肝疾患(特に肝硬変や脂肪肝)の有無,腫瘍マーカー,既往歴や服用薬物など
【鉄則】いきなり画像に飛びつくな!
- ● CTやMRIの画像をみて,いきなり所見を書き始めたり,診断に飛びつく人がいるが,大きな誤診をしかねない.画像所見の多くは非特異的で,画像だけで診断できることはそれほど多くない.
- ● 例えば肝細胞癌は,多くは慢性の肝障害や肝硬変の肝臓にみられ,健常肝から発生することは稀である.一方,FNHは健常肝から発生する.また糖原病の人には腺腫がみられることが多い.無論,担癌患者であれば転移の可能性が高くなる.このように検査前確率を十分に把握せずに診断することは極めて危険だ.
- ● 肝腫瘤の診断においては年齢や性別,肝機能をはじめとする血液データ,腫瘍マーカーの値,既往歴,合併症の有無などを十分に把握することが診断の第一歩である.
- ● ただし,例外もありうることはいうまでもない.肝硬変患者でも血管腫をみることは少なくない.検査前確率を十分考慮しつつも,絶対ということはないので,柔軟な姿勢も重要である.
Q2. 造影パターンからそれぞれどんな診断が考えられるか?
A2. 肝細胞癌,肝血管腫,FNH,肝腺腫,多血性の転移
【鉄則】多血性の肝腫瘤をみたら,まず①肝細胞癌,②血管腫,③FNHを考える
- ● 多血性腫瘍での鑑別は表1-1に挙げたように多くの疾患が鑑別に挙がる.ベースに肝障害があるか,担癌患者かなどでこの順位は変わってくるが,このなかで頻度の高いものは,①肝細胞癌,②血管腫,③①限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia; FNH)である.ざっくりいえばトップ3で7割,トップ5で9割がカバーされる.つまり,このトップ3を軸に診断を進めていけばよい.
- ● 特に肝腫瘍では,頻度の高い悪性の肝臓癌と良性の血管腫の鑑別は,その後のマネジメントが大きく異なり,重要である.
- ● その他,多血性腫瘍で押さえておくものとして多血性の転移が挙げられる.原発巣が多血性の腫瘍〔神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor; NET),消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor; GIST),褐色細胞腫(図1-5),腎細胞癌,甲状腺癌,悪性黒色腫や肉腫など〕は,転移巣も多血性のことが多い.
- ● 内胆管細胞癌は多くは乏血性であるが,腫瘤径が小さなものでは多血性を呈することがあり,肝細胞癌と鑑別が困難なことがある(図1-6).
【鉄則】最もキーとなる所見を重点的に攻める
- ● 一般に画像所見にはかなり幅がある.特に頻度の高い腫瘍では所見のバラツキを多々経験する.しかし,それぞれの疾患には,病理学的に重要なポイントがあるのと同様に,画像所見にもキモとなる所見と付随する所見がある.
- ● 例えば,肝腫瘍のトップ3では次のような所見がキモとなる.
①肝細胞癌:早期濃染とwashout,被膜,モザイク(図1-1)
②肝血管腫:fill-in,濃染部の吸収値=血管の吸収値(図1-2)
③FNH:動脈相濃染,中心瘢痕(図1-3) - ● 無論,非典型例も少なくないが,まずは上記のキー所見がみられるかどうかを押さえよう.
肝胆膵画像診断の鉄則。
肝胆膵脾の画像診断においてこれだけは押さえておきたい“鉄則”を1冊に!
肝胆膵脾の画像診断のポイントを“鉄則”形式でズバッと示した1冊。部位・画像所見別の37のシナリオに沿って、主要疾患の症例を提示。各疾患の画像所見の解説に留まらず、所見をみた際にどのようにして鑑別診断を進めるかといった診断のプロセスについても言及する。またモダリティの選択など、画像診断を進めるうえでの留意点についても適宜取り上げる。読影の腕試しができるWeb付録を収載。
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