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『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた 第2集』より

連載 三木 貴弘 ,渡邊 勇太,野村 勇輝,本村 遼介,鈴木 智之

2024.07.05

主要な整形外科疾患の「術後リハビリテーション」にスポットを当て、機能解剖や手術法の知識から、評価や介入の方法に至るまで時系列に沿って多角的に解説し、好評を博した書籍の第2弾『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた 第2集』がついに刊行されました。前作で紹介できなかった13の重要疾患を収載し、臨床で誰しもが遭遇するであろうさまざまな“こんなときどうする!?”に対し、具体的な解決策を提示します。

 

今回の医学界新聞プラスでは,本書の中から「半月板損傷」について,時系列に沿った部位ごとのリハビリテーションの方法を3週にわたって紹介していきます。

術後リハビリテーション

半月板縫合術
  •  
  • ● 半月板縫合術後のリハビリテーションでは,半月板の病態(損傷部位や損傷形態,受傷メカニズム)および手術内容を理解すること,半月板修復術後の治癒過程(ヒーリングプロセス)を考慮すること,半月板に加わる過度な圧迫ストレスや剪断ストレスを避けながら適切な運動負荷を加えることが重要となる.
  • ● 患者が目指すゴールや各々の身体機能,また合併症(靱帯再建術や骨切り術など)の影響により術後リハビリテーションの修正・変更などがあるため,必ず医師の指示を確認する.
  • ● 本項では筆者らの施設で使用している術後プロトコルに沿って進めていく.
  • ● 本項では紙面の関係上,特に術後早期について解説する.スポーツ復帰のためのアスレチックリハビリテーションについては成書を参照されたい.

 

1.術後リハビリテーションの基本戦略

  • ● 半月板縫合術後のリハビリテーションのポイントは「半月板縫合部の治癒を阻害しないこと」と「半月板縫合部に過負荷をかけない動作を獲得すること」である.
  • ● 半月板の治癒過程を考慮すると,術後3か月以内では半月板縫合部の力学的強度は低く45,46),術後早期から術後3か月までは縫合部に過負荷をかけると再損傷する恐れがある.
  • ● 荷重位での膝屈伸運動に伴う半月板の変位は非荷重位よりも大きくなるため47),スクワットなどの荷重位における膝屈伸運動は術後3か月以降から行う.
  • ● 術後に生じる膝関節の機能低下を改善させながら,必要に応じて体幹や股関節,足関節の運動機能を向上させて,動作中に膝関節の過度な屈曲や回旋を生じさせないことが重要である.

 

 

2.術後の全体像

こんなとき2_第1回_表(全体像).png
表 術後リハビリテーションの全体像

 

3.術後リハビリテーションの実際

手術当日
  • ● 手術情報(術式や術中所見)の確認
  • ● 術後プロトコル(ROM制限,荷重制限,装具の使用期間など)の確認
  • ● 臥床期間やドレーンチューブ留置期間の確認
  • ● 検査値の確認

 

  • ● ここでは主に半月板前節/中節を縫合した場合のリハビリテーションについて述べる.

Day 1〜2

  • ● 全身状態および患部の炎症所見を確認してリハビリテーション介入を開始する.
  • ● 術後早期から膝周囲組織の癒着を予防する.しかし,痛みが強い場合は愛護的に進める.
  • ● ドレーンチューブなどのルート類の確認を行い,ベッド上での深部静脈血栓症(DVT)の予防を行う.
術後オリエンテーション
  • (1)目的
  • ● 患者が術後リハビリテーションの目的や意義を理解する.
  • ● 患者教育および目標設定を行う.
  • (2)ポイント
  • ● 術後プロトコル(ROM制限,荷重制限,装具の使用期間など)の概要や入院中の経過について説明し,退院までの見通しを立てる.
  • (3)方法
  • ● 術後リハビリテーションの流れを簡潔に説明する.
  • ● 患者と相談を行いながら目標設定を行う.
  •  

〜 1 Week

  • ● 術後の炎症症状の軽減を図り,腫脹や浮腫の管理を行う.
  • ● 術後の癒着を防ぎ,可及的速やかに膝伸展ROMを獲得する.
  • ● 歩行獲得に向けて,患部外(体幹・股関節・足関節)の運動機能を高める.
炎症症状の緩和
  • (1)目的
  • ● 速やかな炎症症状の緩和を促す.
  • (2)ポイント
  • ● 膝の腫脹は関節因性筋抑制を引き起こし,長期化すると大腿四頭筋の筋萎縮を生じさせるため,炎症の早期鎮静化を図ることが重要である.
  • (3)方法
  • ● 冷却療法(アイシング)を20分程度実施する.
  • ● 足関節底背屈自動運動(カーフパンピング)を行う.
  • ● 場合によっては足部から膝関節まで弾性包帯を巻き,圧迫も行う.
  •  
膝伸展の可動域練習
  • (1)目的
  • ● 膝伸展ROMの獲得
  • (2)ポイント
  • ● 術後の膝伸展制限は大腿四頭筋(特に内側広筋)の筋力低下を引き起こす要因となるため,膝伸展ROMは術後より可及的早期に獲得する.
  • ● 術最終的にはHHD(heel height difference)での完全伸展を目指す.
  • ● 半月板前節の損傷の場合は,膝関節の過伸展が生じないように注意する.
  • (3)方法
  • ● 術後早期であるため努力的な伸展獲得を目指すのではなく,まずは安静臥位にて自然に伸展が可能な状態を目指す.
  • ● 長座位や足関節背屈位はハムストリングスや腓腹筋の筋緊張を上げるため,背臥位にて治療を行うとよい.
  • ● 大腿部の筋緊張などを評価し,リラックスした状態の背臥位を獲得する.
  • ● 背臥位でハムストリングスや腓腹筋に対し,徒手的に圧迫リリースまたは横断的マッサージを行う.
  • ● ハムストリングスや腓腹筋のセルフストレッチを実施したり,ヒールスライドの伸展時に手を使って軽く上から押し付けながら膝を伸ばすことも有効である(図14)
  •  
こんなとき2_第1回_図14.png
図14 膝伸展の可動域練習
a:ハムストリングスのセルフストレッチ.骨盤前傾を意識して行う.大腿後面の伸張を感じるとよい.
b:腓腹筋のセルフストレッチ.踵を浮かせないように注意する.下腿後面の伸張を感じるとよい.
c:他動膝伸展ROM 練習.痛み刺激によって過度な筋緊張が生じないように愛護的に行う.
a,b は装具を着用しながら実施可能.
パテラモビライゼーション
  • (1)目的
  • ● 膝蓋骨可動性の獲得
  • (2)ポイント
  • ● 膝蓋骨の可動性低下は膝関節の可動域制限を引き起こす要因となるため,可及的早期に可動性を獲得する.
  • ● 膝蓋骨の下方向の可動性が低下することによって,膝屈曲ROM制限が生じることが多い.一方,膝蓋骨の上方向の可動性が低下することによって,大腿四頭筋セッティング時における内側広筋の筋収縮が不良となることが多い.
  • ● 膝蓋下脂肪体は手術侵襲により瘢痕化しやすく48),膝蓋骨可動性を低下させる要因となる.
  • (3)方法
  • ● 膝関節はなるべく伸展位とし,大腿部の緊張が抜けた状態で行う.
  • ● 膝蓋骨を把持し,上方向/下方向,内側方向/外側方向へ愛護的に動かす(図15)
  • ● 必要に応じて,膝蓋下脂肪体や膝蓋上囊のモビライゼーションを併用して実施する〔6章‒3「膝蓋骨脱臼」の項(➡366ページ)参照〕.
  •  
  •  
こんなとき2_第1回_図15.png
図15 パテラモビライゼーション
a:上方向へのパテラモビライゼーション
b:内側方向へのパテラモビライゼーション
c:セルフでのパテラモビライゼーション
大腿四頭筋セッティング
  • (1)目的
  • ● 大腿四頭筋(主に内側広筋)の促通,萎縮防止
  • (2)ポイント
  • ● 大腿四頭筋セッティングでは,内側広筋の筋収縮が入ること(内側広筋の筋硬度が高まること),筋収縮に合わせて膝蓋骨を挙上させることが重要である.
  • ● 内側広筋の筋収縮のタイミングなどをコントロールさせることも重要である.
  • ● 神経筋電気刺激(neuromuscular electrical stimulation;NMES)を使用することで,より効果的に筋収縮を得ることができる.
  • ● 大腿四頭筋セッティング時に膝伸展運動ではなく,股関節伸展運動を使って代償することがあるため注意が必要である.
  • (3)方法
  • ● 背臥位もしくは長座位にて,膝下に入れた枕やタオルを押しつぶすように力を入れる(図16)
  • ● 事前に健側にて練習を行い,セッティングを行う際に内側広筋に筋収縮が入る感覚や膝蓋骨を挙上させるイメージを持たせる(図17)
  • ● 内側広筋の収縮感が得られにくい場合は,神経筋電気刺激を併用して行う.
  •  
こんなとき2_第1回_図16.png
図16 大腿四頭筋セッティング
内側広筋の筋収縮を確認し,膝蓋骨を挙上させる.①踵を浮かせない,②股関節伸展で代償しな い,③収縮後は弛緩(脱力)を意識する,の3 点に注意する.
こんなとき2_第1回_図17.png
図17 大腿四頭筋セッティング(筋収縮時の膝蓋骨挙上を誘導)
徒手的に膝蓋骨を下方に変位させる,徒手抵抗に逆らうように膝蓋骨を挙上させる,の順で行う.膝蓋骨を挙上させることによって,内側広筋の筋収縮が入りやすくなる.
健側および他部位(体幹・股関節・足関節・足部)の筋力トレーニング
  • (1)目的
  • ● 体幹および下肢筋力の維持・向上
  • (2)ポイント
  • ● 再発予防や競技復帰には膝関節のみならず,他部位(体幹・股関節・足関節・足部)の機能も重要であるため,術後早期より介入を開始する.
  • ● 図18,19 に代表的なトレーニング内容を提示するが,それらに加えて個人の身体機能や競技特性に合わせた内容を追加する.また,重錘やセラバンドを追加して,個人の能力に合わせて負荷量を設定する.
  • (3)方法
  • ● 図18,19を参照.
  •  
こんなとき2_第1回図18a.png
こんなとき2_第1回図18b.png

図18 体幹トレーニングの例

  • a: プランク.肘は肩の真下に置き,腹圧を保ち体幹を一直線にする.荷重制限期間は患側下肢を健側の上に乗せるか患側下肢を挙上して実施する.
  • b: デッドバグ.腹圧をコントロールしながら行う.腰椎の過度な伸展が生じないように注意する.
    必要に応じて装具着用しながら実施する.腹圧を適切にコントロールしながら実施し,代償運動が出ないように注意する.

 

 

こんなとき2_第1回図19.png
図19 股関節トレーニングの例
  • a:SLR(straight leg raising).大腿四頭筋セッティングを組み合わせて実施する.大腿四頭筋(内側広筋)の筋収縮を確認する.
  • b:side SLR.中殿筋の筋収縮を確認しながら実施する.〔注意すべき代償運動〕体幹:腰椎の伸展,骨盤の回旋/挙上.股関節:屈曲,外旋
  • c:reverse SLR.大殿筋の筋収縮を確認しながら実施する.〔注意すべき代償運動〕体幹:腰椎の伸展,骨盤の回旋.膝関節:屈曲
  • d: Swiss ball hip extension.①膝の下にボールを置く,②腹圧を保ち体幹を一直線にする,③大殿筋の筋収縮を確認する,の順に実施する.身体の動揺が生じないように注意する.〔注意すべき代償運動〕体幹:腰椎の伸展,骨盤の回旋
  • 必要に応じて装具着用しながら実施する.腹圧を適切にコントロールしながら実施し,代償運動が出ないように注意する.

 

  • 文献
  • 45)Arnoczky SP, Warren RF:The microvasculature of the meniscus and its response to injury:an experimental study in the dog. Am J Sports Med 11:131—141, 1983
  • 46)石川大樹:半月板縫合術後の修復過程における断裂部の神経・血管の観察.昭和医学会雑誌56:265—272,1996
  • 47)Vedi V, Spouse E, Williams A, et al:Meniscal movement:an in—vivo study using dynamic MRI. J Bone Joint Surg Br 81:37—41, 1999
  • 48)Dragoo JL, Johnson C, McConnell J:Evaluation and treatment of disorders of the infrapatellar fat pad. Sports Med 42:51—67, 2012

こんなときどうする!?

➀半月板縫合部の治癒過程(ヒーリングプロセス)がわからない

  •  
  •  ● 半月板には,治癒しやすい部分(血行野)と治癒しにくい部分(無血行野)がある.
  •  ● 術後3か月の時点において,半月板縫合部の血管系はある程度の修復が得られるが,組織的にはまだ完全ではない.
  •  ● 術後5~6か月の時点において,半月板縫合部が完全もしくは部分的に治癒する可能性がある.
  •  ● 臨床では,主治医の治療方針を十分に理解したうえで,患者の半月板の損傷形態や損傷部位,半月板縫合部の治癒過程やその可能性,再断裂のリスクについて情報を整理しながら,術後リハビリテーションを進めていくことが重要である.
1 . 半月板の血液供給と治癒能力 (図1,2)1,2)
  •  ● 半月板は,関節包側から外周1/3(内側半月板の10~30%,外側半月板の10~25%)に血液が供給される3-5)
  •  ● 外周1/3は血流が豊富なred—red zoneであり,治癒する可能性が最も高い.
  •  ● 中央1/3は血流が乏しいred—white zoneであり,治癒する可能性は中間である.
  •  ● 内周1/3は血流がないwhite—white zoneであり,治癒する可能性が最も低い.
  •  ● 治癒する可能性が低い無血行野においても,滑膜によって半月板が修復される可能性が示されている6-8)
  •  ● 以上より,損傷部位が血行野にあるか無血行野にあるかで治癒する可能性が変化すると考えられている.
  •  

 

こんなとき2_どうする図1.png
図1 半月板の血液供給
(Vinagre G, Cruz F, Alkhelaifi K, et al:Isolated meniscus injuries in skeletally immature children and adolescents:state of the art. Journal of ISAKOS, 2022 より改変)
こんなとき2_どうする図2.png
図2  半月板の毛細血管網
R-R:red-red zone,R-W:red-white zone,W-W:white-white zone(Vinagre G, Cruz F, Alkhelaifi K, et al:Isolated meniscus injuries in skeletally immature children and adolescents:state of the art. Journal of ISAKOS, 2022 より改変)
2 .半月板縫合部の治癒過程(動物実験) 9)
  •  ● イヌの半月板辺縁部(外周1/3)に縦断裂を作成し,縫合後の半月板の治癒過程を観察した.
  •  ● 術後2週:断裂部に毛細血管網の発達や線維芽細胞の増生がみられ,修復は始まっているが,健常組織との境界は明瞭である.
  •  ● 術後4週:術後2週より断裂部の修復が進み,さらに密な毛細血管網の発達や線維芽細胞の増生がみられ,ところどころで線維成分の増生がみられる.
  •  ● 術後6週:断裂修復部は健常組織との境界が不明瞭になる.血管は断裂修復部を越えてさらに内側へ進入する.
  •  ● 術後8週:術後6週より断裂修復部の細胞成分が減少し,増加した線維成分で置き換わる.また,血管は断裂修復部を越えてさらに内側へ進入する.
  •  ● 術後12週:断裂修復部の不明瞭化が進み,血管分布密度は断裂修復部と健常組織で差はみられなくなる.
  •  ● 術後24週:血管網は正常な半月板と同様に外周1/3程度まで内側へ侵入する.しかし,健常組織と比較する断裂修復部の線維成分の配列が不規則である.
  •  ● 以上の結果より,血管系は術後12週(3か月)の時点である程度の修復が得られることが考えられるが,縫合部の強度は十分ではない可能性が高い.
  •  
3 .半月板縫合部の力学的強度(動物実験) 10)
  •  ● Guisasola らは,ヒツジの半月板(無血行野)に縦断裂を作成し,術後6週時点での半月板縫合部の力学的強度(破断強度)を調査した.半月板縫合部の力学的強度は正常半月板の50%以下であったことが報告されている.
  •  
4 .半月板縫合部の術後成績(再鏡視やMRIを用いた評価)
  •  ● 縦断裂および斜断裂に対して内側/外側半月板縫合術が施行された症例35名36膝(平均年齢22歳)を平均5か月(2~10か月)で再鏡視した結果,全体の84%は完全治癒または部分治癒した(完全治癒56%,部分治癒28%)11)
  •  ● 放射状断裂および斜断裂に対して外側半月板縫合術が施行された症例18名18膝(平均年齢18.5歳)を平均6.2か月(18~41週)で再鏡視した結果,全体の61%は完全治癒または部分治癒した(完全治癒22%,部分治癒39%)12)
  •  ● 内側/外側半月板縫合術が施行された症例30名(平均年齢28歳)をMRIで評価した結果,術後3か月で全体の87.9%は完全治癒または部分治癒(完全治癒51.5%,部分治癒36.4%)し,術後6か月で全体の91.2%は完全治癒または部分治癒(完全治癒55.9%,部分治癒35.3%)した13)
  •  
  • 文献
  •   1)Stocco E, Porzionato A, De Rose E, et al:Meniscus regeneration by 3D printing technologies:Current advances and future perspectives. J Tissue Eng 13:20417314211065860, 2022
  •   2)Vinagre G, Cruz F, Alkhelaifi K, et al:Isolated meniscus injuries in skeletally immature children and adolescents:state of the art. Journal of ISAKOS, 2022
  •   3)Arnoczky SP, Warren RF:Microvasculature of the human meniscus. Am J Sports Med 10:90-95, 1982
  •   4)Danzig L, Resnick D, Gonsalves M, et al:Blood supply to the normal and abnormal menisci of the human knee. Clin Orthop Relat Res 172:271-276, 1983
  •   5)Day B, Mackenzie W, Shim SS, et al:The vascular and nerve supply of the human meniscus. Arthroscopy 1:58-62, 1985
  •   6)Ghadially F, Wedge J, Lalonde J:Experimental methods of repairing injured menisci. J Bone Joint Surg Br 68:106-110, 1986
  •   7)Arnoczky SP, Warren RF:The microvasculature of the meniscus and its response to injury:an experimental study in the dog. Am J Sports Med 11:131-141, 1983
  •   8)Kim W, Onodera T, Kondo E, et al:Which contributes to meniscal repair, the synovium or the meniscus? An in vivo rabbit model study with the freeze-thaw method. Am J Sports Med 48:1406-1415, 2020
  •   9)石川大樹:半月板縫合術後の修復過程における断裂部の神経・血管の観察.昭和医学会雑誌56:265-272,1996
  • 10)Guisasola I, Vaquero J, Forriol F:Knee immobilization on meniscal healing after suture:an experimental study in sheep. Clin Orthop Relat Res 395:227-233, 2002
  • 11)Horibe S, Shino K, Maeda A, et al:Results of isolated meniscal repair evaluated by second-look arthroscopy. Arthroscopy 12:150-155, 1996
  • 12)Tsujii A, Amano H, Tanaka Y, et al:Second look arthroscopic evaluation of repaired radial/oblique tears of the midbody of the lateral meniscus in stable knees. J Orthop Sci 23:122-126, 2018
  • 13)Willinger L, Herbst E, Diermeier T, et al:High short-term return to sports rate despite an ongoing healing process after acute meniscus repair in young athletes. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 27:215-222, 2019

②半月板縫合部に過度なストレスをかけないための注意点を知りたい

関節可動域
  •  ● 膝関節の深屈曲や過伸展によって半月板の変位が増大するため,術後プロトコルに沿って慎重に可動域練習を行う.
  •  ● 荷重位での膝屈伸運動に伴う半月板の変位は非荷重位よりも大きくなるため,スクワットなどのCKCトレーニングは術後プロトコルに沿って慎重に行う.
  •  ● 荷重位では膝屈曲90°以上で半月板の荷重伝達が大きくなるため,腫脹や関節水腫を常にチェックしながら膝屈曲角度の設定を段階的に上げていく. 
下肢アライメント
  •  ● 膝関節の不良アライメントの代表的なものとして,下腿外旋アライメント(大腿骨に対する脛骨の外旋)がある.
  •  ● 下腿外旋位での膝屈伸運動によって内側半月板に負荷が加わるため,下腿外旋アライメントに対する評価・治療を行う.
運動機能
  •  ● 半月板損傷は,過度な軸荷重(圧迫ストレス)と回旋力(剪断ストレス)の組み合わせによって引き起こされると考えられている.
  •  ● 軸荷重により過度な圧迫ストレスが半月板に加わるため,運動課題中の衝撃吸収能力を獲得する.
  •  ● 膝外反により過度な圧迫ストレスが外側半月板に加わるため,前額面上での姿勢制御機能を獲得する(膝外反方向の外力に対する下肢の安定性を獲得する).
  •  ● 膝回旋により過度な剪断ストレスが半月板に加わるため,水平面上での姿勢制御機能を獲得する(膝内旋・外旋方向の外力に対する下肢の安定性を獲得する).
半月板の荷重伝達機能
  •  ● 荷重時に膝関節に加わる圧迫ストレスは,半月板が円周方向に引っ張られる力(フープストレス)へと変換される1).その機序は以下のとおりである(図1)
    ①荷重時に膝関節に加わる圧迫ストレスは,水平方向の力(半月板を外側に押し出す力)と垂直方向の力(脛骨面に加わる力)として作用する.
    ②水平方向の力(半月板を外側に押し出す力)に抵抗するために,半月板には円周方向の張力(フープストレス)が発生する.
    ③円周方向に走行するコラーゲン線維(circumferential fibers)が,張力(フープストレス)を吸収する.
  •  ● 半月板の荷重伝達は膝屈曲0~60°の範囲では大きな変化は見られないが,膝屈曲90°では内側と外側の両方とも大きくなる2)
新こんなとき2_どうする図2-1.png
図1 半月板の荷重伝達機能
(Markes AR, Hodax JD, Ma CB:Meniscus Form and Function. Clin Sports Med 39:1-12, 2020 より改変)
膝関節の屈曲・伸展時における半月板の変位
  •  ● 半月板は膝伸展から屈曲に伴って後方に移動し,膝関節の適合性を高める役割を持つ(図2,3)3-7)
  •  ● 荷重下の膝屈伸に伴う半月板の変位は,非荷重下より増加する傾向を示す(図4)4)
  •  ● 外側半月板の変位は内側半月板よりも大きい(図2,4)3-5)
  •  ● 半月板前節の変位は後節よりも大きい(図2,4)3-5)
膝関節の外旋・内旋時における半月板の変位8,9)
  •  ● 外側半月板は膝外旋(大腿骨に対する脛骨の外旋)に伴って前方に,膝内旋(大腿骨に対する脛骨の内旋)に伴って後方に変位する.一方,内側半月板は膝外旋に伴って後方に,膝内旋に伴って前方に変位する.
  •  ● 膝外旋では内側半月板が最も大きく変位し,膝内旋では外側半月板が最も大きく変位する.
  •  
こんなとき2_どうする図2-2.png
図2 非荷重位:脛骨に対する半月板の移動

膝完全伸展位(灰色)から膝深屈曲位(水色)における半月板の位置変化が示されている.破線は半月板の前節・中節・後節の領域を示す.膝完全伸展位(赤い点)から膝深屈曲位(青い点)において,外側半月板全体は後方に8.2 mm(前節は10.2 mm,後節は6.2 mm)移動し,内側半月板全体は後方に3.3 mm(前節は6.5 mm,後節は3.1 mm)移動する.(Yao J, Lancianese SL, Hovinga KR, et al:Magnetic resonance image analysis of meniscal translation and tibio-menisco-femoral contact in deep knee flexion. J Orthop Res 26:673-684, 2008 より 改変)

 

新こんなとき2_どうする図2-3.png
図3 非荷重位:大腿骨および脛骨に対する半月板の接触領域の1例

膝完全伸展位と膝深屈曲位において,大腿骨および脛骨が半月板(m)や関節軟骨(c)と接触する領域が示されている.
(Yao J, Lancianese SL, Hovinga KR, et al:Magnetic resonance image analysis of meniscal translation and tibio-menisco-femoral contact in deep knee flexion. J Orthop Res 26:673-684, 2008より改変)

 

こんなとき2_どうする図2-4.png
図4 荷重位と非荷重位における半月板の変位

膝伸展0°(水色)から膝屈曲90°(破線)における半月板の位置変化が示されている.
(Vedi V, Spouse E, Williams A, et al:Meniscal movement:an in-vivo study using dynamic MRI. J Bone Joint Surg Br 81:37-41, 1999より改変)

 

  • 文献
  •   1)Markes AR, Hodax JD, Ma CB:Meniscus Form and Function. Clin Sports Med 39:1-12, 2020
  •   2)Ahmed A, Burke D:In-vitro of measurement of static pressure distribution in synovial joints-Part Ⅰ:Tibial surface of the knee. J Biomech Eng 105:226-236, 1983
  •   3)Thompson WO, Thaete FL, Fu FH, et al:Tibial meniscal dynamics using three-dimensional reconstruction of magnetic resonance images. Am J Sports Med 19:210-216, 1991
  •   4)Vedi V, Spouse E, Williams A, et al:Meniscal movement:an in-vivo study using dynamic MRI. J Bone Joint Surg Br 81:37-41, 1999
  •   5)Yao J, Lancianese SL, Hovinga KR, et al:Magnetic resonance image analysis of meniscal translation and tibio-menisco-femoral contact in deep knee flexion. J Orthop Res 26:673-684, 2008
  •   6)Kim E, Kim YJ, Cha JG, et al:Kinematic change of the meniscus and the tibiofemoral joint space in asymptomatic volunteers using a wide bore 3T closed MRI system. Skeletal Radiol 44:1441-1451, 2015
  •   7)Yamamoto T, Taneichi H, Seo Y, et al:MRI—based kinematics of the menisci through full knee range of motion. J Orthop Surg(Hong Kong)29:1-8, 2021
  •   8)Bylski-Austrow DI, Ciarelli MJ, Kayner DC, et al:Displacements of the menisci under joint load:an in vitro study in human knees. J Biomech 27:421-431, 1994
  •   9)Fuchs A, Georgii J, Taghizadeh E, et al:In-vivo assessment of meniscal movement in the knee joint during internal and external rotation under load. J Exp Orthop 9:1-9, 2022
 

「こうすればいいのか!」。
術後リハってやっぱりこんなに奥深い。

<内容紹介>主要な整形外科疾患の「術後リハビリテーション」にスポットを当て、機能解剖や手術法の知識から、評価や介入の方法に至るまで時系列に沿って多角的に解説し、好評を博した書籍の第2弾『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた 第2集』がついに刊行されました。前作で紹介できなかった13の重要疾患を収載し、臨床で誰しもが遭遇するであろうさまざまな“こんなときどうする!?”に対し、具体的な解決策を提示します。

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術後リハで起こるどんなイレギュラーにも慌てない!

 

<内容紹介>腰椎椎間板ヘルニア,変形性股関節症,橈骨遠位端骨折……本書は,整形外科領域のリハビリテーションを担当する療法士に馴染み深い代表的な疾患について,術後リハビリテーションに焦点を当てて,時系列に沿いながら多角的に解説する。
また,多くの療法士が持つ悩みを熟知した経験豊富な執筆陣により,臨床で誰もが一度は遭遇するであろう“こんなときどうする!?”をピックアップし,具体的な解決策を提示する。

 

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