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『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』より

連載 松田 光弘

2022.02.11

誰も教えてくれなかった 皮疹の診かた・考えかた

 臨床現場において,皮疹をみた際にどう診断をつければ良いかがわからず,途方に暮れてしまう人も多いのではないでしょうか? では,皮疹をみたときに皮膚科医は何を考え診断をしているのでしょうか。「研修医のときに欲しかった教科書」をコンセプトに書かれた『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』では,診断に至る思考過程をフローチャートでわかりやすく解説します。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,皮疹の鑑別を始める前に注目すべき皮膚の性状について,症例を交えて4回にわたり紹介します。第3回には,本書付録のWeb動画を公開します。


 

 

  • 研修医 仮説形成のプロセスでは,「患者の言葉の医学情報化」と「リストの順位付け」を行うんですね.

    指導医 それを皮膚科に応用するとどうなるだろう?

    研修医 リストの順位付けはなんとなくわかりますが,医学情報化のほうはどうなるんでしょうか?

    指導医 皮膚科では皮疹の医学情報化ということになるだろうね.そこで原発疹の考え方が重要になるんだ.

皮疹の医学情報化 ①原発疹

 それでは,ここまで解説した仮説形成のプロセスを皮膚科に応用するとどうなるでしょうか.
内科ではまず患者の言葉の医学情報化が行われましたが,皮膚科では患者の言葉ではなく,皮疹の見た目を医学情報化する必要があります.

 見た目を医学情報化するに当たってどんな情報が必要になるでしょうか.それは①原発疹と②皮疹の分布です.まず原発疹について説明していきます.
 皮膚病変を表現する際の公用語が原発疹です.皮疹があれば以下の原発疹のどれに当たるかを考えます(表5-4).

表5-4.jpg

 このように皮疹を言葉で表し,それに基づいて疾患を分類することを記載皮膚科学と呼びます.記載皮膚科学は皮膚科学の起源で,18世紀末にヨーロッパで学問として成立したそうです.
 それでは第2章で取りあげた症例を用いて,具体的に考えてみましょう.図5-11をみてください.

図5-11.jpg

 赤い皮疹があるのがわかると思います.この皮疹を原発疹に当てはめると紅斑になります.これが皮疹の医学情報化です.教科書には原発疹ごとに鑑別診断が挙げられています.ただし紅斑のままでは,胸痛と同様に疾患が多すぎて絞り切れません.そのため,もう少し細かく分類しなければなりません.いろいろな分類法があるのですが,2〜4章では以下のように紅斑を分類しました.

 ①は湿疹,皮膚真菌症,Bowen病,乾癬などが鑑別診断として挙がります.②は薬疹,感染症,自己免疫疾患,③は感染症,血管障害,自己免疫疾患です.同じ紅斑でもこのように詳しく医学情報化していくことで鑑別診断が絞られるのです.

 教科書には最初に「皮疹を正確な用語で表現しなければならない」と書かれています.その目標は「皮疹をみていない相手に正確な絵を描かせることができること」とされていて,確かに重要なことです.しかし皮疹の正確な表現は伝達のための手段というよりは,皮疹を医学情報化し分類するためのものです.どれだけ正確に表現できても,分類を意識して学ばなければ役に立たないのです.

 次に,図5-12はどうでしょうか.

 白濁した液体が貯留した皮疹があります.このような皮疹を膿疱と呼んでいます.これで皮疹が医学情報化されました.それでは膿疱にはどのような鑑別診断があるのでしょうか(表5-55)

 このように数多くの疾患を鑑別する必要があり,リストとしては使い物になりません(弱いカード).皮疹の形態だけではなく,さらに別の軸からリストを絞っていきましょう.(続きは本書をご覧ください)

文献
5)原弘之,照井正:膿疱ができる疾患を鑑別するコツ.MB derma 15:1-5,2009

https://www.igaku-shoin.co.jp/application/files/3316/3997/7370/108969.jpg
 

皮膚科×診断推論!

<内容紹介>皮膚科初学者にまず手に取っていただきたい「皮疹の診かた」の入門書。皮疹をみたときに皮膚科医は何を考えているのか―その思考過程を惜しみなく披露します。
本書では,皮疹の表面性状に注目し,病変の存在部位から皮疹が生じた原因を推測して鑑別診断を考えます。
診断のプロセスはフローチャートでわかりやすく示しました。各章末には症例問題を掲載し,実際の症例で診断のプロセスをおさらいできる構成となっています。
付録として症例問題を解説したWeb動画を収載!

目次はこちらから

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