医学界新聞

第30回日本結合組織学会学術大会開催


 第30回日本結合組織学会学術大会が大島章会頭(和歌山医大教授)のもと,さる6月11-12日の両日,和歌山市の県民文化会館で開催。細胞外マトリックスを「細胞機能を制御する活性分子(Cell-controlling,functionally active molecules)」として捉えることをコンセプトとし,特別講演,会頭講演,ワークショップ3題,トピックス「線維化に対する遺伝子治療の試み」,60題の一般口演が行なわれた。

Regulation of skeletal development

 特別講演は,Bjorn R. Olsen氏(ハーバード大教授)が「Regulation of skeletal development-Insights derived from genetic disorders」というタイトルのもとに行なった。代表的な細胞外マトリックスであるコラーゲンは遺伝子ファミリーを形成し,コラーゲン分子特有の組織分布・局在が知られているが,コラーゲン分子の中でも,IX型コラーゲンの遺伝子異常が軟骨形成異常をきたすことをヒト家系,モデル動物で示された。また多指合指症,顔面頭蓋,骨格形成異常症の遺伝性家系から,ポジショナルクローニングによって見出された原因遺伝子(ホメオボックスHOXD13,転写因子CBFA1遺伝子異常)の報告があり,胎生期器官形成,骨・軟骨分化の分子機構と細胞外マトリックスに関する最新情報が提供された。

高血圧と血管リモデリング

 一方,大島氏による会頭講演は,「高血圧と血管リモデリング(Hypertension and vascular remodeling)」と題して行なわれ,試験管内高血圧実験モデルとして,培養平滑筋細胞に周期的伸展刺激を負荷することにより,コラーゲン遺伝子発現,細胞増殖の亢進が惹起できることを報告。接着班・細胞骨格系に集積するシグナル分子(FAK, paxillin)のチロシン燐酸化が伸展刺激の細胞内伝達に関与することが示され,高血圧性血管病変の発症における局所レニン・アンジオテンシン系の亢進に加え,TGF-β,PDGFのオートクリン・パラクリン機構の介在が強調された。

細胞外マトリックスの「多様性と調節」と「情報伝達」
および細胞外マトリックスと疾患

 第1日目にはワークショップ「細胞外マトリックスの多様性と調節」(座長=岡山大 二宮善文氏,演者=東医歯大 畑隆一郎氏,和歌山医大 村垣泰光氏,京大 永田和宏氏,慶大 岡田保典氏)が開かれ,コラーゲン遺伝子発現の調節(畑氏),コラーゲン分子の多様性とコラーゲン遺伝子異常に起因する疾患(村垣氏),コラーゲン生合成における分子シャペロン(HSP47)の役割(永田氏),MMP,TIMPの組織コラーゲン代謝調節が報告された。
 またワークショップ「細胞外マトリックスと情報伝達」(座長=愛知医大 木全弘治氏,演者=都老人研 山本清高氏,滋賀医大 羽田勝計氏,富山医薬大 遊道和雄氏,名大 浜口道成氏)では,血管内皮細胞(山本氏,遊道氏),糸球体メサンギウム細胞(羽田氏),卵巣癌細胞(浜口氏)を用い,細胞増殖,分化,組織内浸潤機構における細胞外マトリックス・インテグリン・細胞骨格系と細胞内シグナル分子(Ras,Rho,PKC,FAK)の役割を報告。
 第2日目に,ワークショップ「細胞外マトリックスと疾患」(座長=金沢大 中西功夫氏,演者=阪大 木村友厚氏,富山医薬大 高原照美氏,愛媛大 能勢眞人氏,京大 長井苑子氏)が行なわれ,IX型コラーゲン遺伝子異常による骨・軟骨疾患の発症機序(木村氏),肝線維化におけるMMPの関与(高原氏),免疫異常による血管炎の遺伝的背景因子の解析(能勢氏),各種病因による肺線維化の発症機構(長井氏)が報告された。

線維化に対する遺伝子治療の試み

 トピックス「線維化に対する遺伝子治療の試み」(座長=大島 章氏,演者=東北大 佐藤研氏,九大 上野光氏)では,将来的な線維化の予防・治療に向けた,最新の方法論が紹介された。ブレオマイシン処置実験的肺線維症でHGF遺伝子導入が肺侵害,維線化抑制効果を示すこと(佐藤氏)が報告された。また,変異TGF受容体遺伝子導入が臓器線維化病変(肝線維化,腎硬化)を阻害すること(上野氏)が報告され注目された。いずれの研究もアデノウイルスをベクターとして用いており,遺伝子導入効率の高いことを印象づけた。
 なお,来年の学術大会は岩田久会頭(名大教授)のもとで開催されることに決定。また,次回からの新しい試みとして,関連する学会(マトリックス研究会)(世話人=愛知心身障害者コロニー 大平敦彦氏)と連続的な日程での共同開催が予定されている。