第60回日本循環器学会開催
第60回日本循環器学会が,さる3月19―21日,川島康生会長(国立循環器病センター 総長)のもと,大阪のロイヤルホテル他において開催された。
会議は,今回外科医としては13年ぶりにその任にあたった川島氏による会長講演「21世紀に向け ての心臓外科の現況と展望」の他,外国人招請講演4題,シンポジウム4題,パネルディスカッション3題, ファイアサイドカンファレンス8題が発表された。
また恒例の“Mikamo Lecture (美甘講演)”では Braunwald 氏(米国・ハーバード大)の「The Treatment of Myocaidial Ischemia and Infarction」が,そして“真下記念講演”では,菅弘之氏(岡山大)の 「新しい心機能の概念を求めて」と題する講演が持たれた。
本号では,シンポジウム「循環器疾患の病態解明への新しい診断技術の応用」からいくつかの話 題を拾ってみた。
循環器疾患の病態解明への新しい診断技術の応用
シンポジウム「循環器疾患の病態解明への新しい診断技術の応用(座長=東大 矢崎義雄氏,北大 北畠顕氏)」では,(1)遺伝子,(2)免疫学および(3)生体工学の3点からのアプローチが報告された。遺伝子からのアプローチ
肥大型心筋症は原因不明の心疾患であったが,近年心筋βミオシン重鎖,αトロポミオシン,心筋ト ロポニンTの遺伝子異常が相次いで見いだされ,遺伝子レベルでの病因解明が可能となった。西宏文氏(久留米大)は,日本人家族性肥大型心筋症患者を対象に遺伝子異常とその病態・予後 との関連を検討した結果,「その30%で原因遺伝子異常が同定できた 」と報告。また臨床経過を比較す ると,「αトロポミオシン遺伝子異常による肥大型心筋症は,比較的心肥大が軽度で予後も良好。一方, ミオシン調節軽鎖または電荷変化を伴うトロポニンT遺伝子異常を伴うものは臨床病態が比較的不良であっ た」と述べ,さらに,同一遺伝子異常を有する症候群でも家系毎に臨床経過が異なり得ることから「副遺 伝子(修飾遺伝子)」の存在を示唆した。
遺伝子解析によるFabry病の確定診断を報告した中尾正一郎氏(鹿児島大)は,心Fabry病(左室 肥大から見いだされたFabry病)は,(1)臨床症状,(2)頻度,(3)発症年齢,(4)αガラクトシターゼ活性,(5) 遺伝子異常のいずれの点においても典型的Fabry病とは異なることを指摘。また,心Fabry病の診断方法と して(1)心筋病理診断,(2)酵素診断,(3)遺伝子診断をあげ,「原因不明の左室肥大の症例では鑑別診断に Fabry病をあげるべきである。心筋生検は参考となり,酵素活性測定,遺伝子解析で心Fabry病の確定診断 は可能」と報告した。
免疫学的アプローチ
心臓移植における最も深刻な合併症である「拒絶反応」の臨床的問題点の1つは早期診断にある。し かし拒絶反応は症状に乏しく,心エコー,抗ミオシン抗体シンチグラフィーなどにより,進行した拒絶の 診断は可能であるが,現状では臨床的に有効な非侵襲的早期診断法はない。MHC(組織適合抗原)やICAM‐1(intercellular adhesion molecule‐1)は拒絶に伴って非常に早 期から移植片の血管内皮細胞,心筋細胞上に発現し,T細胞による抗原認識機構に関与することによって 免疫応答に深く関わることに着目した磯部光章氏(信州大)は,マウスやラットの心臓移植の系を用いて, 抗マウスMHCクラスII抗原モノクローナル抗体を111 Inまたは123 Iで標識してシ ンチグラフィーを行ない, 「臨床応用には多くの未解決の問題があるが,これらのデータは,MHCや ICAM‐1を標的とした免疫シンチグラフィーが生検組織病理診断に代わりうる方法である可能性を示して いる 」と報告。
次いで瀧原圭子氏(阪大)が 「IL(インターロイキン)‐6ファミリーに属するサイトカインと 心筋障害 」を,鈴木亨氏(東大)が 「血清平滑筋ミオシン重鎖アッセイによる大動脈解離診断 」を発表 した。
生体工学的アプローチ
一方,以上の新手法に対して,3点目の「生体工学的アプローチ」では,既存の計測法において,病 態解明を目的とする技術革新が顕著なものが報告された。まず石田良雄氏(国立循環器病センター)は「高解像能PET」による心筋の生化学画像診断の最 近の進歩を紹介。次いで穂積健之氏(神戸市立中央病院)は「心エコー図」における3次元動画像構築に 関し,術前診断としての臨床的有用性を強調。また米澤一也氏(北大)は「31 P‐MRS(磁 気共鳴スペクトロスコピー法)」による心不全患者の骨格筋代謝異常に言及。非侵襲的,かつ運動停止せ ずに代謝測定ができ,最大心拍出量を要求しないで小筋群での代謝評価が可能であることを指摘した。