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今月の主題●座談会
臨床医が知っておきたいウイルス肝炎のポイント

発言者●発言順
四柳宏氏(東京大学医学部感染症内科)=司会
鈴木義之氏(虎の門病院肝臓センター)
黒崎雅之氏(武蔵野赤十字病院消化器科)
八橋弘氏(国立病院機構長崎医療センター臨床研究センター)


四柳 先生方,本日はお忙しいなかをお集まりいただき,ありがとうございます.本座談会は,「臨床医が知っておきたいウイルス肝炎のポイント」として,臨床医の先生方が出遭う肝疾患のマネジメントの実際を,ウイルス肝炎を中心にお話しいただきたいと思っております.本日お集まりの3人の先生方は,いずれも日本で多数の患者を診ている施設から来ていただいた,臨床の最前線で活躍されている先生方ですので,いろいろと有意義なお話が聞けるのではないかと思っております.

■肝機能異常をみたとき,どのようにアプローチするか

四柳 さて私たちは,健康診断の場や「具合が悪い」と言って来院された患者さんへの血液検査の結果,肝機能に異常があることにしばしば出遭いますが,肝機能異常の検査結果をみたときに,一般の先生方がどういうアプローチをされたらよいかについてまず話をうかがいたいと思います.鈴木先生,私たちはどのようなことに気をつけて対処すればよろしいでしょうか.

鈴木 肝障害を診るには,健診などで指標としてAST/ALTが最もよく用いられますが,それらの異常が見つかったとき,まずウイルス性かウイルス性でないかの判断が必要です.

 おそらく後でお話に出てくると思うのですが,ウイルス性か非ウイルス性かで最初に分かれて,ウイルス性だとすれば,B型かC型かでアプローチが変わってくると思います.

 肝障害で来院されるわけですから,当然,肝炎なら急性肝炎か慢性肝炎かという分け方もあって,急いで専門医に紹介しなければいけない症例か,いったん採血の結果をみたうえで紹介するかを判断すべき症例かという違いもあります.その辺りは,今回の特集に自然経過も含め書かれていると思いますので,参考にしていただければと思います.ここでは,ウイルス性肝炎を中心にお話ししていきたいと思います.

 まず,B型肝炎ですと,専門医に紹介するタイミングが議論になると思いますが,最も判断が難しいと私は思っています.一般的には,血小板値が病期判定に使われますが,B型肝炎でそれを判断するのは,専門医でも難しいかもしれません.それともう1つ,B型肝炎の場合は,いわゆる“healthy career”と呼ばれる無症候性か慢性肝炎かの判断,そして病期がどれぐらい進んでいるかの判断が必要ですので,実際には入院設備のある施設で詳しい検査をしない限り,治療のタイミングを逸する可能性があります.したがって,AST/ALTの数字で分けるのは非常に難しいと思います.やはり,肝機能異常をみた場合には,専門医への紹介を念頭に置いて診療を進めたほうがいいと思います.

■HBs抗原陽性と判明した場合,どのように対処するか

四柳 B型肝炎は健診で発見されることが多いと思います.HBs抗原陽性と判明した場合,次のステップはどのようにお考えですか.

鈴木 そうですね.HBs抗原のスクリーニングには,昔はRPHAが有用でしたが,現在はCLEIA法やCLIA法が使われています.それ以外には,HBV-DNAなどいろいろな検査法があります.慢性肝炎が疑われた場合には,ガイドラインにも書かれておりますが,年齢を考慮したうえで,どういうフォローをしていくかを考慮し,肝生検の結果を指標として治療方針を決めなければいけないと思います.

四柳 ほかの先生方,いかがでしょうか.HBs抗原陽性をみた場合,どのように考えますか.検査結果によって,専門医に紹介されるかと思いますが.

黒崎 肝臓専門医に患者を紹介するタイミングを判断するためには,B型肝炎の病期を意識して検査・診療にあたることが非常に大事です.

 HBs抗原が陽性の場合は,急性肝炎を除けばB型肝炎ウイルスに持続的に感染した状態です.出生時,あるいは乳幼児期にB型肝炎ウイルスに感染すると,最初はHBe抗原が陽性,ALT値が持続的に正常で,ウイルス量が107~108 copies/mlと多い,免疫寛容期という状態が続きます.これはだいたい20~30代までの状態ですが,肝炎を発症していないため治療を要しません.1年に1度程度の定期的な検査で経過をみていけばよいわけです.

 HBe抗原が陽性でALT値が上昇している場合は,HBe抗原陽性の慢性肝炎です.1~3カ月に1回,HBV-DNA量,ALT値のフォローをします.半年以上ALT異常値が続けば治療が必要になりますので,その時点で専門医に紹介すべきです.

四柳 HBe抗原・HBe抗体の意義や重要性に関しては,どのようにお考えですか.

黒崎 HBe抗原陽性で肝障害があれば,慢性肝炎と考えられますが,自然に治癒する方がいます.つまり,HBe抗原が消失してHBe抗体が出現するセロコンバージョン(seroconversion)が生じると,8割は臨床的には治癒した「非活動性キャリア」という状態になります.非活動性キャリアでは,HBe抗原が陰性,HBe抗体が陽性でHBV-DNA量が104 copies/ml未満と低値で,ALT値は正常です.この状態が持続すれば臨床的に問題ありませんが,注意を要するのはいったん非活動性キャリアになっても,再びウイルスの量が増えて,HBe抗原陰性,HBe抗体陽性のまま慢性肝炎が持続する方がいることです.このように,HBe抗原陰性の方が非活動性キャリアなのか,慢性肝炎なのか,病態の判断が難しいわけです.1回の血液検査で判断することは困難であり,HBV-DNA量,ALT値をフォローし,治療が必要な患者を見分けていくことが大切です.

四柳 いま,自然経過という話が出ましたが,B型肝炎の病期の進展度,肝臓の傷み具合を判断することに関して,しておくべき検査はありますでしょうか.

(つづきは本誌をご覧ください)


四柳宏氏
1986年東京大学医学部卒業,東京大学および関連病院で研修.1988年東京大学第一内科入局.飯野四郎元聖マリアンナ医科大学教授,小池和彦東京大学消化器内科教授に師事.聖マリアンナ医科大学消化器・肝臓内科,米国ジョージタウン大学,東京大学感染制御部を経て2008年2月より東京大学感染症内科准教授.専門はウイルス肝炎,各種肝疾患,各種ウイルス疾患の病態・治療.

鈴木義之氏
1985年岐阜大学医学部卒業後,東京女子医科大学附属消化器病センター消化器内科入局.1993年至誠会第二病院消化器内科内科部長,1994年虎の門病院消化器科内科医員,2006年同院肝臓センター肝臓科医長,2008年同院分院臨床検査部部長(兼任)を経て,現在に至る.専門はウイルス性肝疾患,自己免疫性肝疾患の診断と治療.

黒崎雅之氏
1987年東京医科歯科大学医学部卒業.1995年同第二内科助手,1999~2000年文部科学省学術調査官を併任,2001年同消化器内科助手,2003年武蔵野赤十字病院消化器科副部長,2009年内視鏡センター長.日本内科学会の専門医・指導医,日本消化器内視鏡学会,日本消化器病学会,日本肝臓学会の専門医・指導医・評議員.専門は肝臓疾患,特にウイルス性肝疾患の診断と治療.

八橋弘氏
1984年長崎大学医学部卒業.長崎大学第一内科研修後,1988年から現在まで長崎医療センターに勤務し,主にウイルス肝炎の臨床と研究に従事.2002年から臨床研究センター治療研究部長.2004年から長崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学専攻肝臓病学講座教授併任.若手肝臓専門医育成を目指し全国から公募中.