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今月の主題●座談会
合併するアレルギー疾患をいかに診療すべきか

発言者●発言順
森本佳和氏(山田メディカルクリニック)=司会
野田一成氏(大船中央病院内科)
本郷偉元氏(武蔵野赤十字病院感染症科)
岡田正人氏(聖路加国際病院アレルギー膠原病科(小児・成人))


森本 本日はお集まりいただき,ありがとうございます.私と岡田先生はアレルギー専門医という立場でお話しします.本郷先生には感染症科という視点,野田先生には総合内科という視点から,ご意見をいただけるとありがたいです.

■アレルギー疾患の増加を考えた診療アプローチ

森本 アレルギー疾患が非常に増えているのは,いろいろな疫学調査で明らかになっています.有病率について,アレルギー性鼻炎は30~40%,喘息で約10%,アトピー性皮膚炎も10%前後になるというデータがあります.アレルギー疾患の増加によって,日常の診療でどのような影響を感じておられるでしょうか.

野田 私が感じますのは,特に咳喘息の患者さんについてです.アレルギー疾患だと認識されておらず,「咳が出る」と内科外来にいらして,「ずっと鎮咳薬を出されているが,原因がわからない」と,いわゆるドクターショッピングをしている方が非常に多い印象を受けています.

森本 そうですね.咳喘息は喘息の一亜系といわれていますが,なかなか咳が止まらない,抗菌薬を投与しても効かない,胸部X線を撮っても異常がない,というのが典型的ですね.肺機能検査などは行われることはなく,ともすれば,抗菌薬や鎮咳薬を漫然と投与されがちですね.感染症からアレルギー疾患という疫学的な潮流が存在しますが,「咳といえば結核」という時代もありましたが,現在は,「咳といえば喘息を疑う」という視点も必要かなと思います.

本郷 実際に初診の何%くらいがアレルギー患者なのかがわかると,どれくらい力を入れて勉強したほうがいい領域なのかがわかると思うのです.私は一般内科の外来も担当していますが,アレルギー疾患を診ていて,自分で診断がついたとか,治ったとかいう小さな成功体験を繰り返すことが,すごく大事だと思います.

 これは言い訳でしかないのですが,適切な指導医がいないとか,なかなか時間がなくてアレルギーについて勉強できないとか,その患者さんをフォローできないとか,病院のシステムの問題もあると思います.かかりつけ医を受診してもらうという誘導がうまくいけばいいなという気がします.

森本 アレルギー疾患が増加しているわりには,日常診療でのアプローチに変化がない印象はあります.

岡田 もちろんアレルギー疾患は統計的に増えています.昔と比べると,咳喘息やアトピー性皮膚炎とか,食物アレルギーなどに関する認知も広まっているので,診断はついている場合が多くなったと思います.アレルギー疾患全体が増加しているので,患者さんの話をきちんと聞けば,鼻炎もあるし,アトピーもあるし,接触性皮膚炎もあるというアレルギーの合併をよく経験します.1つひとつの疾患に関しては,ある程度勉強し始めれば,それほど難しくありません.しかし,科ごとの棲み分けがあるので,わざとアレルギーの領域を避ける先生もいるでしょうし,踏み込まないほうがいいのかなと遠慮している先生もいるかもしれません.でも,患者さんの利便性や医療経済的な観点からも,プライマリの先生が診ている患者さんの重篤でないアレルギーに関しては,治療できる体制をつくっていただくのがいいかなと思います.

森本 そうですね.増加しているアレルギー疾患をより意識した診療にシフトする余地はあると思います.

■アレルギー疾患は合併するからこそできる,一歩進んだ診療のコツ

森本 アレルギー疾患の大きな特徴として,多臓器に合併しやすいことが挙げられます.アレルギーは,アトピー素因を背景として,皮膚,気道粘膜,消化管粘膜など外来抗原に接触する部位を中心に起こりますから,鼻,肺,消化器,皮膚,眼結膜,さまざまな臓器に合併します.

 1つひとつの臓器疾患について患者さん自身が専門医を訪ね歩くのは,理想的ではありません.やはり,かかりつけ医が,合併したアレルギー疾患を診る.そのためには,臓器別アプローチにとどまらず,アレルギー疾患について包括的な観点から診療を行うことが勧められると思います.

 アレルギー疾患が多臓器に合併することは難点ですが,裏を返せばこれを利用できます.例えば,咳で来院された患者さんにアトピー性皮膚炎を認めれば,「これは喘息ではないか」と考えることができます.言い古されている感はあるのですが,“one airway, one disease”すなわちアレルギーの病態が鼻で起こるのがアレルギー性鼻炎で,肺で起こればアレルギー性喘息と考えられます.つまり,これら2つの合併を当然の結果と捉えると,「花粉症です」と言って来た人には「運動すると咳が出ませんか?」とか「夜,咳で寝られないことはないですか?」という喘息を考えた質問も可能になります.

 このようなアプローチによって診療の質を高められると思います.岡田先生,いかがでしょう.

岡田 これもだいぶ言い古されたことですが,まずは“allergy march”です.最初は食物アレルギーがあって,アトピーがあって,喘息になって,鼻炎になっていくという感じです.これが単に年齢が上がったら起こってくるものなのか,それとも治すと次の疾患に進まないのかに関して,最近はデータも出ています.

 例えば,アトピーが非常に重いお子さんのほうが喘息になるということはある.では,アトピーを治したらどれくらい喘息にならないかについては,非常に難しいです.しかし,鼻炎に関しては,昔でいう減感作療法,いまは免疫療法といいますが,それをすると,確かに喘息になるお子さんが半分に減るわけです.やはり,これは関連しているのだろうというところです.

 多臓器に合併するアレルギーを診るときに,例えば,「鼻炎をしっかり治療することによって,喘息も予防できるのですよ」と包括してお話しして,鼻炎の患者さんに喘息の症状が出てきたときしっかり診てあげられると,患者さんのアドヒアランスも非常によくなると思います.

 

(つづきは本誌をご覧ください)


森本佳和氏
東京大学理学部卒,札幌医科大学医学部卒.ハワイ大学にて内科レジデント,コロラド大学およびNational Jewish Medical Centerにてアレルギー免疫科フェロー,チーフ・フェローを経て2005年よりアシスタント・プロフェッサー.米国アレルギー免疫アカデミーのInterest Section Awardを2005年・2006年連続受賞.2007年より医療法人和光会にてアレルギー診療を行う.米国内科専門医,米国アレルギー科専門医.

野田一成氏
鹿児島大学法文学部法学科を卒業.NHKに入局し,事件・災害・司法・行政・選挙などの取材に携わる.6年半の勤務を経て退職し,山口大学医学部医学科に3年次学士編入学.卒後,茅ヶ崎徳洲会総合病院での研修を経て,2008年より大船中央病院で内科・救急医療などを行っている.著書に『医者の言い分』(中経出版).

本郷偉元氏
1996年東北大学卒.沖縄県立中部病院で初期研修を受け,臨床感染症科に出会う.その後,国内での研修を経て,2001年よりニューヨークのベスイスラエルメディカルセンター内科レジデント.2004年7月よりヴァンダービルト大学にて感染症科フェロー.2006年12月より武蔵野赤十字病院勤務.内科,総合診療科を経て,2007年4月より感染症科.訳書に『感染症診療スタンダードマニュアル』(羊土社).

岡田正人氏
ニューヨークで内科研修後,エール大学病院でリウマチ膠原病科とアレルギー臨床免疫科の臨床研修後,エール大学のスタッフを経て,1997年からフランスの大学関連病院にてセクションチーフとして診療と教育に従事.米国リウマチ学会Senior Rheumatology Scientist Awardなどを受賞.2006年より聖路加国際病院勤務.著書に『レジデントのためのアレルギー診療マニュアル』(医学書院)など.米国の内科専門医,リウマチ膠原病科,アレルギー免疫科専門医.