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今月の主題●座談会

内科外来に潜む内分泌疾患
──見逃さないためのこつ

発言者●発言順
出雲博子氏(聖路加国際病院内分泌代謝内科)=司会
吉村弘氏(伊藤病院内科)
久保田憲氏(都立駒込病院内分泌代謝科)
小澤安則氏(虎の門小澤クリニック)


出雲 本日は,内科外来に潜む内分泌疾患を見逃さないこつをテーマに,臨床の第一線でご活躍の先生方に,お集まりいただきました.

■内分泌疾患の疫学

出雲 内分泌疾患というのは,一般に稀な病気だと考えられがちで,見逃されていることが多いのではないかと思います.実際の頻度としては,どんなものでしょうか.

 甲状腺疾患の頻度は,日本ではどのくらいあるものなのでしょうか.

吉村 甲状腺の病気はたくさんありますが,最も多いのは,橋本病=慢性甲状腺炎で,これはだいたい40歳を超えますと,女性の約10~20人に1人は抗甲状腺自己抗体をもっておられます.この抗体がありますと甲状腺組織に自己免疫性変化がありますので,40歳以上の女性の10人に1人は橋本病があると思います.

 あと,癌などの頻度は低いのですが,甲状腺機能亢進症については正確なデータはないのですが,どのくらいでしょうね.

久保田 女性で約200人に1人といわれていますね.

小澤 Basedow病を含む,いわゆる甲状腺中毒症はとても高い頻度です.Basedow病に代表される持続性のものから無痛性甲状腺炎などの一過性のものまで様々ありますが…….

出雲 そうしますと,やはり見逃されている,埋もれた患者さんがかなりいると考えてよろしいわけですね.

 副甲状腺疾患についてはいかがでしょうか.

小澤 副甲状腺疾患のなかでは,やはり高カルシウム血症を呈する原発性副甲状腺機能亢進症が最も多いですね.10万人に50~80人くらいの頻度で,一般外来でもポピュラーな病気というふうに捉えたほうがいい疾患です.低下症もたまにはみますけれども,ずっと頻度が少なくなります.

出雲 副腎疾患についてはいかがでしょうか.副腎疾患は非常に稀な疾患だと一般には考えられていますが,特に最近は原発性アルドステロン症(primary aldosteronism)について,一般に考えられているより頻度が高いといわれておりますね.

小澤 わが国の最近の統計では,高血圧の患者さんの3~6%といわれています.外国では10%という論文もあります.

出雲 かなりな頻度と言っていいですね.

小澤 その多くが見逃されていると言っていいと思います.

出雲 下垂体疾患に関してはいかがでしょうか.これも見逃されているものが多いように思います.プロラクチノーマ(prolactinoma;プロラクチン産生腺腫)などは,かなり頻度が高いけれども見逃されている疾患の1つではないでしょうか.

 私がアメリカにおりましたとき,男性のインポテンツを精査すると,プロラクチノーマが見つかるということがあったのですが,日本では,あまり男性インポテンツなどで内分泌科を受診することはないですね.

小澤 文化の差があるのではないでしょうか.アメリカは性的機能を維持するために,いろんな努力をする国柄ですから,日本とはだいぶ違いますよね.

出雲 ですから,プロラクチノーマなどは,かなり埋もれていることが多いのでは,と私は感じているのですが,アクロメガリー(acromegaly;先端巨大症)もけっこう埋もれていますよね.

(つづきは本誌をご覧ください)


出雲博子氏
1978年順天堂大学医学部卒業,同大付属病院研修医.1982年よりハーバード大学内分泌科リサーチフェロー.1988年東京大学大学院より医学博士.1993年よりミシガン大学内科研修医.1995年より同大内分泌科クリニカルフェロー.1996~99年ハーバード大学内分泌科クリニカルフェロー.2000年クリニカルインストラクター.2002年より聖路加国際病院内分泌代謝内科.2003年4月同医長.2008年4月同部長.

吉村弘氏
1980年大阪市立大学医学部卒業,同大医学部第2内科にて臨床研修.1982年大阪掖済会病院勤務.1984年伊藤病院勤務.2001年伊藤病院診療技術部部長,2003年より同内科部長.2007年東京医科歯科大学臨床教授.甲状腺疾患全般を扱うが,特にバセドウ病治療に用いられる抗甲状腺薬の副作用の重篤化の防止に取り組んでいる.

久保田憲氏
1977年東京大学医学部卒業,東大病院・県立山梨中央病院で内科初期研修.1979年東京大学第三内科入局.1983年ハーバード大学留学,甲状腺学の研究に従事.1986年東京大学第三内科助手.1992年都立駒込病院内分泌代謝科医長,2006年同部長.日本内科学会・内分泌学会・甲状腺学会・糖尿病学会の専門医として日常臨床に従事しつつ,各学会の指導医として後進の専門医育成に力を注いでいる.

小澤安則氏
1969年群馬大学医学部卒業.虎の門病院にて研修.1975年より同院内分泌代謝科医員,1982年主任医員,1994年内分泌代謝科部長.1976~78年UCLA留学.1986年ミネソタ大学留学.研究では主に甲状腺疾患領域で臨床的,基礎的な業績をあげてきたが,他の内分泌代謝領域の疾患についてもきわめて多数の症例で深い診療経験を誇る.2006年より虎の門小澤クリニックを開設し,患者中心の新たなスタイルの内分泌代謝診療に取り組んでいる.