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今月の主題●座談会

膵炎診療をめぐる最近の動向
-診断基準・ガイドライン

発言者●発言順
下瀬川徹氏(東北大学大学院消化器病態学)=司会
武田和憲氏(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター外科)
片岡慶正氏(京都府立医科大学大学院消化器内科学)
神澤輝実氏(東京都立駒込病院内科)


下瀬川 膵炎診療をめぐっては,ご存知のようにいろいろな動きがあります.厚生労働省(以下,厚労省)研究班の大槻班で,急性膵炎の診断基準と重症度判定基準の改訂が行われました.2005年度に最終案が報告され,その後検証を重ね,2008年10月から重症急性膵炎の特定疾患申請にも改訂基準が用いられるようになり,公式に採用となっています.

慢性膵炎に関しては臨床診断基準の改訂作業が進められており,一方では日本消化器病学会は診療ガイドラインを作成中で,先のJDDW2008で最終案が報告されました.

自己免疫性膵炎については,2008年1月末に小倉で日韓の膵臓の専門家が集まり,コンセンサスに基づいたAIP(autoimmune pancreatitis)の診断基準――Asian Diagnostic Criteria for AIP――が報告されています.

こういった動きがあるなか,本日は改訂作業やガイドライン作成に実際にかかわった先生方にお集まりいただき,診断基準の見直しやガイドライン作成の背景や目的を,読者の方々にわかりやすく解説していただき,それらのポイントについて討論しながら,どのように日常臨床に活用すればよいかお話ししていただきたいと考え,この座談会を企画しました.

■急性膵炎をめぐる動向

下瀬川 最初に,急性膵炎の重症度判定基準の改訂についてうかがいます.現在,重症急性膵炎の死亡率が10%を切り,急性膵炎全体でも3%を切るところまで下がってきているなかで,今回の改定が行われたわけですけれども,その目的とポイントについて,武田先生からお話しいただきたいと思います.

武田 もともと急性膵炎の重症度判定基準は,公費負担の対象となる重症例を認定するために作成されたものです.旧判定基準が作成された1990年当時は,重症膵炎の死亡率は30%と極めて高く,重症膵炎は極めて難治性で,治療法が未確立であり,患者の経済的負担も大きいことから,公費負担の対象となった経緯があります.

今お話があったように,現在では死亡率が10%以下になっておりますので,公費負担の対象の見直しが求められているわけです.そのため,重症度判定基準を改訂し,公費負担が適正に行われるよう見直しが必要でした.

この判定基準は,ご存知のように,予後因子が18項目と非常に多いこと,さらにCT Gradeが予後因子の1つとして組み込まれていること,類似の病態を示す予後因子が重複して含まれていること,あるいは夜間救急や初診医療機関で対応できない検査項目が含まれていることなどの問題点が指摘されていました.今回は,これらを含めて,簡便で明快かつ客観的な新しい急性膵炎重症度判定基準を作ろうということで,平成15年から約4年をかけて改訂作業を行ってまいりました.

新基準の特徴

下瀬川 改訂された重症度判定基準と,これまでの基準の違いについて,簡単にお話しいただけますか.

武田 新しい重症度判定基準の特徴は,予後因子が9項目に整理され,予後因子による重症度判定と,造影CT Gradeによる重症度判定の2本立てになっています.すなわち,造影CTを行わなくとも重症膵炎を判定できます.これは,CT検査が実施できない場合を想定したものです.

一方,造影CT Gradeは,急性膵炎の重症度を反映していますので,重症を示す検査所見がそろわない時点でも重症例を検出することができるといったメリットがあります.さらに「ベースエクセス(base excess;BE),またはショック」などのように,臨床徴候を併記したことで,検査値がない場合でもスコアを算定することが可能になります.

ひと言でいえば,新しい重症度判定基準は,簡便で,明快で,使いやすいものになったと言えるかと思います.

(つづきは本誌をご覧ください)


下瀬川徹氏
1979年東北大学医学部卒業,都立駒込病院にて研修.1982年から東北大学第三内科勤務.1986年から1990年まで,オクラホマ州立大学,その後イリノイ州立大学に留学.1990年から東北大学第三内科助手,1997年から東北大学附属病院助教授,1998年より東北大学大学院消化器病態学分野教授.日本膵臓学会理事.日本膵臓学会機関誌「膵臓」編集委員長.2000年より厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班班長.膵炎の発症機序,発症の背景因子や病態に興味を持ち研究を続けている.重症急性膵炎の救命率の改善,慢性膵炎の早期診断,自己免疫性膵炎の病態解明を目指している.

武田和憲氏
1978年東北大学医学部卒業.初期研修の後1981年東北大学第一外科勤務.1999年同大学肝胆膵外科助教授.2005年より仙台医療センター外科医長・臨床研修部長.肝胆膵外科学会高度技能指導医.日本膵臓学会評議員.エビデンスに基づいた急性膵炎の診療ガイドラインの作成,急性膵炎重症度判定基準の作成に関わってきた.また,重症急性膵炎に対する膵局所動注療法を開発した.最近は,新しい画像診断であるperfusion CTの膵疾患への応用に取り組んでいる.

片岡慶正氏
1978年京都府立医科大学卒業,同大学付属病院にて研修.同第3内科修練医を経て,1986年~京都府立与謝の海病院,1989年~京都府立医科大学第3内科助手,その間1993年~米国Mayo Clinicに1年間留学,1996年~講師,2003年~助教授および消化器内科診療科長.消化器難病診療に従事しながら,常に消化器臓器相関を念頭に「全身から診た消化器,消化器から診た全身」を日頃の診療,研究,教育の基本的スタンスとしている.

神澤輝実氏
1982年弘前大学医学部卒業.東京都立駒込病院にて内科,病理科研修.1986年から東京都立駒込病院消化器内科勤務.2008年より同部長.50例以上の自己免疫性膵炎患者の診療経験あり.自己免疫性膵炎の研究から提唱した新しい全身性疾患である“IgG4関連硬化性疾患”は,いままで原因不明とされてきた種々の硬化性疾患の解明に繋がり,世界的に注目されている.