HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻11号(2008年11月号) > 今月の主題●座談会
今月の主題●座談会

心不全と腎不全を合併する浮腫をどう診るか
――その大多数の背景に潜む糖尿病

発言者●発言順
鍋島 邦浩氏(藤田保健衛生大学腎内科)=司会
平光 伸也氏(平光ハートクリニック)
藤田 芳郎氏(トヨタ記念病院腎・膠原病内科)
奥村 中氏(岡崎市民病院内分泌内科)


 本特集のテーマである浮腫をきたす疾患は,多岐にわたる.なかでも,心不全と腎不全は,ともに全身性浮腫をきたす代表的な疾患であるとともに,互いの増悪因子となる.そこで,本座談会では心不全と腎不全をクローズアップして取り上げるとともに,その背景に多く潜む糖尿病が心疾患に与える影響や糖尿病性腎症の特徴などについて,それぞれのエキスパートにご議論いただいた.

 浮腫をきっかけとして,その複合的な病態や原因へどうアプローチするか,多角的に診る重要性が浮かび上がる.


鍋島 本特集のテーマは「浮腫」です.浮腫をきたす疾患は多岐にわたり,なかでも心不全と腎不全はともに全身性浮腫をきたす代表的な疾患であり,互いに増悪因子となって悪循環を起こします.また,冠動脈疾患(coronary artery disease:CAD)と慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は互いに深くかかわっており,心腎連関という概念で注目されるようになってきました.そして,CADにしてもCKDにしても,糖尿病を基礎にもつ症例が増加しています.

 そこで本日は,第一線でご活躍されている循環器内科,腎臓内科,内分泌内科の各専門家の先生方にお集まりいただきました.それぞれの立場から,さまざまなご意見をいただきたいと思います.

■浮腫をきたした心不全:腎不全の合併が疑われたらどう診るか

鍋島 最初に,心不全の症例でクレアチニン(Cr)値が高い初診患者の診断に関するポイントについて,循環器がご専門の平光先生からお話しいただきたいと思います.

平光 心不全と腎不全を合併している症例は,非常に多いですね.当院のデータベースでは,心不全で入院された患者さんの60%がCKDの診断基準に入ってきます.

 心不全には,急性の左心不全と,慢性心不全が急性増悪した症例とがあり,いずれも救急車で来院します.基本的に,急性左心不全の場合の最も重要な所見は,肺うっ血と肺水腫です.

 心不全の立場からだけ言うと,浮腫や胸水,腹水は右心不全のサインです.しかし,肺梗塞,右室梗塞,慢性の肺性心のような純粋な右心不全は比較的少ないと思います.臨床現場でよく出会う浮腫を伴う心不全は,ベースに左心不全があり,左房圧,肺静脈圧が上がって,肺動脈圧が上がる.その結果,右心室圧が上昇して,三尖弁閉鎖不全が生じます.そのため,右房圧が上がり,浮腫が起きてきます.つまり,浮腫を伴う心不全は,基本的に両心不全の症例が多いのです.

 腎不全と心不全を明確に診断するのは難しく,半数以上がオーバーラップしている点から,私の考えは,ベースが腎不全で水がたまって浮腫を起こしていても,やはりそれは心不全であると考えてよいのではないでしょうか.

 そういう患者さんが一般外来に初診でみえたと想定すると,診断としては,まず胸部X線写真を撮ります.うっ血が認められる心拡大と,うっ血を認められない心拡大がありますが,心不全がある人は,まず心拡大がみられます.心電図では,ベースが心筋梗塞であればその所見がありますので,心電図からの診断はなかなか難しい.BNP(brain natriuretic peptide)もトロポニンTも重要なマーカーですが,これらを迅速に測れる施設は少ないようです.

 あとはやはり心エコーですね.なるべく来院時に,左心室の動き,右心室からの三尖弁逆流をみます.また,心エコーで役に立つのは下大静脈です.浮腫がある心不全の症例は,下大静脈の拡大と呼吸性変動の消失が認められるからです.これは腹部エコーの機械でもとれますし,だれでも判断できます.

 このような所見が揃っていれば,ベースに腎不全があろうがなかろうが心不全ですので,入院が必要ですし,場合によっては救命センターに収容します.

鍋島 ありがとうございました.たしかに,心エコーによる下大動脈の拡大や呼吸性変動の消失は非常に診断に役立ちますね.

 藤田先生,腎臓内科の立場からは,どのようなアプローチをなさるでしょうか.

藤田 肺水腫や呼吸困難などで救急外来にいらした患者さんで,Cr値が上がっている場合,冠動脈疾患を見落とすと循環器の先生にお叱りを受けますので(笑),まずは循環器の先生のお考えに沿って診ていただきたいと思います.ただ,救急現場では,病院の条件によってすぐに循環器の先生が来られる病院と,そうでない病院とがあります.トロポニンIあるいはBNPがいくつだったら専門医を呼んでいいのか,そのあたりが研修医の迷うところでしょうね.

 とりあえず腎臓科で診てくれと循環器の先生がおっしゃった場合,肺うっ血があれば,ナトリウム(Na)が過剰にある状態と判断して,利尿薬などを考えます.Naをとる治療によって,大部分の肺うっ血がとれます.ただし,心筋梗塞や心筋症を見落としてしまうと非常にまずいので,除外しておきたいところです.

 特に今は,腎不全の原因はほとんど糖尿病と言えるほど多くなってきています.糖尿病性腎症となりますと,おそらく冠動脈が多かれ少なかれ障害されているのではないかと思うので,どの程度で心臓カテーテルをするのか,どの程度なら様子をみるのかという判断はけっこう難しいですね.その点は具体的にどのようになさっていますか.

平光 そうですね,心不全の場合は,まずは,救急外来で救命することが大事です.そのために最も重要なのは,酸素化です.ですから,SpO2が90%を切っているような状態では,早急に何らかの処置が必要です.救急外来でも「フロセミドではなくて硝酸薬のスプレーだ」と教えていますが,やはり急速に酸素化を改善する治療が第一優先されるべきです.

 逆に,どれだけ浮腫があっても,酸素化がよければ,夜中に循環器医を呼んでいただかなくても,翌日で間に合います.

 冠動脈の問題について,今はST上昇型,ST非上昇型の心筋梗塞という言い方になっており,「トロポニンが上がっている状態は急性冠症候群」とまとめられて,心筋梗塞と同じように扱われます.ただ,ST非上昇型の心筋梗塞で,心筋梗塞か不安定狭心症か迷う症例であれば,すぐに冠動脈造影は行いません.半日や1日,ゆっくり経過をみた後に,酵素の動きを見てから決めてもいいと思います.

 心筋虚血が原因で血行動態が保てないような心筋梗塞は,早急に何らかの措置が必要です.それ以外は酸素化さえ安定していれば,ゆっくり考えてもいいのではないでしょうか.

藤田 心エコーも大事ですか.

平光 そうですね.やはり心エコーは大事だと思います.あとは,X線写真でうっ血の程度と,血液ガスさえ見ていれば,1~2時間で亡くなってしまうかどうかは判断できます.

■慢性腎不全とうっ血性心不全の合併例:浮腫の主因はどちらか?

鍋島 臨床上でよく出くわすのは,慢性腎不全がベースにあって,うっ血性心不全が急性増悪する場合が多いと思います.そういった症例に関して,どちらが主体かを考えるためには,心電図や心エコーが,救急外来,あるいは一般外来で役に立つツールという感じでしょうか.

平光 そうですね.慢性腎不全の方が,溢水の状態から心不全になる場合と,心筋梗塞などの急性疾患を併発して心不全になる場合とは大きく異なります.

 後者の場合は,早急な治療が必要です.前者は時間的な余裕がありますので,その対処はずいぶん違います.外来では,まずトロポニンTのマーカーですとか,心エコーで診断することが重要となります.

(つづきは本誌をご覧ください)


鍋島 邦浩氏
1986年昭和大学卒業.昭和大学藤ヶ丘病院で研修後,1988年より同院腎臓内科,1997年岡崎市民病院腎臓内科を経て,2004年より現職.臨床をきわめることなど一生不可能,しかし,だからこそ常に進歩していける(はず)と信じ,日々の業務に従事している.

平光 伸也氏
1984年藤田保健衛生大学医学部卒業.同年~1986年社会保険中京病院にて内科研修.1988~1990年名古屋第二赤十字病院循環器センター勤務,1992年より藤田保健衛生大学医学部循環器内科講師,2002年10月~同准教授,2003年4月~同大学救命救急センターCCU室長,2006年2月~同副センター長,2008年4月より現職.

藤田 芳郎氏
慶應大学病院内科研修.その後,中部ろうさい病院,藤田保健衛生大学腎臓内科,トヨタ記念病院腎・膠原病内科で実地臨床の経験を積む.優れた内外の専門家の指導を受けながら,優秀なスタッフと熱心な研修医に囲まれて学ぶことの多い日々を過ごしている.よい臨床環境および研修教育の環境を作り維持できるとしたら,さまざまな分野の周囲の協力のお蔭であると感じている.

奥村 中氏
1990年,岐阜大学医学部卒業,同大学院にて病理学を修めた後,1994年名古屋大学医学部第一内科(現・糖尿病内分泌内科)入局.その後,津島市民病院,安城更生病院を経て,2004年5月より岡崎市民病院.現職は同院内分泌内科統括部長.「今や急性期疾患の治療には内分泌学的な視点が不可欠」「日々の臨床の中にこそオリジナリティの高い仕事が埋まっている」と自らと若手を鼓舞する毎日である.