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今月の主題●座談会

外来がん診療における
一般内科医の役割

発言者●発言順
田村 和夫氏(福岡大学)=司会
藤原 康弘氏(国立がんセンター中央病院)
坂田 優氏(三沢市立三沢病院)
二ノ坂保喜氏(にのさかクリニック)


 がん対策基本法が成立して以降,がん対策基本計画を通して,がん診療に携わる人材の育成から体制の整備まで,がん診療の全体像は大きく変わろうとしている.また,社会の要請や治療の進歩に伴い,がん治療が入院から外来にシフトしている状況で,病病・病診連携はきわめて重要である.そこで,外来あるいは在宅でのがん治療中の連携のとり方から,在宅における緩和医療の重要性,誰が看取るかまで,診療所や一般病院で診療する内科医が担う役割とその問題点について,多角的にご議論いただいた.


田村 本日は,お忙しいところをお集まりいただきまして,ありがとうございます.現在,がんの診療,特に治療に関しましては,入院から外来にその場が移ってきています.そこで,「外来がん診療における一般内科医の役割」というテーマでお話しいただきたいと思います.

 2006年に「がん対策基本法」(以下,基本法)が制定されまして,都道府県および地域の「がん診療連携拠点病院」(以下,拠点病院)と一般病院,診療所との関係などの整理も行われつつあります.今後は,がんを専門とする病院,あるいはがん患者を診療する機会の多い一般病院と,診療所の先生方が連携をとる,いわゆる病病・病診連携が非常に重要になってくるかと思います.

 まず,この基本法について,国立がんセンター中央病院の藤原先生から概略をご説明いただきまして,日常診療のなかで,一般医の方がぜひ知っておいたほうがいいというところを議論していきたいと思います.

■がん対策基本法の目指すところ

藤原 ほんとうは厚生労働省の方にお話しいただいたほうがよいのでしょうけれども,僕が聞いている範囲でお話しします.基本法は,国のがん対策を総合的,計画的に進めることを目指してできた法律です.ある特定の疾患領域について,法律のもとにいろいろ整備をしていくのは,今まで行われなかったと思いますので,その点では画期的です.

 具体的な中身として,3つの柱があります.1つめは,がんの予防および早期発見の推進をしましょうということ.2つめは,がん医療の均てん化を促進しましょうということ.均てん化とは難しい言葉ですので,日本全国においてがんに対する均質な医療レベルを実現しましょうと言ったほうが簡単かもしれません.残りは,この法律が制定される前に国のがんに関する政策として「対がん10カ年総合戦略」がありましたが,その政策によって主に行われていたがん研究の推進を引き続き行いましょうということです.

 この基本法のすごいところは,ご自身も胸腺がんであった故・山本孝史参議院議員が中心となった議員立法でできたものという点です.がん患者の視点をとても大事にしている法律です.このため,「がん対策推進協議会」が設置されて,その委員としてがん患者や家族が入り,基本法の運用がチェックされます.これまでの法律の運用では,あまり例がないと思います.

 法律なので細かい記載はありませんが,要は,「がん対策基本推進計画」を国がある程度作って,その基本計画をもとに,今度は都道府県が都道府県ごとの「がん対策推進基本計画」を策定しましょうという展開の仕方になっています.

田村 この基本法が,従来の対がん戦略に比べて均てん化を強調したのには,どういう背景がありますか.

坂田 おそらく,現時点では「日本のどこでも同じ治療が受けられる状態にはなっていない」という前提があるんじゃないかと思うんですよ.A病院,B病院,C病院,D病院の胃癌の生存率がそれぞれ違ったりする.それは,国民にとって非常に不幸なことだと.

 例えば,僕のいるところはすごい田舎で,藤原先生のいるところは大都会の大病院ですが,僕のところと藤原先生のところの診療が同じくらいにならないと,つまり,均てん化させないと,患者はいつも不幸で,弱者で,どこかに偏ってしまう.それをなくそうというのが最初の発想ですよね.

 この基本法の最大の目玉は,二ノ坂先生が携わる緩和医療の均てん化だと思います.がんの治療について,手術は日本中だいたいどこでも上手な先生がいる.だけど,緩和医療はそうではありません.緩和医療を日本全国どこでもできるようにしようというので,緩和医療と,がん登録を行わないと,拠点病院には絶対になれない仕組みです.

 その一方で,文部科学省が「がんプロ」なんかやってるんですよね.いつも縦割りだから(笑).

■がん診療を担う人材の育成とその配置をめぐって

田村 「がんプロフェッショナル養成プラン」というのが正式な名称ですが,文部科学省は大学院の枠組みの中で,がんの専門職業人を――医師だけではなくて,看護師,薬剤師,放射線治療品質管理士,医学物理士と,コメディカルを含めた職業人を――育成しようという,それが1つの目的.

 それからもう1つは,卒前教育です.臨床腫瘍学,集学的治療,あるいは緩和医療とかチーム医療ということが,いままではコアカリキュラムにまったくありませんでした.そこで,今年の2月に文部科学省が,卒前教育のなかで概説できないかということになったわけですね.それは,とりもなおさず,必ず臨床でがん患者を診るという視点からの教育をしないといけないということと,国家試験に出る可能性があるということです.

坂田 それはすごい(笑).田村先生はアメリカで腫瘍学を学ばれたけれども,僕は大学の講義のなかで「臨床腫瘍」なんて1回も聞いたことがないですよ.oncologyなんて言葉も知らなかった.Oxford大学から出た教科書を何年もかかって読んだ後に,なんでこういうのを習っておかなかったのかと思ったよ.

田村 これは大きな前進だと思います.「がんプロ」は約14億円のお金をかけて,全国の医系の大学院の18のプログラムを助成する形で始まりました.18のプログラムで分けると1億円弱ですから,そんなに多くはありませんが,それでもある程度の教育システムを構築できて,教育内容の充実を図れると思います.5年間で,私たちは専門医,特にがん薬物療法の専門医を養成します.また,多くの大学では放射線の専門医養成のプログラムをつくりました.九州では13の大学が協力,連携しています.大学院に所属するのではなく,社会人として病院で働いている人でも入れるよう,講義を17時以降に行うなどの配慮をしています.ある意味で画期的なことです.

坂田 初めの一歩ですね.田村先生は,以前からNPO法人臨床血液・腫瘍研究会として,がんに携わる医療者の教育を一所懸命やってきたから,人がついてきたんでしょう.

 厚生労働省の「基本法」と文部科学省の「がんプロ」という2つの柱が,両輪のようになればよいけれど,たいてい今までは,そうなっていない.例えば僕は,田舎から医師がいなくなったのは,医師臨床研修制度のせいだと思っているんですよ.医師が足りないと研修病院がつくれないから,みんな都会に行っちゃって帰ってこない.一方で均てん化といわれる.でも,医師がいないんだもの,できないですよ.これでは,いつか破綻してしまう.厚生労働省と文部科学省の両者が一緒にやってくれると,うまくいくわけですよ.

田村 厚生労働省は拠点病院を整備して,文部科学省が大学院で育てた職業人をそこに就職させる道筋ができればいいですね.

(つづきは本誌をご覧ください)


田村 和夫氏
1974年九州大学医学部卒.九州大学にて1年の内科研修後,1975~1980年,米国エルムハースト総合病院(NY市),ロズウェルパーク記念研究所(Buffalo市)にて一般内科,腫瘍内科研修.1980年より県立宮崎病院内科勤務,1997年より福岡大学医学部内科学第一(現 腫瘍・感染症・内分泌内科学)教授.副病院長,学務委員長歴任,現在医学部研究科長.米国内科・腫瘍内科専門医,日本血液学会専門医・指導医,日本臨床腫瘍学会理事.

藤原 康弘氏
1984年広島大学医学部卒.呉共済病院研修医を経て国立がんセンター病院レジデント.同センター研究所研究員を経て,1992年広島大病院総合診療部助手.その後,米国メリーランド大等で抗がん剤第Ⅰ相試験の実際を学んだ後,1997年厚労省医薬品医療機器審査センターで新薬承認審査に従事.2002年国立がんセンター中央病院医長,2007年4月より臨床検査部長.現在,乳腺・腫瘍内科グループ長,治験管理室長も兼任.腫瘍内科医.

坂田 優氏
1973年弘前大学医学部卒業,1977年同大学大学院医学研究科修了.1978年三沢市立三沢病院,1985年弘前大学医学部附属病院第1内科講師,1992年同助教授を経て,1992年青森県立中央病院成人病内科部長,1994年同消化器内科部長兼任.1998年より青森県立中央病院医療局次長,1999年より現職.1998年より3年間,および2008年より弘前大学医学部臨床教授.専門分野は腫瘍学,消化器病学,血液学.

二ノ坂保喜氏
1977年長崎大学医学部卒業,長崎大学病院第1外科入局.大阪府立病院救急部,医療法人池友会下関カマチ病院,医療法人青洲会病院,医療法人福西会川浪病院勤務を経て1996年より現職.在宅ホスピスケアに力を入れる傍ら,「レット・ミー・ディサイド=治療の事前指定書」の活動などを進めている.日本ホスピス在宅ケア研究会理事,福岡緩和ケア研究会世話人.『在宅ホスピスのススメ』(木星舎・監修)ほか著書多数.