今月の主題●座談会
一般外来における睡眠障害の診かた
睡眠障害はどこにでもある病気であるが,ここにきて患者数の増加とともに,高血圧や脳血管障害をはじめとする,さまざまな生活習慣病に合併をすることが知られるようになり,プライマリケアの第一線で対応する内科医にとっても,積極的な対応が求められる時代となった。 本号では,内科医であり,かつ睡眠医療の専門家としても知られる4人のドクターにお集まりいただき,「一般外来における睡眠障害の診かた」についてわかりやすくお話しいただいた。 塩見 本日は私と同様に内科医でありながら,睡眠の専門家として睡眠医療センターを各地で運営されている先生のなかから,特に専門分野の異なる先生方にお集まりいただきました。4人とも1980年代前半から睡眠診療を始め,山口先生が血液,平田先生が神経,成井先生が呼吸器,私が循環器と,全員が内科医の立場で睡眠医療にかかわっています。これからは睡眠に関心をもつ医師が精神科から内科にわたってさらに増える時代が来ると思います。精神科の先生方にお任せするだけではなく,内科医のレベルで睡眠医学を学べる日が日本にも訪れることを願っております。 さて本日は4つのテーマを挙げさせていただきました。1つめは不眠症,2つめは内科医主体,特に呼吸器の先生方が診てこられた睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS),3つめは居眠り病といわれてきたナルコレプシー,そして4つめは最近話題のむずむず脚症候群(restless legs syndrome:RLS)です。 ■不眠症患者の4~5割はうつ?常にうつ病を念頭に塩見 初めは不眠症の診かた,睡眠薬の使用についてです。不眠症というのは,精神科領域ではとても大きな話題なのですが,内科医にはなかなかピンとこない。同じ睡眠を扱う者にも温度差があるように思います。一方で,日本人の成人5人に1人が睡眠に何らかの問題を抱えている。また最近では,睡眠不足が昼間の眠気や倦怠感,精神的な症状を呈するだけではなく,血圧上昇や耐糖能異常の原因にもなり,さらに高血圧や糖尿病など生活習慣病の誘因や増悪にも関与するということが明らかになってきました。内科医が睡眠不足を無視することはできないし,積極的に睡眠医療にかかわるべき時代がいよいよ来たという気がしています。 まず,不眠症や睡眠不足について「自分はこうしている」という診かたをご紹介いただけますでしょうか。山口先生,お願いします。 山口 不眠症には,教科書どおりに入眠障害と中途覚醒と熟眠障害と早朝覚醒の4つがありますが,患者さんに問診をして,どういうタイプの状態なのかを聴き,入眠障害なら超短期間型の睡眠薬を処方します。いま日本では3つしかありませんが,それらを使い分けています。中途覚醒ならば短時間型の睡眠薬で,中間型の睡眠薬は私どもではほとんど使っておりません。長時間型の睡眠薬は,いまのところクアゼパムがありますが,薬の離脱のためには使いますけれど,第一選択薬としてはあまり使っていませんね。 それから,不眠症の患者さんの約半数はdepression(うつ)ということがありますので,普通の睡眠薬,睡眠導入薬を使ってもよくならない人は,少し抗うつ薬を加えることによって非常に睡眠が改善することがあります。 塩見 熟眠障害ですか? 山口 熟眠障害もありますが,入眠障害もですね。うつ病患者の不眠は決して早朝覚醒だけではありません。入眠障害もやはりうつ病の大きな症状ですので,常にうつ病を念頭において薬物治療を行ったほうがよいと思います。 塩見 実際に不眠症を訴える患者さんのなかで,うつ病の割合はどのくらいとの印象でしょうか。 山口 秋田大学の清水徹男先生によると約半数とのことですが,私も4割くらいはあるのではないかと思っています。 ■神経内科領域では「過眠」に要注意!平田 実際に外来を訪れる患者さんに,睡眠障害を疑って病歴を聴取しますと,「睡眠不足症候群」の方がかなりいることは確かです。ですから,日本人の平日の平均睡眠時間が7時間半とすれば,そもそも睡眠時間が基本的に不足している,あるいはそれでは足りないというlong sleeperの方もいますので,そのあたりを注意しています。忙しい現代社会では睡眠時間自体が充足していない人がかなりいるという問題を現実に目の当たりにするわけです。また,神経内科医として不眠症について言いますと,プライマリで非常に注意すべきは過眠症状(眠気)です。日中の眠気がすごくある方では,例えば神経疾患で最もポピュラーな脳血管障害などで睡眠構築が崩れてきて,昼間に眠いという方がいますし,有病率が比較的多い変性疾患であるParkinson病も,進行すると睡眠構築が崩れてきます。われわれもParkinson病の不眠についての分析を行っていますが,病状の進行度や治療のほかにうつなどのParkinson病の合併症が非常に関係しているということのようです。 塩見 神経疾患においても,不眠の背景にはうつが潜んでいる率が高いということですね。 ■睡眠不足の把握や過眠の診断には睡眠日誌が有効塩見 原発性不眠症といって原因が明らかでない不眠もありますが,それに対して虎の門病院の睡眠センターではどのように扱っておられますか。成井 当センターでは睡眠時無呼吸の方の割合が通常8~9割ぐらいですが,そのほかの睡眠障害ということで受診される方もいます。まず無呼吸など,昼間の眠気の原因疾患などで除外できるものを除いて,あとは睡眠の検査を行い,無呼吸以外の眠気の原因となる疾患の診断をします。そして,原因疾患がない場合には,特発性過眠症であるとか,睡眠ステージの状況などでナルコレプシーの診断がつくわけですが,その段階でそれぞれの専門である,神経内科などの先生に併せて診断をお願いしています。 一般的に,そういう患者さんにはまず睡眠日誌をつけてもらいます。睡眠衛生も含めて,睡眠がよく取れているか,日ごろの睡眠様態にさまざまな症状がないかを2週間から1か月ぐらい記録してもらい,無呼吸がない患者さんに関しては,神経内科や精神科の先生に診ていただいています。 塩見 睡眠不足を把握する,あるいは過眠症状を診断するときには,睡眠日誌が有効であるということですね。私も同感です。たしかに不眠というと精神科領域と思われがちですが,ほんとうは内科医もたくさんの患者さんを抱えていますので,それに気づくことも大事ですね。次に,うつ病があった場合に,どこまで内科,特に睡眠センターの専門医が診るかということです。心療内科や精神科の先生と連携して診るのが妥当ではないかと思います。 ■適切な睡眠と不適切な睡眠睡眠衛生は今後の重要課題塩見 生活習慣病に関しては睡眠不足になれば肥満になるとのデータが出始めています。生活習慣病の改善に,栄養指導や運動指導だけでなく,睡眠指導を実施できるようになることが,これからの内科医が取り組むべき課題のひとつだと思いますが,睡眠指導について,どなたかご意見をいただけますか。成井 睡眠衛生とは,適切な睡眠が取れていないということと,睡眠不足かどうかということです。私が診る患者さんは基本的に睡眠時無呼吸でそうなっている方が非常に多いですね。睡眠時無呼吸になる原因として,日ごろの暴飲暴食,特にアルコール摂取があげられますが,そういった患者さんはCPAP(continuous positive airway pressure;持続的気道陽圧法)を導入した後でも,まだ「昼間眠い」と言う方もおられます。その人たちは睡眠日誌を書かなくても,睡眠不足なのか,睡眠時間が非常に不規則な状態で不適切な睡眠を取っているのかがCPAPの使用状況でわかります。 また,就寝時間の問題ですとか,カフェインなどによって夜眠れなくなるような状況をつくっていないか,昼寝の時間を長く取りすぎていないかなど,睡眠に関連する昼間の出来事をきっちりと把握して指導していくことになります。CPAP治療後の睡眠時無呼吸症候群の患者に対して,どう対応していくかということが,診療において非常に重要です。CPAP導入は治療のゴールではなく入口です。 今後は睡眠衛生を一般の内科医に理解してもらうよう,睡眠医療の専門家が指導していくのがよいのではないでしょうか。 塩見 睡眠衛生は,産業医の問題も含めて,社会的側面という意味で,これから非常に重要になるだろうと思っております。 ■睡眠時無呼吸症候群治療のスタンダードはCPAP塩見 睡眠時無呼吸症候群は,内科医にかなり知られるようになりました。わが国では1998年にCPAP治療が保険適用になりましたが,成井先生,簡単に教えていただけますか。(つづきは本誌をご覧ください)
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