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今月の主題●座談会

日常の呼吸器診療でCTを使いこなす

発言者●発言順

三嶋理晃氏(京都大学医学部附属病院呼吸器内科=司会)
入佐薫氏(静岡市立静岡病院呼吸器病センター)
村田喜代史氏(滋賀医科大学放射線科)
安田雄司氏(啓生会やすだ医院)
室繁郎氏(京都大学医学部附属病院呼吸器内科)


 器機の性能向上により,CTは呼吸器疾患の鑑別診断や治療方針決定に非常に有効なモダリティとなっている。しかしその進歩は同時に,CTに頼りすぎるあまり基本的な病歴や所見の聴取,胸部X線写真の読影などが疎かにされる傾向を招いているのではないかという危惧もある。本座談会では,呼吸器や放射線を専門としない医師を視野に入れて,日常の診療でいかに適切にCT画像を活用すべきかを語っていただいた。


三嶋 本日は,お忙しいところをご参集いただき,ありがとうございます。『medicina』の特集の一環として,専門外の先生や内科医療を志す若い先生方が,CT画像をどのように臨床に用いたらいいかを主題に座談会をさせていただきます。特集の項目に沿って,各疾患カテゴリーのなかで,どのような臨床的課題があるのか,安田先生と入佐先生から症例を呈示いただきながら話を進めたいと思います。

■肺 癌

1. 胸部X線写真で注意をすれば発見できた肺癌症例

1) 胸部X線写真の読み方
三嶋 入佐先生,第1の症例をお願いします。

入佐 症例(1)は73歳の女性です。胸部異常影で紹介されました。胸部X線写真(図1a)とCT(図1b)を示します。

三嶋 すべての症例で初めからCTを撮るわけではないので,胸部X線写真を見て,CTを撮ろうというモチベーションをもつかどうかが大事です。胸部X線写真を読む際には,どのような点に注意が必要でしょうか。

村田 大切なポイントは,隠れた肺野部分に注意するということと,左右の対称性を見るということです。これをうまく表した言葉として「小三J読影法」という言い方をしますが,まず「小」という文字を書くように,気管から左右の主気管支の位置や狭窄などの有無と,両側の肺尖部の病変の有無を確認します。次いで「三」という字を書くように左右対称に上肺野から下肺野に見ていき,正常構造と違うものを拾い上げていきます。特に肺尖部は骨構造が重なるところですから注意深く見ます。そして,横隔膜に重なった肺のいちばん下の領域,心臓に隠れた領域に結節などがないかを,「J」という字を書くように注意して見ることも大事です。

 図1aを見ると,肺尖が明らかにおかしいですね。結核性の変化もあるでしょうし,ボリュームがちょっと小さいのかもしれません。矢印の部分に余分な濃度がみられます。

三嶋 そうした所見がモチベーションになってCTを撮るということになりますか。

村田 そうですね,陳旧性結核として飛ばされてしまう可能性もありますが,この症例ではやはりCTを撮ります。詳細な形態は胸部X線写真ではわかりませんが,矢印の部分に結節性のちょっと濃いところがあるので,塊のようなものがあるかもしれないなと疑い,特に,病院に来られた方でしたらCTを撮ります。

三嶋 この患者さんは,CT後はどのように対処されましたか。

入佐 気管支鏡下肺生検・全身検索で腺癌T1N0M0と診断され,呼吸器外科で上葉切除となりました。

2) 肺癌を疑わせるCT所見
三嶋 このCT所見(図1b)からは,肺癌が疑わしいということでしょうか。

村田 ええ,腺癌をかなり疑わせる所見ですね。真ん中に,おそらく肺静脈(矢印)が入って,その両側の気管支,肺動脈(矢頭)も腫瘍に引き込まれています。異なった区域,単位をまたぐように腫瘤性病変があって,気道に沿った分布をしていません。それから腫瘍周囲に少し淡いすりガラス影があるのかもしれませんね。気管支透亮像もありますし,胸膜陥入像や血管集束像があるので,収縮する傾向をもっていることがわかります。中心部のほうが濃いので,「野口分類」のタイプCないしは高分化腺癌でいいと思います。

3) フォローアップの間隔と方法
三嶋 問題となるのは,もう少し小さい影で,診断がつかないもの。1cmぐらいで,気管支鏡でも診断がつかない。その場合は,経過観察せざるを得ないと思うのですが,いかがでしょうか。

村田 たとえば1cmぐらいでも,はっきりと血管集束像などがあれば,悪性をかなり強く疑えますが,CTで特徴のない,くるっとした丸い影や,すりガラス影では,経皮針生検をしても気管支鏡をしても,なかなか陽性に出ません。その場合はフォローアップして,大きさの変化がないかを見ます。

三嶋 だいたいどれぐらいの間隔でフォローアップしたらいいのでしょうか。

村田 研究会や学会で一応のスタンダードとされているのは,すりガラス影と充実性の腫瘤とでは違うということです。どちらも最初の3カ月後に1回撮りますが,限局するすりガラス影で急性変化であるものはここで除外できます。すりガラス影の場合,ゆっくり進行する疾患が多いので,6カ月単位で2年くらい追います。充実性の腫瘤は,90数%とほとんどが良性ですが,そのなかに,未分化な非常に速く大きくなる腫瘤があるので,それを拾い上げるために3カ月単位で撮っていきます。

安田 私も3カ月,半年をサイクルとして1年ぐらい見ています。なかには病院の放射線技師さんにお願いして辺縁をトレースして3D化し腫瘤の体積を測る方法などで大きさを追います。また,私は細胞診の専門医でもありますので,細胞診を年に2回ほど取ります。もちろん,抗酸菌も含めてです。

 診療所では高額な器械がないので,手持ちの器械をどう利用するかも考えて経過を追います。胸部X線正面写真だけでなく,必要に応じて斜位を撮ることが多いです。陰影がクリアに見えてくることがありますので。

三嶋 非常に大事なことですね。われわれはCTに頼りすぎて,胸部X線写真の読影力が落ちていることを感じます。

 それと,この種の影で気を使うのは経過を見るときに,どれだけ安全のマージンがあるかということです。胸膜に近いですとか,縦隔に近いとかで,少しの変化がTNM分類のステージを上げてしまうような場合があります。胸膜直下の腫瘍であった場合,T1であった人が,次に見たときには悪性胸水でT4になってしまうという可能性があります。

 そういう場合は,充実性の腫瘤ならば3カ月待たずに1カ月で,胸部X線写真ないしはCTで再検することもあります。特に,COPDで重喫煙者など,リスクの高い方の場合です。被爆量のこともありますし,どの程度の頻度でフォローするか,悩ましいところです。

2. COPDの経過観察中に発症した肺癌症例

三嶋 ただいまの症例は初診の方でしたが,日ごろから病気を診ている方に肺癌が生じるという場合もあります。安田先生,症例をお願いします。

安田 症例(2)は79歳の男性です。COPDと蕁麻疹で通院されていました。両肺尖部に嚢胞と陳旧性の病変を認め,経過観察していたのですが,今回胸部X線写真をとったところ,1年前の写真と見比べて,左肺尖部の第一肋骨と重なる陰影が,若干増大しているかなという印象を受けました。

 図2aに胸部X線写真正面像を示します。左の肺尖の影(矢印)が若干濃くなっているように見えます。図2bは第2斜位像です。結節陰影(矢印)が大きくなってきていることがわかりやすいと思います。CT(図2c)を見ると陳旧性病変や胸膜肥厚が確認でき,左S1+2背側に腫瘤が出てきていることがわかります(矢印)。スピキュレーションははっきりしませんが,辺縁が不鮮明で,胸膜の肥厚が続いているように見えます。結局は大細胞癌で,リンパ節への転移はなく左の上葉を切除,現在お元気にされております。

村田 怖いですね。骨の重なる部分は,常に左右差で見るのですが,この胸部X線写真(図2a)では,左側の肺尖は白く見えますが,右側の第一肋骨と鎖骨の陰影も,同様にちょっと白く見えているような気がしました。しかし,左右を比較すると重なりを差し引いても,所見として取らないといけない陰影ですね。

三嶋 COPDや肺線維症の症例では,肺癌の発症率が高いですね。だいたい,どれぐらいの頻度で胸部X線写真を撮らなければならないのでしょうか。安田先生は,どうされていますか?

安田 だいたい半年ぐらいです。

三嶋 陳旧性肺結核や肺線維症などで,いろいろな影があるときには,よほど注意して見ないといけませんね。

村田 特に肺気腫やブラがある場合,そこに肺癌が発生する頻度は高いですし,肺癌の形も変わってきます。通常の肺癌のイメージをもっていると,全く異なった,まるで炎症のように見えるのに,腺癌だったということがあります。

 肺気腫の場合,既存の本来あるべき区域を越えて影があれば,悪性腫瘍を示唆する非常に強い所見だと思いますが,それがなくて,中にエアブロンコグラム様のものが見えたり,あたかもスピキュレーションのように引っ張っていたりするとき,例えば気腫肺に感染を起こして器質化肺炎になっても,非常によく似た画像になることがあります。

安田 ほんとうに,そっくりですね。

 特に肺機能が悪くて,なかなか気管支鏡ができない方では苦慮しますが,そういった場合どのように対処されていますか。

村田 経時変化を追うしかないですね。気腫の部分には腫瘍が伸びませんから,普通の形態診断の基準が使えませんし。

安田 間質性肺炎の患者さんで,徐々に間質陰影が濃くなってきたかな? というとき,影がどんどん大きくなって結局,肺癌だったというケースもあります。そういう場合は,もう在宅酸素が必要かなと思うほど重症になってしまい,手術にもっていけず経過を追うしかないのですが,やはり経時的に変化するものは重要だと思います。

三嶋 フォローアップで胸部X線写真を時々撮りながら,いつCTを撮るかというモチベーションをもち続けることが大事ですね。

(つづきは本誌をご覧ください)


三嶋理晃氏
1977年京都大学医学部卒業後,胸部疾患研究所臨床生理学分野に入局。1986年講師,1994年助教授。同年カナダ マギル大学ミーキンス・クリスティー研究所研究員。2001年より京都大学医学部大学院医学研究科呼吸器内科学教授。現在に至る。

入佐薫氏
2003年九州大学医学部卒業後,京都大学医学部附属病院で研修。2004年より静岡市立静岡病院に勤務。
慢性閉塞性肺疾患,アレルギー・膠原病,腫瘍,感染症……多彩な表情をもつ呼吸器という分野に興味を抱き,この領域を専門に選ぶ。

村田喜代史氏
1978年京都大学医学部卒業。同附属病院放射線科,核医学科研修医。滋賀医科大学放射線科助手。1982年京都大学大学院医学研究科博士課程入学。1986年に修了後,京都大学医学部附属病院放射線部助手,ニューヨーク州立大学,Long Island Jewish Medical Center research fellowなどを経て,1988年滋賀医科大学放射線部講師,1996年同助教授,1999年同教授。専門研究領域は放射線診断学,特に胸部放射線診断学。

安田雄司氏
1981年滋賀医科大学医学部卒業。滋賀医科大学医学部附属病院研修医,同第2外科助手,ドイツ エッセン・ルアーランドクリニック助手,京都桂病院呼吸器センター部長を経て,1998年1月京都市南区やすだ医院院長。現,医療法人啓生会理事長。
専門領域は外科,特に呼吸器外科・気管支鏡検査や細胞診を中心とした呼吸器診断。

室繁郎氏
1989年京都大学医学部卒業後,胸部疾患研究所附属病院理学呼吸器科に入局。同年12月田附興風会北野病院に赴任。内科研修医・医員を経て,1994年京都大学医学研究科博士課程入学,1998年医学博士取得。同年7月よりカナダ マギル大学ミーキンス・クリスティー研究所研究員。2001年2月帰国,京都大学医学部附属病院呼吸器内科医員を経て2002年1月から助手。