今月の主題●座談会

胆膵疾患患者への対応の現状


高清水眞二氏
東海大学
消化器内科
木田光広氏
北里大学東病院
消化器内科
今陽一氏
群馬県立
がんセンター
消化器内科
窪田敬一氏
獨協医科大学
第2外科
峯徹哉氏
(司会)

東海大学
消化器内科


 本日は,お集まりいただきありがとうございます。『medicina』誌の「胆膵疾患はこう診る」という特集で座談会を組ませていただきました。先生方には,胆膵疾患患者への対応の現状について,具体的なお話をいただければと思います。

■胆膵疾患をどのように見つけるか

 まず,胆膵疾患患者をどのように見つけるか,外来でのポイントについて,高清水先生に口火を切っていただきます。

高清水 私は研修医と一緒に胆膵疾患患者を診る機会が多くあります。救急の夜間当直では,黄疸,腹痛がある患者が来れば必ず呼ばれます。最もよく見るのは胆石で,やっかいなのは総胆管結石です。腹部超音波では見にくいですし,高熱がある場合,化膿性の胆管炎が起きているかどうかを見きわめることが大事です。私たちはまずCTを撮って,採血をして,そこで感染の兆候があればENBD(endoscopic nasobilary drainage;経鼻胆管ドレナージ)を入れるか,PTBD(percutaneous transhepatic biliary drainage;経皮経肝胆道ドレナージ)をしています。

 外来では,体重減少,黄疸の紹介患者で膵癌を診ることが多いです。健診センターからの紹介も多く,膵管拡張がわずかにあるとか,アミラーゼが少し高いという患者を診る機会も多いです。そのときにもCT,MRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography;磁気共鳴膵胆管造影)をしています。どこまで検査をやるべきか,本日は皆さんにもお聞きしたいと思っています。

 ありがとうございました。救急の場合と一般外来の場合,健診センターからの紹介の場合と,いろいろな話がでましたが,実際に胆膵にはいろいろな疾患があります。高清水先生からは,主に良性の胆道疾患で急性期の場合についてお話いただきましたが,木田先生,膵臓の良性疾患はどのように見つけていますか。

木田 頻度的には慢性膵炎がいちばん多いと思いますが,やはり病歴聴取をしっかりして,お酒をたくさん飲んでいないか,家族に膵炎の方がいないか,あとは外傷後に腹痛が起こっていないか,などを聞き取ることが大切だと思います。

 悪性に関してはどうですか。

木田 やはり基本は病歴聴取ですね。

 どういう点が重要ですか。

木田 「いちばん大切なのは腹痛だ」と認識すべきです。体重減少や背部痛は膵癌にやや特徴的な症状ですが,そうではなくて「腹痛のなかには膵癌が隠れている」という信念をもって診ていかないと,なかなか膵癌の診断はできません。

 具体的にはどのような腹痛ですか。疝痛とか,持続痛とか,鈍痛とか。

木田 いわゆる持続痛です。非特異的な,食後に少し増強はあるかもしれませんが,持続的な痛みで,最初はそれほど強くないことが多いです。

 膵癌では痛みがだんだん強くなっていくのですか。

木田 そうですね。

 体重減少についてはいろいろな統計があって,膵癌がいちばん体重減少を起こすといわれていますから,これも重要ですね。

木田 そう思います。それから,糖尿病や慢性膵炎などのリスクファクターのある方には,かなりの頻度で膵癌が発生するという認識で診察すべきです。

 今先生,何か追加はありますか。

 症状から早期の膵癌を見つけることは難しいです。症状が出てからでは遅いので,早期発見には「まずは疑うこと」が重要です。

 慢性膵炎と糖尿病についてはいかがですか。

 高齢で発症した糖尿病や,急に糖尿病のコントロールが悪くなった方には,膵癌が多いですね。

 糖尿病には,消化器の医師はあまり関与しません。糖尿病専門の先生は,体重減少があっても,「糖尿病のコントロールが悪くなったからだ」と考えがちですが,そこに膵癌が隠れているという認識をもつ必要があると思います。

 もう1点,家族歴も重要だと思います。糖尿病の8割ぐらいは,NIDDM(non-insulin dependent diabetes mellitus;インスリン非依存糖尿病)で,ほとんどに家族歴があります。ですから,そういうものがない糖尿病の場合には,癌の可能性も考えていいと思います。

 木田先生,胆道疾患で急性期以外の場合はどうですか。

木田 胆道疾患では,胆嚢ポリープや胆石を健診などで指摘されて受診される方が多くなりました。

 ありがとうございました。

 ここまでは内科的なお話でしたが,窪田先生,外科はどうですか。

窪田 やはり内科で診断されてから来ることが多いですが,なかには開業医の先生から,黄疸で直接外科に紹介されてくる人もいます。

 その場合どうしていますか。

窪田 すぐに外来で腹部超音波をして,閉塞性の黄疸か内科的疾患による黄疸かを鑑別します。外科では,どの部位で黄疸を起こしているかが大事です。どちら側をドレナージするかという問題に関係しますので。

 黄疸で送られてくる場合,発熱や痛みはありませんか。

窪田 胆石症例を除いて発熱や痛みのある方は少ないですね。総ビリルビンで15mg/dlくらいまでは,気づかないことが多いです。家族に「顔が黄色い」と言われたとか,自分で尿の色が濃いことに気づいて来る場合が多いです。

■診察のポイント

 次に診察の話に移します。問診,身体所見の取り方,血液検査の読み方などいろいろなポイントがあると思いますが。

 胆膵疾患で身体所見というと,まず黄疸ですが,下部胆管閉塞だとすればCourvoisier徴候とかがありますね。

 診察についてはどうですか。

 一般に胆膵系の痛みは心窩部から始まって,胆嚢炎の場合でもかなり炎症が強くなって腹膜を刺激するようになって初めて右季肋部に来ます。Murphy徴候は有名ですが,意外と軽微なこともあるので,注意深く診る必要があります。

 他の疾患との鑑別で注意すべきことはありますか。

 胆石や膵炎の場合は圧痛点が広く,十二指腸潰瘍では局所的だといわれていますが,実際に診療していると必ずしもそうではないようです。

 木田先生はどうですか。

木田 発熱などのバイタルサインから,早急に処置が必要な群と,少し診断に時間をかけていい群とに分けられると思います。

 具体的にはどうしたらいいですか。

木田 例えば血圧が下がっているとか,熱が39°C以上出ているという方は,胆道系の閉塞を疑い,早急に腹部超音波やMRCPで調べて,その日のうちに処置しなければなりません。腹膜刺激症状の有無も,早急な処置が必要かどうかの目安になります。胃潰瘍や慢性十二指腸潰瘍と区別がつかない軽い腹痛ならば,少し時間をかけて検査してもいいと思います。

高清水 黄疸でも,閉塞性黄疸なのか,肝内胆汁うっ滞症なのかの鑑別を,身体所見から行わなければいけませんね。僕は,膵癌で血管に浸潤しているときに雑音が聞かれると教わりました。「本当かな?」と思って10例ぐらい丹念に聴いたところ,1例に血管雑音がありました。

 どういう雑音ですか。

高清水 SMA(superior mesenteric artery;上腸間膜動脈)に浸潤があったのですが,心窩部で血管が詰まるような音が聴こえました。身体所見は教科書に忠実にとるべきだと思いました。

 教科書に忠実といえば,閉塞性黄疸の際に三管合流部以下の閉塞では,よく胆嚢を触知しますので(Courvoisier徴候),腹部超音波をやる前に閉塞部位を診断できます。

 いまはそれが抜けていますね。すぐに腹部超音波やCT,MRCPに行ってしまう。やはりそこを教育しなくてはならないですね。

■検査のポイント

 次に,具体例を挙げながら,実際にどういう順番で検査を行っていくべきかうかがいたいと思います。

1. 膵管拡張へのアプローチ

 たとえば健診で膵管の拡張がある場合,どうアプローチしますか。

 MDCT(multi detector CT)は不可欠です。MRCPも高精度になり膵管造影に近い像が出せるようになりましたので撮りたいですね。

 これは1日でできますか。

 緊急性にもよりますが,普通1~2週です。

 その間,患者は待っているわけですね。

 ええ。症状のない,待てそうな方には待っていただきます。

 木田先生のところはどうですか。

木田 膵管の拡張がある場合,超音波と内視鏡か,EUS(endoscopic ultrasonography;超音波内視鏡)とCTを組み合わせます。胆道系は超音波とMRCPです。MRCPと超音波で,胆道系はほぼ100%診断できるのですが,膵臓では膵尾部のものや,小さい膵臓癌が見逃されることがあります。

 MRCPは,MRIを併用して2dimension(2D法)ではやっていないのですか。

木田 そこまでやれば診断できるかもわかりませんが,うちではMRCPとMRIは別にしています。でも,やはり空間分解能からすると,小さい病変を見つけようと思ったら,EUSが大切だと思います。

 それは,専用機でやるんですか。

木田 そうです。

 IDUS (intraductal ultrasonography;管腔内超音波法)ではなくて?

木田 IDUSはERCPのときにやります。ERCPは入院ですので,その次の段階の検査という位置づけです。

 なるほど。ちょっと特殊かもしれませんね。今先生のところはどうですか。腹部超音波は当然やると思いますが,CTは?

 そうですね。CT,MRCPを行うと思います。それで所見を診てからERCPです。うちのMRは3Dまで撮れるので,かなり情報はあります。

 ただ,映らない場合がありますよね。

 そうですね。

 densityによって,嚢胞を見逃すことがあります。

木田 そうですね。粘稠度によって映らない場合があります。

 だから二次元的情報を必ず入れないと危ないと思いますね。やはりそれがポイントだと思います。

 MRCPを撮るときに必ず撮っているはずなので,それをよく見ることが必要です。

 ちゃんと放射線科がチェックしていればいいのですが。

 必ず見直していますね。

 窪田先生のところはどうですか。

窪田 私の所も同じように,MRCPです。それで怪しかったら躊躇しないでERCPをやります。

 入院でですか。

窪田 入院させています。画像は,ERCPのほうがいいですよ。

(つづきは本誌をご覧ください)


今 陽一氏
1977年群馬大学医学部医学科卒。同年群馬大学医学部第一内科。87年Fellowship in Surgical Endoscopy. Wayne State University School of Medicine. Michigan, USA。96年群馬大学医学部講師。97年群馬県立がんセンター内視鏡部長。2004年原町赤十字病院副院長。05年群馬県立がんセンター内視鏡部長。

木田 光広氏
1981年北里大学医学部卒。北里大学病院内科研修医。83年同内科病棟医。86年北里大学医学部内科Ⅰ研究員。89年同講師。北里大学病院救急救命センター消化器内科チーフ。91年横浜市民病院消化器内科。93年ハンブルク大学内視鏡外科留学。95年北里大学東病院消化器内科。99年ミュンヘン工科大学病院内科客員講師。2003年上海長海医院医学顧問授与。現在に至る。

高清水眞二氏
1993年東海大学医学部卒。同大学医学部研修医。99年東海大学大学院医学研究科卒。同大学医学部消化器内科助手。2005年東海大学大磯病院消化器内科助手。

峯 徹哉氏
1978年東京大学医学部卒。同附属病院研修医。80年東京大学医学部第4内科医員。82年同附属病院第四内科助手。91年東京大学医科学研究所附属病院非常勤講師(兼任~1996年12月31日)。97年東京大学医学部旧第四(分院)内科講師。2001年東海大学医学部内科学系消化器内科学主任教授。04年東海大学医学部消化器センター長(併任)。

窪田 敬一氏
1981年東京大学医学部卒。85年同第二外科入局。88~90年スウェーデン・カロリンスカ研究所フディンゲ病院移植外科留学。95年東京大学医学部第二外科助手。96年同講師。2000年より獨協医科大学第二外科教授。専門は肝胆膵外科,肝移植,膵移植。