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【特集】

デキル内科医のコンサルト
専門医が教える隠れたエッセンス

和足 孝之(島根大学医学部附属病院卒後臨床研修センター)


 今から約7年前,私は戦国無双と名付けたフィールドワークを行っている最中でした.それは関東中の救急告示病院で「救急当直」を行うというもので,なぜ数多く病院があるはずの都市部で患者さんの応需困難が起こるのか? また,同じ病院にずっといるとわからなくなる医療のブラックボックスを確認するための実験的な調査でした.ある病院では,胸部X線,血液ガス,血糖測定のみで救急搬送者に対応しなければならず,ある病院ではすべての肺炎にはこの抗菌薬を使うというローカルルールがあり,またコンサルトを行うタイミングや自分が診なければならない診療の幅も施設ごとにかなり大きく異なるということを肌身に感じました.これは自分がそれまで経験したことのない医療の現場であり,そして自分の見ていた医療だけが当たり前のように感じていた自分の視野の狭さを強く恥じたことを鮮明に覚えています.非常勤の当直医師として連戦を重ねていく中で,特に一番難しく,気を使ったことが他科へのコンサルトでした.

 コンサルトを依頼する場合には,情報の集約化と簡潔性が重要です.時には相手が理解し映像化できるように情報を伝えるスキルが求められます.一方で,医学が細分化されて専門性が高まっているなか,隣の臨床領域でさえ,まるで外国語のように聞こえ,共通言語が持たれていない,と感じることもあります.また,適切なコンサルトであると思っている感覚は医師の経験や環境によって極めて容易に変動し,クリニカルセッティングとその現場での暗黙知で決まることもあります.

 このように,コンサルトの難しさは,①情報伝達の難しさ,②コンサルトする側,される側の知識量や考え方の違い,③診療範囲・臨床領域を担当する医師やセッティングによって変動させなければならないこと,に起因すると考えています.コンサルトを行うときに必ずつきまとう「どこまで診るべきか?」「どの情報まで含むべきか?」という永遠の課題に対して,患者や医師が置かれている状況,コンサルト先の技量,何より自分の臨床力と守備範囲によって変化させる必要があります.その意味で,コンサルトする側,される側の知識量や考え方の違いを知ることが,医療の現場においては何より重要になると思います.

 そこで本特集では,各領域の専門家が門外漢の立場に立ってコンサルトを依頼するとしたら,というセッティングで解説していただきました.新しい試みとして,診断を絞り込むために検査後確率を高める重要な情報や,逆に除外するために有用な情報などを,尤度比を用いたり,専門家の立場から重み付けをしていただくなど,非専門の立場からは普段伺い知ることができない隠れたエッセンスを盛り込んでいただきました.また,新鮮で深い学びにつながるように,コンサルト依頼症例は日々奮闘している臨床家だからこそ悩み,苦労する局面ばかりを選んでいただきました.

 専門領域と専門領域の間には,グレーで曖昧な部分が存在します.自分の領域を狭めるのも広げるのも,少しその領域から飛び出してみるのも,すべては自分の判断です.しかし敢えて言うとしたら,その領域のちょっと外側が臨床家としては一番面白いのではないでしょうか.自分が日々の実践で体得してきた当たり前のちょっと外側の領域は,専門領域の医師からはどのように映るか? グレーで曖昧なその領域にこそ臨床的なセンスや面白さが存在し,成長の機会があると信じています.

 もう一度声を大にして,言います.自分の領域のちょっと外側あたりが「実に面白い」.本特集を通して,是非それを体感していただければと思います.