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【特集】

脱・「とりあえずCT」!
スマートな腹痛診療

小林 健二(亀田京橋クリニック消化器内科)


 「腹痛」を診るのが難しく感じるのには,いくつかの理由がある.1つには,腹腔内には消化器の臓器だけではなく,血管,泌尿器,婦人科臓器などが存在することだ.さらに,心臓,肺といった腹腔外の臓器や代謝性疾患,膠原病などが腹痛の原因となることがあり,これらが腹痛の解釈をより複雑にする.2つ目は,疼痛部位と原因臓器との関係が単純ではないことである.腹腔内臓器由来の内臓痛の多くは腹部の正中付近に感じられる.加えて,関連痛や体性痛が関与することがあり,疼痛部位から原因を絞り込むことがしばしば難しくなる.3つ目は,腹痛に限ったことではないが,経験と知識が必要であることだ.系統的に病歴をとって,丁寧に身体診察をしても,重要な情報を素通りしたり,鑑別疾患が浮かばない,絞り込めない,ということが初心者でしばしばみられる.この場合,よくわからないために検査を乱発してしまうという状況に陥る.こういう経験を何回かした結果,検査をしないと診断がつかないのであれば,病歴と身体診察は端折って,すぐ検査をしたほうが効率がよいのではないか,と思ってしまうのも無理もないのかもしれない.もちろん,検査の必要性は否定しないし,画像検査の進歩が腹痛診療に大きく寄与していることは認める.しかし,何の仮説もなく検査をすると,見つかった異常の解釈を誤ることがあり,患者の訴えの解決にもならないことがある.反対に,例えば急性虫垂炎の初期のように,検査に異常がないから大丈夫と言えない場合はいくらでもある.面倒でも病歴と身体所見から“あたり”をつける作業は欠かせない.

 そんな厄介な「腹痛」であるが,患者を診るときに病歴や身体診察を端折って,すぐに血液検査や画像検査に飛びつく風潮が蔓延し,腹痛診療の土台(内科診療の土台でもあるが)となる部分がどんどん廃れていくのではないかと,編者は危惧している.患者が「胃が痛い」,「お腹が痛い」と言ったら,ろくに話も聞かずに内視鏡検査,超音波検査,CTをオーダーするような診療がまかり通るようになったら,内科医として終わりだと思っている.このようなknee jerk的な診療に陥らず,考えながら腹痛を診療できるようにと企画したのが今回の特集である.限られた時間,リソースのなかで,いかに質の保たれた診療をするか,に焦点を当ててみた.前半では,腹痛診療の総論的な事項を挙げた.それらの重要ポイントを踏まえて,後半ではエキスパートがどのように腹痛にアプローチするのかを追体験できるように症例を提示していただいた.本特集で得たものを生かして,明日からは“スマート”な腹痛診療にトライしてほしい.