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【特集】

みんなが知っておきたい透析診療
透析のキホンと患者の診かた

志水 英明(大同病院腎臓内科)


 高齢化が進むわが国では腎機能の低下した患者が増加しており,現在約33万人が透析を受けているとされる.当然,内科外来で透析患者を診る機会は今後さらに多くなるだろう.しかし透析患者においては,診療上,注意すべき点が数多く存在する.例えば,以下のような事例があった.

 1)維持透析中の患者が手術のために外科系診療科へ入院し,透析翌日に手術を行う予定となった.しかし手術当日,挿管後の採血で高度の高カリウム血症が判明し,手術を「中止するか・継続するか」で慌てる事態となった.幸い,グルコース・インスリン療法でカリウムも安定し,無事手術が施行できた.

 2)透析回診時に患者から「風邪をひいたので風邪薬がほしい」との訴えがあったが,「いつもと様子が違う」という透析スタッフからの情報に加えて詳しい病歴聴取と身体診察を行ったところ,感染性心内膜炎と診断され,適切な治療を行うことができた.

 

 まず前者のケースでは,透析翌日にもかかわらず,なぜ高カリウム血症になったのであろうか.これは「絶食に伴う高カリウム」で,手術前日の夕食後から飲食禁止となり,糖分が摂取されず血漿インスリン低下により細胞内からカリウムがシフトし,無尿の透析患者ではカリウムを体外に排泄できないために陥った病態である.特に糖尿病の透析患者が8時間以上絶食した際にみられ,ブドウ糖を含む輸液を行っておけば予防できる.最近は入院日数の短縮により,非透析日に検査や手術を行い,そのまま透析を行わずに退院となることも多くなっている.

 また後者のケースでは,透析患者であっても発熱などの症状に関して基本的な診療原則は変わらないが,症状が現れにくいことや,透析患者に特有の鑑別すべき疾患があることに注意が必要である.

 透析専門医がいない医療機関も多いため,こうした透析患者についての知識は一般の内科医・研修医にとって,備えておくべき必須のものと言える.そこで本特集では,透析の基本事項に始まり,日常の管理と異常がみられた場合の診かた,さらに救急外来や入院での対応について実践的な内容を解説していただいた.

 本特集が専門医・非専門医を問わず,透析に関わるすべての医療者に役立つことで,透析患者が他疾患の患者と同様に,医療の恩恵を受けられるようになれば幸いである.