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【特集】

一歩踏み込んだ
内科エマージェンシーのトリセツ

川島篤志(市立福知山市民病院総合内科)


 ある症候から病歴聴取,身体診察を適切にとり,鑑別診断を挙げる.

 これらは救急外来やプライマリ・ケア診療にかかわる医師にとって基本的なスキルであるが,とても奥が深い.いわゆる「見逃し」症例から学ぶことができる良書や講演会も増え,救急外来を担う若手から,診療所外来におられるベテラン医師に至るまで,良質な教育を受ける機会は間違いなく増えてきている.内科系外来に来た非内科系疾患で緊急性の高い疾患や,頻度は低いが緊急性の高い疾患など,鑑別診断に挙げることが難しい疾患もそういった場で取り上げられるようになってきている.病歴聴取・身体診察から危ない疾患を想起し,鑑別に挙げることができるようになった医師は,確定・除外診断のために,精密検査や特定診療科への相談が必要となる事態に遭遇する.特に,除外診断のために非日常的な医療行為を行うときには,相手がその意味を理解していないと骨が折れる.相談できる相手や相談ルール,利用可能な検査への閾値は,勤務する医師や医療体制,地域によっても異なり,医師の異動を鑑みると年度によっても異なるので注意が必要である.実施しにくい検査・コンサルトがある場合や自施設で対応できない症例に遭遇した際に,どう対応すればよいか悩むことも多いと思われる.

 「正直者が馬鹿をみる」ではないが,「鑑別疾患を挙げることができた医師」が遭遇するジレンマに突っ込んだ特集を企画した.よくある症候から見逃してはいけない緊急疾患・致死的疾患を想起するトレーニングだけでなく,どういった対応が円滑なのかを,個人およびシステムレベルで考える,いわば「一歩踏み込んだ救急外来のトリセツ」を意識して,全国で活躍している臨床医の先生方にこの難題について執筆いただいた.また,緊急性はなくとも,適切な診断がなされないまま治っていく疾患(Self limited disease)や,後日,病状がハッキリする疾患を見逃すことは,患者側からすれば「見逃し」にあたる.医師個人や施設にとっても重要な問題になるため,その対応についても項目を設けた.

 本特集が,一般外来診療・救急診療で遭遇する可能性のある症状から見逃してはいけない情報を拾い上げること,そして対応が難しい時に,自施設だけでなく,地域全体を意識できる,一歩上の対応能力に優れた医師,そして救急システムを構築するための「トリセツ」づくりの一助になれば幸いである.