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【特集】

しまった!日常診療のリアルから学ぶ
エラー症例問題集

矢吹 拓(国立病院機構栃木医療センター内科)


 東京大学の故 冲中重雄名誉教授が,1963年退官時の最終発表で,自身の臨床診断と病理解剖の結果を比較して,教授在任中の誤診率が「14.2%」だったと発表したのは有名なエピソードです.この数字が高いか低いかは別にして,このような視点で日々診療していた先生がいらっしゃったということに大変感銘を受けます.

 私達の日常診療はどうでしょうか? 自らの診療内容を振り返る機会はあるでしょうか? 臨床医として仕事をするなかで,適切な診断やマネジメントができるように,日々努力していくことはもちろん重要です.でも,実際には『ドクター G』のようなファインプレイばかりが続くものではなく,時に診断を誤ったり,診断にたどり着けなかったり,診断が遅れたり,といったことが起こるのではないかと思います.

 今までの臨床推論に関する書籍や勉強会の多くは,診断が適切に行われた症例が主だったように思います.当然,そういった成功症例からの学びも重要なのですが,一方で,いわゆる「失敗症例」を共有したり,振り返って改善点を検討するような形での学びの場こそ必要ではないかと考えています.そして,そのような振り返り,検討するような場はまだほとんどなく,診断エラー症例の分析や報告を行っている学会も非常に少ないのが現状です.そもそもエラー症例を提示することは,決して心地良いものではなく,時に批判に晒されたり,つらい思いをしたりする可能性があります.患者の転帰によっては医療訴訟の対象になることすら考えられます.「日常診療のリアル」に目を向けるときに,それは時に痛みを伴うようなつらい作業になる可能性もあるのです.

 本特集では,諸先生方に数々のエラー症例を提示していただきました.内容は個人情報に配慮した形で修正を加えていますが,実際にどれもありうる「失敗症例」だと思っています.エラーを責める,非難する視点ではなく,その症例から何を学び,何に注意すべきか,次に起きないようにするために必要なことは何か,そんなことを考えながら皆様と一緒に振り返る,そのようなきっかけになれば幸いです.諸先生方には心から感謝いたします.

 最後に,“失敗”に関する偉人の言葉をご紹介します.

 「それは失敗ではなく,その方法ではうまくいかないことがわかったんだ.
 だからそれは,成功なんだよ」

──トーマス・エジソン 

 「成功を祝うのはいい.しかし,もっと大切なのは失敗から学ぶことだ.
 失敗にどう対処するかで,会社が社員の良い発想や才能を引き出し,変化に対応しているかがわかる.
 だからどの会社にも,ミスをして,それを最大限生かした経験のある人が必要だ」

──ビル・ゲイツ