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【特集】


がん診療
内科医が知りたい30のエッセンス

山内 照夫(聖路加国際病院腫瘍内科)


 がんは今や日本人の2人に1人が罹患すると言われています.したがって,がんの予防・検診,診断から最期までがん患者の病歴のどこかで医師として関わる可能性があります.これまでがん診療の多くは外科系診療科を主体に大病院で行われてきました.しかし,がん人口の増加とがん診療の複雑化に伴い,基幹病院を中心にこれからは一般開業医を含め,内科系専門診療医も連携して包括的総合がん診療に取り組む必要性があります.

 本特集では主に固形がんを対象に,がんに対する包括的総合診療を実施する際に一般医家や研修医にとって必要ながん診療のエッセンスを3部構成で系統的に取り上げています.

 第1部では,がん診療の総論として公衆衛生学的観点から疫学,予防,検診の現状を,また,臨床腫瘍学的観点からがん診療現場における診断のプロセス,包括的がん診療におけるチーム医療とそこにおける薬物療法と放射線療法の総論,さらに精神腫瘍学的観点からがん患者に対するコミュニケーションに焦点を当てて論じています.

 第2部の各論では,日本において罹患率の高い消化器がん,また,タイプによって治療法が異なり,予後も異なる肺がん,自然病歴が長いために,再発に留意したサーベイランスや長期にわたる治療が必要になる乳がんや前立腺がんを取り上げています.いずれのがん種も診断法や治療薬の発展には目を見張るものがあります.

 第3部では,がん治療に関連して生じるさまざまな問題点を取り上げています.薬物療法の発展に伴い,従来の抗がん剤とは異なる多岐にわたる副作用がみられるようになっており,その対処法も複雑になってきています.また,予後が改善し,がん患者の生存期間が長くなり,がんサバイバーが増加しています.がんサバイバーにとっては,再発や初期治療後の晩期障害の有無を確認することと,再発や障害が生じた際に適切に対処することが重要です.がんという診断名のゆえに治療介入が消極的になりがちな急性症状のなかで,適切な対処を行えば救命できる状況であるオンコロジックエマージェンシーについて代表的なものを取り上げています.さらにがんの進行に伴い生じる症状の緩和やAdvance Care Planningを取り入れた終末期医療,また,先進国において最も長寿国である日本において避けることのできない高齢者のがん診療についても取り上げています.がん治療が発展したといっても,がん種や病期によっては不治の病であることは否めません.日々新規治療の開発が行われており,また,保険外診療による治療も行われています.これら試験的治療の位置づけや制度についても触れています.

 このようにがん診療に関わる問題は多岐にわたり,複雑化してきています.初期診療にあたる一般医家や若い医師たちが,がん診療におけるこれらの幅広い問題に柔軟に対応できるようにこの特集が役立つことを願っています.