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【特集】

主治医として診る
高血圧診療

下澤 達雄(東京大学医学部附属病院検査部)


 『高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)』には高血圧患者の治療において何が必要かがエビデンスに基づいて書かれています.すなわち,初診時にどのような問診,診察,検査を行い,二次性高血圧,白衣性高血圧の診断のために何が必要かが詳細に記載されています.また,リスクの評価方法,リスク・合併症に応じた降圧目標,治療薬の選択についての記載もあります.これらを利用することで,高血圧患者を診る際の最初の数カ月についてはガイドラインに則った診断,治療を行うことができます.

 しかし,高血圧の成因は複雑多岐にわたり,患者の病態生理は常に変化します.高血圧患者の診療とは,患者を年余にわたり経過を観察し,心血管イベントを予防することが重要です.しかしながら,どのような経過観察を行い,病態生理を明らかにし,最適な治療を行うべきかについてはガイドラインには記載されておりません.また,どのような身体所見をとるべきか,どのような検査をどのような頻度で行うことが有用か,といった基本的な事項についても十分なエビデンスがあるとは言えません.それゆえ,外来診療の経時的観察について詳細をガイドラインに記載することは難しいのが現状です.

 そこで,今回の特集では必ずしもエビデンスがない項目にあえて挑み,ガイドラインを活かしてどのように患者の経過を観察し,長期にわたるより良い治療・マネジメントを行えばよいかについて,次世代を担う高血圧診療の専門家の先生方にご解説をお願いしました.また,健康診断データ,高齢者在宅医療といったわが国の重要な医療問題についても高血圧の観点から概説しております.加えて,「関連トピックス」として各項目に関連する高血圧領域の基礎研究も紹介しました.そこでは細胞レベルから動物,そしてヒトのレベルまでの幅広い高血圧研究を取り上げ,それらの現状とその成果をどのように日常診療に活用できるかについて触れています.若手の医師の皆さんがこれからphysician-scientistとして高血圧研究を始める際の参考になるかと思います.また,ベテランの先生方におかれましても,地域の特殊性,患者の個々の社会環境に合わせてこれらの知識が実臨床に応用されれば幸いです.