目次詳細・ご注文はこちら  電子ジャーナルはこちら

【特集】

抗血栓療法
おさえておきたい最新のエッセンス

中村 真潮(三重大学大学院循環器・腎臓内科学/村瀬病院 肺塞栓・静脈血栓センター)


 わが国は高齢社会の時代となり,生活習慣病の増加も手伝いアテローム血栓症や心房細動に伴う脳塞栓症,さらには静脈血栓塞栓症などのさまざまな血栓性疾患が急増している.血栓とは,本来,障害された血管を修復して出血から生体を守り,血管破綻部位からの病原微生物の侵入を防ぐために人類が獲得した生体防御機構である.これが何らかの理由により制御されないと病的な血栓が形成され,血管閉塞を生じて臓器を障害する.近年は栄養過多やライフスタイルの変化,あるいは高齢化により,この止血機構が相対的に過剰となり疾病の増加につながっている.

 病的な血栓により発症した疾患,すなわち血栓症を主に薬剤により治療や予防するのが抗血栓療法であり,抗血小板薬や抗凝固薬,血栓溶解薬が用いられる.従来,アスピリンやワルファリン,未分画ヘパリン,ウロキナーゼ等が抗血栓療法の中心だった.しかし,これらは一定の有効性を示すものの,効果が不安定であったり出血の合併症を生じやすかったりと,種々の問題点が指摘されてきた.このため,従来薬の欠点を補う新しい薬剤の開発が精力的に行われ,最近,多くの新規抗血栓薬が使用できるようになった.臨床試験の結果を見る限りその効果は明らかであり,臨床的有用性は疑いのないもののように思える.

 一方,新しい抗血栓薬には出血リスクをより少なくすることが期待をされるが,抗血栓効果の延長上には必ず出血性合併症が存在する.そして,薬効や副作用のリスクには個人差が大きく,実臨床では臨床試験で扱われない特殊な状況によく遭遇する.血栓リスクの高い患者の観血的処置への対応や,超高齢者,腎機能障害患者に対する抗血栓療法の適応には唯一無二の解決法はなく,個々の患者のベネフィット・リスクを勘案し,よりよい対処法を模索することになる.

 わが国でもベネフィット・リスクのバランスに優れた非ビタミンK阻害経口抗凝固薬が使用可能となり,抗血栓療法は脳・心血管病分野の専門家だけではなく,一般の臨床医にとっても身近なものとなった.この機会に抗血栓療法全般において改めて知識の整理をしていただければと本特集を企画した.執筆は各分野を代表する先生方にお願いしており,抗血栓療法の基本から臨床で遭遇する様々な疑問点まで,分かりやすく解説いただいている.本書が臨床に携わるすべての先生方のお役に立ち,多くの患者の治療に貢献できる一冊となることを期待する.