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【特集】

心不全クロニクル
─患者の人生に寄り添いながら診る

加藤 真帆人(日本大学医学部内科学系循環器内科学分野)


 近年の急激な高齢化によって「心不全:heart failure」という疾患は,もはや循環器を専門とする医師だけが診るものではなくなった.少なくとも内科分野を担当する医師すべてが,その知識を持ち合わせなければならない.

 しかしながら,この「心不全」という言葉は実に曖昧である.「心臓が悪い:dysfunction」ことを心不全と言うこともあるし「うっ血性心不全:congestion」や「低心拍出:low cardiac output」を指し示すこともある.近年,提唱された「慢性心不全:chronic heart failure」とは,そういった曖昧さをきちんと整理した概念である.

 われわれは,外来で,病棟で,救急室で,さまざまな心不全患者を診療する.目の前の患者に対し,何らかの評価を行い,治療のゴールを設定し,そのための治療を施す.高度に専門性が必要な場合もあるし,そうでない場合もある.自身の専門性や自施設の能力を考慮して,自ら診るか,紹介するかを判断しなければならない.

 その際に忘れがちなのは「俯瞰した視点:bird's-eye view」である.縦軸にNYHA心機能分類で表現される患者の症状,横軸にstageで表現される慢性心不全の進行度をプロットすると「心不全クロニクル」が完成する(図1).

図1
図1 心不全クロニクル

 例えば,図1の①~③は,すべて「うっ血性心不全」である.起坐呼吸を主訴とし,何らかの心機能異常をもっている.酸素投与,血管拡張薬,必要なら利尿薬……,急性期はそれでかまわない.しかし,その後の治療はすべてが同じではない.
①は「新規の急性心不全:de novo acute heart failure」である.多くは心筋梗塞が原因であり,速やかにカテーテルインターベンションが必要なのかもしれない.
②は「慢性心不全の急性増悪:acute decompensated heart failure」であり,もともと悪い心臓を上手く使えなかったことが原因である.何がそのトリガーになったのかを考えなければならない.
③は「重症心不全/末期心不全:advanced heart failure」である.心移植もしくは補助人工心臓の適応を検討する,または終末期医療を開始しなければならない.

 本企画は,図1の「心不全クロニクル」図で表現される慢性心不全という概念を俯瞰しながら,循環器を専門としない医師にもわかりやすく,そして何より「心不全患者の人生に寄り添いながら診る」ことができるよう企画編集した.本企画が先生方の診療の一助に,また心不全患者の人生の援助になれば幸いである.