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【特集】

ウイルス肝炎の薬物治療
変わりゆく治療戦略

海老沼 浩利(慶應義塾大学医学部消化器内科)


 肝炎ウイルス,とりわけ慢性肝炎・肝硬変さらには肝細胞癌の発生を引き起こすB型肝炎ウイルス(HBV)・C型肝炎ウイルス(HCV)に対する治療法は,この数年で目覚ましく変わってきている.かつては自覚症状に乏しく,緩徐に進行するのをよいことに肝庇護薬などの投与しかせず放置されていたケースも少なくはなかったであろう.さらには,当初用いられていたインターフェロン製剤が副作用のわりに治療効果が低かったのも,治療を嫌がる患者が増えた一因であろう.

 しかし,ここ数年新規の抗ウイルス薬の登場により,ウイルス肝炎の治療は目覚ましく進歩している.さらに,今後も新規の治療薬が多数上市されてくるであろうことから,われわれはこの変遷していく抗ウイルス薬治療に適宜対応していかなければならない.

 HBVに対しては,2006年に発売されたエンテカビルに加え,2014年にテノフォビルの使用が可能になった.高い忍容性と耐性株の出現率が低いことから,エンテカビルと同様,今後のHBV治療の主役となっていくであろう.それにより,長期的な目標としてHBs抗原の陰性化,すなわちドラッグフリーを目指していく必要が出てきたわけである.

 HCVに対しては,テラプレビルに始まったプロテアーゼ阻害薬とペグインターフェロン・リバビリンの3剤併用療法が,シメプレビル・バニプレビルと出揃い,さらにはインターフェロンフリーのレジメであるダクラタスビル・アスナプレビル併用療法が施行可能になった.その適応はインターフェロンを含む前治療無効例やインターフェロンが使用できない人と,まだ限定的ではあるものの,副作用の多いインターフェロンを使用することなく,85%以上のウイルス消失率が得られていることは特記すべきであろう.さらに,2015年内にはgenotype 2に対してソフォスブビル・リバビリン併用療法,genotype 1に対してソフォスブビル・レディパスビル併用療法が認可される見通しであり,薬剤耐性ウイルスという問題は残るものの,ほぼHCVの全例駆除が可能になってくると考えられる.

 日本におけるウイルス肝炎治療の問題点は患者の高齢化である.DAAs治療は副作用が少ないことから,治療対象となる患者も高齢患者に拡がっていくと考えられる.しかし,ウイルス肝炎患者がすべて肝硬変へ進展,あるいは肝発癌を認めるわけではない.今後,高齢者を含めたすべてのウイルス性肝炎患者に治療は必要であろうか? という疑問,さらにはウイルス駆除後の発癌といった将来を見据えた疑問も含めて,本特集では基本的な知識から最新の治療まで網羅した.とりわけ,今回は若手の肝臓専門医に多く執筆を依頼し,今後多くの若手医療関係者が肝臓領域の医療に興味をもっていただけるよう配慮した.

 最後になりましたが,今回この企画を提案していただいた先生方,ご協力いただいた編集部の皆様,ならびに執筆をいただいた各先生方に改めて御礼申し上げます.