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特集

診て考えて実践する
水・電解質管理と輸液

赤井 靖宏(奈良県立医科大学臨床研修センター)


 水・電解質異常は日常診療で頻繁に遭遇する病態である.にもかかわらず,日常診療において,水・電解質異常に対する治療が適切に行われていない場合を散見する.また,不適切な輸液治療に伴って,医原性に水・電解質異常が惹起される場合もある.多くの医師が水・電解質異常の重要性を理解していながら,なぜこのような状況が続くのであろうか.私には,水・電解質異常の教育・臨床において欠け落ちた部分,いわば"unmet needs"があるように思えてならない.

 本特集は,この"unmet needs"が何であるのかを考えながら企画したものである.水・電解質異常はさまざまな医学雑誌などで取り上げられるが,理解が進みにくいのが現状ではないだろうか.これには,多くの臨床医が水・電解質異常を重要と捉えてはいるが,水・電解質異常の病態の多くが無症状であったり,自然軽快するため,実臨床においてその意義や治療を深く考える機会が少ないことが要因の1つと思われる.つまり,「診て,考えて,実践する」ことが十分に行われていないのではないだろうか.しかし,近年は軽度の低ナトリウム血症が高齢者の転倒の原因になることが報告されるなど,水・電解質異常の意義が注目されているところである.本特集では,自分が診療対象としている患者群でどのような水・電解質異常が起こりやすいのか,また,それに対してどのように対応する必要があるか(軽度の異常であっても対応が必要か,など)を考えていただけるように企画した.また,血液検査だけに頼らず,患者背景,薬歴や身体所見から水・電解質異常を予測し,迅速な対応が可能となるような一歩進んだ水・電解質異常の理解を目標とした.

 本特集では,水・電解質異常の診断や管理において,「診て,考えて,実践する」ために必要な「基礎的(生理学的)な部分」,「さまざまな水・電解質異常における診断と治療」,「異なる病態や臨床現場における水・電解質異常の診断や管理」に分けて,自分が置かれた職務環境での水・電解質異常への理解が進むように配慮した.特に,病態や臨床現場が異なれば,遭遇しやすい水・電解質異常は異なるし,その対応にも差異が生ずる.水・電解質異常は「起こってから対処」するのみならず,「起こりそうな病態を予測して対処」することが重要である.このためには,病態・臨床現場に応じた水・電解質異常発症予測が重要であり,本特集を一読いただくと,一歩進んだ水・電解質異常の理解が進むと考える.また,水・電解質異常のunmet needsについて,学生教育や研修医教育における問題点,臨床現場での問題点などを座談会の形式で3名の先生方に語っていただいたので参考にしていただきたいと思う.

 本特集が,さまざまな臨床現場における水・電解質異常に対するneedsの空白を埋め,「診て,考えて,実践する」,より適切な水・電解質異常管理へつながれば幸いである.