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特集

今日から役立つ高血圧診療のノウハウ

土橋卓也(国立病院機構九州医療センター高血圧内科)


 高血圧は日本に4,000万人以上いると推定されている最も多い生活習慣病である.日本人の高血圧は昔の「痩せ型高血圧」から現代では「メタボ型高血圧」に変化してきた.すなわち,肥満,糖尿病,脂質異常症,高尿酸血症など代謝異常を合併する高血圧患者が増加し,高血圧治療の本来の目的である心血管病の予防のためには高血圧以外のリスクも含めたTotal risk managementが要求される時代となった.さらに高齢化社会を迎えたわが国において,高齢者高血圧は日々の診療で遭遇する疾患と言える.

 われわれは高血圧内科として高血圧の専門診療を提供しているが,患者の58%は65歳以上であり,25%は75歳以上,13%は80歳以上と後期高齢者,超高齢者も少なくない.高齢者は整形外科的疾患など他疾患を合併する頻度が高く,複数の医療機関に通院している者も多い.必然的に内科以外の医師が高血圧の治療を提供していることも少なくない.したがって,高血圧や循環器を専門とする医師はもとより,プライマリ・ケアに従事する医師,かかりつけ医としての役割を有する医師,さらに検診など予防医学に携わる医師にとっても,標準的診療手順を理解しておくことが求められる.

 日本高血圧学会では2000年に最初の高血圧治療ガイドライン(JSH2000)を刊行して以降,JSH2004,JSH2009と改訂を重ね,現在JSH2014の改訂作業中である.本特集では,高血圧の疫学,家庭血圧や自由行動下血圧測定(ABPM)など診療に必要な血圧の諸指標,原発性アルドステロン症など二次性高血圧の鑑別,減塩を中心とした生活習慣修正,薬物療法,特に各種配合剤を活かした降圧薬の併用療法,合併症を有する高血圧への対応など日常の高血圧診療で必要な実践的知識をガイドラインに沿って解説していただくとともに,今話題となっている腎交感神経アブレーションやワクチン療法など新しい治療法も紹介していただいた.さらに座談会では,改訂中のJSH2014への期待について作成委員の先生方とガイドラインに基づく診療を実践する実地医家の先生,それぞれの立場でお話しいただいた.

 Evidence-based medicineの時代であるが,高血圧領域では高齢者や合併症を有する患者の降圧目標など,エビデンスが十分でない項目も少なくない.さらに海外のエビデンスをそのまま日本人に適用できるとも限らない.エビデンスの内容を吟味したうえで,コンセンサスにより日本人のための指針を作成することが望ましいと言える.本特集が,高血圧診療に携わるすべての医療関係者に今日から役立つ書となることを心より願っている.