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特集

大きく変貌した脳梗塞の診断と治療

木村和美(川崎医科大学脳卒中医学)


 脳梗塞の診療は,「分からない・治らない」時代から,「分かる・治せる」時代に大きく変貌している.ドクターヘリによる搬送,t-PA静注療法の認可,血管内治療の登場により,この数年の変化は目覚ましいものがある.t-PA静注療法が,発症3時間以内にしか使用できなかったが,2012年8月31日より4.5時間まで使用可能となった.これまでだと寝たきりとなったり,死亡されていた人が,場合によっては歩いて退院する時代になった.また,最近の研究で,一過性脳虚血発作の患者は,発作直後に完成型脳梗塞になる可能性が高いこと,しかし適切な治療により脳梗塞を回避できる可能性があること,が示された.さらに,もし発作が起こってもt-PA静注療法により治療可能であり,一過性脳虚血発作直後は,緊急疾患として扱うことがクローズアップされている.

 脳梗塞急性期の治療は,言うまでもなく,各々の患者の病態を把握し,その病態にあった治療を行うことである.ラクナ梗塞,アテローム血栓性梗塞,心原性脳塞栓症,また,まれでない病態として奇異性塞栓症,脳動脈解離,大動脈原性塞栓症が挙げられる.これらを,MRI,超音波,SPECT,血管造影検査などを駆使して,総合的に病型を診断する.よく患者を診察し,画像診断と総合的に病態解明に努めることが大切である.

 急性期の治療は時間との闘いである.特に,t-PA静注療法や血管内治療は,1分でも早く行うことが大切である.患者にとっては,この数分が,その後の人生を変えるかもしれない.われわれは,t-PA静注療法時には,来院からt-PA投与まで30分以内で行うように心がけている.t-PA静注療法が4.5時間まで使用可能となったが,早く投与が必要なことには変わりない.一般医家,専門医の立場で,どう対応すべきか,初期対応についても本特集で取り上げた.

 発症後の2次予防も言うまでもなく大切である.最近,ワルファリンに代わる新規抗凝固薬の登場により,心房細動が注目されている.慢性期のリスク管理,抗血栓療法,外科手術にも焦点をあてさせてもらった.また,脳梗塞患者の約5割は,実は,外来に家族に連れ添われて来院される.そこで,最後に,歩いてくる一過性脳虚血発作や軽症脳梗塞患者の対応について座談会に取り上げてみた.地域のおける取り組みを考えてみたいと思う.

 脳梗塞急性期の診断と治療は大きく変貌している.この1冊で,脳梗塞急性期の病態が理解でき,どう対応したらよいのか,また,どう治療したらよいのか,研修医から一般医家,専門医まで広く読まれ,少しでも脳卒中診療にお役に立てることを祈願いたします.