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今月の主題

連携して診る腎疾患
タイムリーな紹介から患者マネジメントまで

岩野正之(福井大学医学部腎臓病態内科学)


 慢性腎臓病(CKD)の概念が提唱されて,今年で10年である.当初は腎臓病を十把一からげにする考え方,そして腎機能だけから分類する単純なステージングに馴染めないばかりか憤りを感じていた腎臓専門医も多かったと思う.もちろん,私もその一人である.しかし,この10年間のCKD啓発活動のおかげで,医療従事者の中に腎臓病に対する意識変革がもたらされたことは間違いない.症状がなく,進行がきわめて遅いために,それまでは放置されていた多くの腎不全患者が,かかりつけ医からの早めの紹介により腎臓専門医を受診するようになった.私の外来患者も,10年前までは糸球体腎炎やネフローゼ症候群が中心であったが,今では8割近くが腎不全患者となっている.

 CKD患者は1,330万人もいるわけであるから,腎臓専門医3,600人では対応できるはずがない.糖尿病や高血圧と同じように,かかりつけ医の積極的な参加が鍵となる.ただし,CKD診療は血糖値管理や降圧という一つの目標を達成すれば良いという単純なものではない.本特集で述べられているように,多くのチェックポイントを押さえて診療しなければならない.言わば,糖尿病や高血圧診療の応用問題を解くようなものである.それだけにチャレンジする価値があり,腎機能悪化を止めることができた場合にはそれなりの達成感を味わうこともできる.是非とも『CKD診療ガイド2012』や,それを補う本特集を利用して,とにかく第1歩を踏み出してほしい.判断に迷ったら,すぐに気楽に遠慮せずに腎臓専門医に相談していただきたい.私自身も数百名の末期腎不全患者を診察しながら,患者には申し訳ないがトライ・アンド・エラーを繰り返しつつ,少しずつCKD診療のコツを体得してきたように思われる.

 『CKD診療ガイド2012』で強調されているように,これからは蛋白尿に対する意識を変えなければならない.CKD啓発活動の第2ステージの始まりといえる.私は糖尿病患者が顕性蛋白尿を呈するようになれば,全例腎生検を実施すべきであると思う.なぜなら,組織学的に糖尿病性腎症と診断される人は50%強に過ぎず,IgA腎症と診断されることも多いからである(自験例では24%).したがって,治療方針決定には腎生検が必須であろう.また,腎生検入院時にCKD教育入院のメニューを用いて,徹底的に患者教育や栄養指導をすれば,糖尿病性腎症患者の予後は必ず良くなるはずである.糖尿病患者に顕性蛋白尿が出現するようになれば,時を移さず腎臓専門医に紹介してほしい.

 かかりつけ医と専門医とのタイムリーな連携が,患者のよりよいマネジメントを導くことを願う.