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今月の主題

外来・病棟でのプライマリケアに必要な
感染症の知識

柳 秀高(東海大学総合内科)


 感染症診療は何科の医師でも避けられません.どんな専門家でも担当している患者が感染症にかかれば最初に診療に当たることが多いと思われます.抗菌薬の適正使用(Antimicrobial Stewardship)や手指衛生(Hand Hygiene)はその道の専門家だけが実行しても焼け石に水ですし,敗血症患者にファーストタッチするのは救急や内科医師,開業の先生方などであって感染症専門医ではありません.むしろ感染症医に相談が来るのは特殊なケースでしょう.心筋梗塞や消化管出血の場合は専門家に依頼することが多いのと対照的かもしれません.そこで,今回の特集では第一線の医師が遭遇する問題として頻度が高い,緊急性が高い,あるいは見逃したくない感染症について学べることを目標にしました.

 総論として,感染症診療の原則(principles and practice)を俯瞰し,細菌培養検査,感受性検査の使い方を概説したいと思います.続いて頻度の高い疾患を主に臓器別に取り上げ,日常診療上陥りやすいピットフォールなどについても解説します.

 緊急性の高い病態では原則的な考え方は重要ですが,救命のためには時間軸を明確に意識した診療が重要であることを示します.その次章「見逃したくない疾患」では,診断が時に困難な疾患について述べます.診断の遅れは予後の悪化につながる可能性があり,また結核やバイオテロリズムは初療に当たるプライマリケア医が認識できるかどうかで,個々の患者のみならず,公衆衛生学的結果が変わることが予想され,誰もが原則を知っておく必要があると考えます.

 さらに,専門家に相談すべき場合として,耐性グラム陰性桿菌,移植後感染症,HIV,渡航外来などを挙げています.これらをすべてカバーすることは一般内科医としては必要でありませんが,原則的な考え方,知っておくべきこと,などについて概説したいと思います.

 最後の2つの章では抗菌薬の適正使用,院内感染コントロールについて取り上げます.すでに治療する抗菌薬のない耐性菌が続々と報告されており,現存する抗菌薬の有効な使い方,耐性菌を拡散させないプラクティスについて学ぶことはすべての医師にとって重要です.

 第一線に立つわれわれ一般内科医が先頭に立ってわが国の感染症診療を最適化し,患者を適切に治療し,耐性菌を減少させられるよう努力していきたいと思います.