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今月の主題

肝硬変update
より良き診療のために

福井 博(奈良県立医科大学第3内科)


 肝硬変は長期にわたる肝細胞の壊死,脱落に対して著明な線維化と再生結節形成をきたす慢性肝疾患の最終像です.原因にかかわらず,肝構築の改変は門脈圧亢進症を惹起し,肝細胞量の減少は肝機能不全をもたらします.肝再生は本来,壊死,炎症に対する修復反応ですが,このサイクルの加速は一方で肝発癌につながります.肝硬変では全身血行動態,代謝動態は著しく変化しており,変化の程度に応じて肝外臓器・組織に多大な影響が及びます.臓器相関という概念がここから育ったのも不思議ではありません.

 肝臓が「沈黙の臓器」と言われるのはこの死に至る病が無症状のうちに進むからです.多くの患者さんと向き合う医療現場で私たちは「専門医との出会いがあまりに遅い」という無念の思いを噛み締め,救命のための努力を重ねる一方で,1例1例の問題点を分析しています.肝硬変は八方手を尽くして治療すべき疾患であり,かつ確実に予防できる疾患でもあります.肝硬変の予防は肝癌の撲滅に直結します.線維化の機序が解明され,抗ウイルス薬などの新薬の開発が相次ぐなか,肝硬変が「治りうる」疾患へと変貌しつつあることは疑いを入れません.しかし,この医学研究のめざましい成果を一人一人の患者さんに本当に還元するためには一般医と専門医のさらなる連携が必要であり,そこで初めて本症の予防,早期発見,適切な治療が現実のものになることを強調したいと思います.

 肝硬変の病態は複雑ですが,全身に気を配りながら最良の治療法を選択していくのはやりがいのあるものです.本特集号では,各分野のリーダーやエキスパートの方々に肝硬変の原因,病態,診断,治療などに関する最新の知見をわかりやすく解説していただきました.薬物療法,内視鏡治療,インターベンション,ガイドラインなど,多彩な情報が盛り込まれており,他に類をみない構成と言えます.また,座談会では肝臓病学の領域を超えて「全身を診る」ところに肝硬変診療の本質があることをお伝えしました.まだまだ未知の部分や克服すべき課題も多くありますが,一般内科医や若い先生方に興味をもっていただけたらと思います.明日からの実地臨床に役立つ座右の一冊となることを期待しています.