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今月の主題

新規経口抗凝固薬の光と影

後藤信哉(東海大学医学部内科学系循環器内科学)


 日本人は新しいもの好きな民族である.明治維新とともに新規の西洋文明を一気に取り入れ,急速に近代化したのも,民族として「新しいものを取り入れることが好き」という特性があったからであろう.第二次世界大戦前後の日本における思想の転換の早さをみても,日本人が「新しいものが好き」との特性を持っていることがよくわかる.「新しい」ものは多くの場合「古い」ものよりもよく見える.新規経口抗凝固薬は「新規」とあるように「ワルファリン」よりも新しい.新規経口抗凝固薬の登場とともに,新しいもの好きの日本の医師たちは明治維新とともに「刀」が捨てられたようにワルファリンを捨てるのであろうか?それとも,見かけは欧化しながらも「武士道精神」を長らく維持したようにワルファリンのよさも認識して使い続けるのであろうか?

 筆者は医療においても思想においても保守的である.若者に読書を勧める時には,最近の芥川賞受賞小説を勧めるよりも,古典文学を勧める.ギリシャ神話,トルストイ,ドストエフスキーに代表されるロシア文学,スタンダール,バルザックに代表される19世紀の古典文学には時代を越えた価値がある.時間という試練を経て現代に残っているものには試練を乗り越えるだけの価値があるのだ.

 ワルファリンは古典的な薬剤である.医師は時代を越えてワルファリンを使い込んできた.欠点はあるが利点もある.欠点に対する対策も熟知している.新規の経口抗凝固薬はワルファリンの欠点を明確にし,その欠点を乗り越えることにより存在意義を示そうとしている.筆者は複数の新規経口抗凝固薬の開発試験に深く寄与してきた.試験の結果を見れば,新規経口抗凝固薬は魔法の薬ではないことがよく理解できる.中国から漢字を輸入しつつ伝統的なひらがなを残して,世界的にもユニークな漢字かな混じり文を作り出した日本の医師たちに,理想的なワルファリンと新規経口抗凝固薬の使い分けの方法を見いだして欲しいと願っている.