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今月の主題

糖尿病治療薬2012
皆が知りたい新しい治療A to Z

柴 輝男(東邦大学医療センター大橋病院)


 この2年間に糖尿病治療薬の新たな発売ラッシュを迎えました.最近を例にとればaグルコシダーゼ阻害薬が3種類揃うのに12年間を要しましたが,今回のDPP4阻害薬は約21カ月の間に4種類が発売され,さらに近々2種類が追加される予定です.これに加えインクレチンアナログの注射薬がほぼ同時期に2種類も発売されました.インクレチン系とひとくくりにしていいものかも疑問が残りますが,GLP1の糖尿病治療への応用が堰を切ったように始まりました.しかし,薬剤の発売に伴って発表される臨床データは,臨床的背景とターゲットとしてのHbA1c値のアウトカムがほとんどです.インクレチンの生理学など,一段掘り下げた情報も望まれます.

 薬の発売ラッシュにはインクレチン系に留まらず,ビグアナイドの高用量製剤や一時開発が中断された速効型インスリン分泌促進薬,さらにはインスリンアナログのハイミックス製剤も加わっています.実に1年余りの間に10種類に近い薬剤が登場しました.また,インスリンポンプ療法の再評価やCGMSの登場,保険点数上の見直しもあり,これらに新たに取り組む専門医も多いと思います.専門医でもこれだけのラッシュにあうといささか消化不良気味です.一般の医師には取り残されそうな危惧をお感じの方もいるかもしれません.これらの新しい薬や手法と既存のものを上手に段階的にあるいは併用として使いこなしておられる達人のお手並みをぜひ拝見したいものです.

 糖尿病治療の新しい風は血糖コントロールに使う薬のみならず糖尿病特有の細小血管合併症の治療にもその息吹を感じます.神経障害に関する疼痛スコアや腎症や網膜症の大規模臨床試験の結果を臨床に生かす方向性が感じられます.そのほかDPP4阻害薬などは血糖コントロールとは関係の薄い組織の修復にかかわる因子にも影響を及ぼし,糖尿病合併症の予後に福音をもたらす可能性も示唆されています.

 この特集では,新しい薬や治療法の知識を深めるとともに,日常臨床の実践に役立つように具体的な情報を満載してお届けしたいと考えて企画いたしました.そのためいささか眉をひそめる題目づけが有るやも知れませんが御容赦願えますと幸甚です.