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今月の主題

内科診療に役立つメンズヘルス

堀江重郎(帝京大学病院泌尿器科)


 医学における男女の性差を論じる性差医学が登場して20年近くなる.この間,女性の健康意識を高め,女性医学を推進していく「ウィメンズヘルス」が,乳癌,骨粗鬆症,女性更年期などの分野を中心に大きく発展してきた.一方,男性は医学の標準(norm)とされてきたものの,世界的に医療機関へのアクセスは女性よりも悪く,健康意識も低いことが報告されている.日本は健康長寿大国であるものの,厚生労働省の国民健康・栄養調査においては,この20年間成人女性のBMIがどの年齢層でも低下しているのに対し,男性はどの年代でも増加している.また,日本の平均寿命は世界一であるが,男女の平均寿命の差は約7年間と,ほとんどのOECD加盟国より大きいことも事実である.

 このように,男性であることが健康に悪影響を与える状態を改善するために,「メンズヘルス」という考えが,今注目されている.狭義の「メンズヘルス」の概念には,(1)前立腺疾患など男性に特有な疾患,(2)テストステロンの減少によるLOH(late-onset hypogonadism)症候群,心血管障害などのリスクファクターである勃起障害(erectile dysfunction:ED),および(3)生活習慣病の発症や病態の男女の性差,などが含まれている.また,より広い意味では自殺,事故などを含む社会医学的な側面も含まれる.

 European Commission(EC)は2011年9月にThe State of Men's Health in Europe(PDFファイル,3.64MB)を発行した.この膨大なレポートでは,EU諸国の男性の健康状態に関するさまざまなデータの比較検討がなされている.一口に欧州といいながらも文化,言語,生活習慣,生活水準,医療水準の異なる国々がデータを共有していくことで,健康政策のなかでメンズヘルスを推進していく意志が感じられる.

 メンズヘルスのキーワードとして,まずテストステロンとEDが挙げられる.テストステロンが減少すると,年齢にかかわらず疾病リスクは高まる可能性のあることが疫学調査から明らかになりつつある.加えてEDについての最近の知見がメンズヘルスにインパクトをもたらした.EDは従来,加齢に伴う生理現象とみなされてきたが,むしろ血管病として,より生命を脅かす疾患である急性冠疾患や脳血管障害のリスクファクターであることが判明し,また,治療薬であるPDE5阻害薬は単なる生活改善薬でなく,血管内皮機能を高めることも明らかになっている.

 この特集ではメンズヘルスの現在について,第一線の臨床医,そして研究者に寄稿いただいた.この機会にぜひメンズヘルスについての理解を深めていただければ幸甚である.