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今月の主題

脂質異常症
動脈硬化症を予防するためのStrategy

木下 誠(帝京大学内科)


 わが国においては生活の欧米化に伴い,虚血性心疾患や脳梗塞を代表とする動脈硬化症の発症年齢が低下し,発症頻度も増加してきている.現在,わが国の死亡率の25%以上が動脈硬化性疾患によるもので占められると考えられている.動脈硬化症は血管の異常をきたす病態であり全身性の疾患とも考えられるため,個々の疾患の治療に対応するのはもちろんのこと,その予防を念頭に置いた診療が必要となってくる.

 動脈硬化症の進展には,脂質異常症,糖尿病,高血圧症,喫煙といった危険因子が重要な役割を果たしていることが明らかになっている.本特集ではその危険因子による動脈硬化の成因をまとめた後に,脂質異常症治療に焦点をあわせて動脈硬化の予防・治療について議論を展開することとした.

 高コレステロール血症患者にスタチンを投与することにより,虚血性心疾患が劇的に減少することが報告されて(4S Study)から15年以上が経過した.その後も数多くの予防試験の結果が報告され,脂質異常(高LDLコレステロール血症,高トリグリセライド血症,低HDLコレステロール血症)を改善することにより,動脈硬化性疾患が効果的に予防されることが確認されている.現在使用されている脂質異常症治療のガイドライン(日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版』)は,これらの予防試験の結果に基づいて作成されたものである.しかし予防試験の結果は,その患者背景(基礎疾患,人種差,脂質異常の状態など)や治療方法・期間などがおのおの異なることより,一義的な解釈が難しい場合も多い.したがってこれらの予防試験の集大成であるガイドラインは,あくまでも治療の指針であって絶対的なものではないことを理解しておく必要がある.臨床医に必要とされているものは,ガイドラインの基となった臨床試験の意義を理解し,その試験から得られたエビデンスを患者にどう適応していくかを判断することである.このような考えに基づき,本企画では現在までに明らかになった予防試験の結果を簡潔に総括し,動脈硬化性疾患予防のために脂質をどの程度にまで管理すべきと考えるかをおのおのの専門家に考察してもらった.

 脂質異常症の治療は患者個々の動脈硬化症危険度を勘案したうえで決定されるもので,一律に決められるものではない.この特集により,読者の方の動脈硬化危険因子の評価が再認識され,臨床の現場においておのおのの患者の危険度の認識,治療方針の決定に参考になれば幸いである.