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今月の主題

臨床栄養Update 2011

中村光男(弘前大学医学部保健学科病因・病態検査学)


 わが国において戦前,戦後の食事の変遷は日本人の栄養状態や寿命,罹患する疾患に大きく影響を与えている.戦前,終戦直後はエネルギーや栄養素の欠乏症が中心で,いかにそれを改善するかに重点が置かれてきた.しかし,わが国の高度経済成長後は食事の欧米化,ファストフードの浸透によって脂肪の摂取量増加や質の変化がもたらされ,栄養の欠乏症から過剰症によって引き起こされる疾患が増加した.また,高齢社会となり高齢者の健康的な生活維持のため,高齢者向けの栄養管理も必要な時代になっている.さらには,高カロリー輸液法(total parenteral nutrition:TPN)や経腸栄養法(enteral nutrition:EN)の発達によって経口摂取不能患者の長期栄養管理が容易になっていること,一般の人々がサプリメントを容易に摂取することができるようになっていることなどから,特定の栄養素の欠乏症や過剰症のリスクを念頭に置いた診療を行う必要性がある.

 近年,わが国でもnutrition support team(NST)の活動が盛んに行われるようになっているものの,日常診療で常に栄養状態を把握し,病態に応じた栄養管理,治療が適切に行われているとは言い難い.まだまだ医師の臨床栄養学に対する認識は低いと思われる.

 そこで,「臨床栄養 Update 2011」と題し,各分野の専門家にご執筆いただいた.

 まず,わが国の食事,特に入院患者や高齢者へ提供されている食事の現状および課題について概説していただいた.
 そして,栄養評価の必要性を再認識し,臨床へ適切にフィードバックするためのポイント,さまざまな疾患の病態変化に応じた栄養療法を行うためのポイントについて解説していただいた.特に,過栄養による代謝性疾患の食事療法はエネルギーや脂肪の制限が中心で患者個々の栄養状態がないがしろにされる場合が少なくない現状を考慮し,代謝性疾患の病態に応じ栄養障害をきたさない,適切な栄養管理を行うためのポイントについて解説いただいた.また,TPNやENでの特殊な栄養管理やサプリメントの服用により引き起こされるリスクのある各種栄養素の欠乏症や過剰症に関して原因,症状などを解説いただいている.さらに,近年注目されている補助療法(機能性食品,プロバイオティクス)に関しての疾患治療に対する現在および将来の位置づけについて解説いただいた.

 座談会ではわが国の食事の現状,入院患者や高齢者に提供されている食事はエネルギー,三大栄養素の組成が個々の栄養状態や病態に応じて設定されているか,適切な栄養管理を継続するためにはどのような工夫が必要であるかについて討論していただいている.

 人々の健康維持や管理,疾患治療における食事療法・栄養療法の重要性について再認識し,今後の診療の一助になれば幸いである.

 最後に本特集号にご寄稿いただいた執筆者,座談会にご参加の先生方に深謝いたします.