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今月の主題

皮膚から内科疾患を疑う

田中 勝(東京女子医科大学東医療センター皮膚科)


 皮膚に現れる症状は多彩である.皮膚科以外の医師にとっては,見えているのに理解しにくい,その症状の背景にどんな疾患を考えたらよいのかわからないという,歯がゆい思いをすることがあるかもしれない.一方,患者にとっては目に見えて症状があるため,その訴えは明確であり,その原因は何かということを知りたいであろうし,そこに生じている痛みや痒みを今すぐに取り除いてほしいという願いも切実である.

 この特集では,代表的な皮膚症状の影に隠れている内臓の異常を解き明かしていく皮膚科医の考え方のプロセスを紹介し,広く内臓疾患を扱う内科医にとって,羅針盤となるものにしたいと思った.それゆえ,病歴の考え方と皮疹の診かた考えかたに重点を置くことにした.

 「この皮膚所見をみたら,この臓器の異常に注目しよう!」という,皮膚科医から内科医へのたくさんのメッセージの中から,皮膚科診断学の基本を少しでも理解していただけたら,嬉しく思う.内科医にとって,病歴と身体所見の診察が大切であるのと全く同じに,皮膚科医にとっても病歴と皮膚所見の記載が最重要ポイントである.皮膚科医は皮膚症状を手がかりとして,多くの知識に基づいて,科学的に思考し,必要な検査を追加し,最適な生検部位を決定する.皮膚科医がどのように「考えて」皮膚症状の先にあるものを捉えていくのか,知識だけではなく,その理由もなるべく提示することで,内科医が皮膚症状を「考える」習慣を持っていただけるように,皮膚所見の考え方を含めた執筆をお願いした.

 皮膚と内臓疾患の関連を特集した雑誌は多い.内臓疾患を反映する皮膚症状をデルマドローム(dermadrome)と呼ぶ.皮膚科学(dermatology)と症候群(syndrome)の合成語であり,ステッドマン医学大辞典にも載っていない.デルマドローム特集号では,通常,臓器別の編成となっており,皮疹の種類に基づいて章を分けたものは少なく,皮疹の考えかたを解説したものはほとんどない.そこで,本号では,「皮疹の考えかた」に多くの誌面を割くことにした.

 皮膚の病気は多彩であるから,欲張りな皮膚科医は,自ら診断し,自ら執刀し,自ら皮膚病理診断を行いたいと思うし,それが皮膚科医の理想かもしれないが,病気はしばしば皮膚科医の能力を遙かに超えたレベルで患者を襲う.患者を救うためには,けっして独り相撲を取らず,内科,外科,形成外科,婦人科,泌尿器科,精神科,病理などを中心とするあらゆる診療科の先生方と協力し,患者QOLのアウトカムを少しでも向上させることに努めなければならない.皮膚病は「わからない」,「治らない」と言われないように,原因を解明し根治させるため努力したい.内科の先生方にとっては,日常の内科診療の中で,疾患を抱える患者たちと一緒に苦労して病気と闘い,病魔を克服するために,本特集がわずかでも手がかりになれば幸いである.