今月の主題

呼吸不全の診療

阿部 直(東海大学医学部内科学系呼吸器内科)


 呼吸不全に対する在宅酸素療法が四半世紀前に導入されて以来,気管挿管せずにマスクを用いて行う非侵襲的陽圧換気療法(NPPV:noninvasive positive pressure ventilation)の普及,人工呼吸器の進化,新型インフルエンザに対する体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenator)による治療成功例の報告,また,パルスオキシメータ,血液ガス分析装置の普及など,最近の治療・検査方法の進歩にはめざましいものがある.

 本特集では,研修医・レジデント,第一線で診療に従事している医師・医療関係者の方々が呼吸不全の基本的事項からup-to-date な内容までを網羅的に理解しやすいように企画した.呼吸不全の病態生理を理解したうえで呼吸不全の診療ができるように,呼吸不全と関連する病態生理として,低酸素血症,高炭酸ガス血症,酸塩基障害,右心不全・肺高血圧症などについての項目を設けた.また,読者が呼吸不全の実地診療に本特集を活用できるように,急性,慢性を問わず,呼吸不全を招く代表的疾患を取り上げ,胸部単純X線写真,胸部CTを含めて症例を簡潔に提示するようにした.さらに,最近のトピックスとして,新型インフルエンザ肺炎,非侵襲的陽圧換気,新しい理学療法,およびECMOを取り上げた.執筆は各分野のエキスパートの先生方にお願いした.

 座談会では,在宅酸素療法と在宅人工呼吸による在宅呼吸管理を取り上げ,病診連携を中心に第一線で地域医療に従事する開業医,地域の中規模病院の勤務医,第3次医療に従事する大学病院の勤務医である3人の呼吸器内科医に病診連携をテーマに話し合っていただいた.

 呼吸不全の治療は,原因疾患の治療,生体の酸素化を目的とした治療,および支持療法が基本である.そのための酸素投与,人工呼吸などには,呼吸不全の病態生理の理解が不可欠である.本特集により,呼吸不全の理解を深めて診療に臨んでいただければ幸いである.また,呼吸不全の治療法の進歩に伴い,施行できる治療方法も医療施設ごとに変化しているので,最近の治療方法を理解したうえで病診連携,あるいは病々連携,診々連携を考えていただきたい.さらに,全国的な呼吸器内科医不足の今日,都市部での開業を考慮する際には,座談会に出席していただいた武知医師のような在宅呼吸管理を専門とする開業を選択肢の一つに加えていただければ望外の喜びである.